アスベストは天然に存在する繊維状の鉱物で、日本語で石綿という。珪酸マグネシウム塩を主成分とし、主な産出国はカナダ、南アフリカ、ロシアなどだ。軟らかく、耐熱・対磨耗性、対腐食性に優れているため、セメントと混合するなどして建材をはじめとして広範な分野で使われた。しかし、吸い込むと肺がんや中皮種などの健康被害を引き起こすおそれがある。また、建物の解体時の処置が十分でないと、大気中にアスベストが飛散する危険性がある。
アスベストについてわが国では安全衛生関連の法令や通知などにより規制・管理されていたが、対策は不十分だった。また、2005年にはクボタ旧神崎工場での大規模なアスベスト汚染が明らかになり、大きな社会問題となった。このため、2006年に大防法が改正され、アスベストを使用する建築物だけでなく工作物についても、解体作業による飛散防止対策を義務づけた。また、アスベストにより中皮腫や肺がんにかかったが労災対象にならない人を救済するための「石綿による健康被害の救済に関する法律」(アスベスト新法)も同年に施行された。
それでもアスベストが飛散したり、使用有無の事前調査が不十分であったりする事例が確認されている。また、工事の発注者が飛散防止措置の必要性を十分に認識せずに施工を求めるなど、施工者が対策を取りにくいなどの問題もある。このため、2013年に大防法が再び改正され、飛散を伴う解体工事の届出義務者を施工者から発注者に変更した。また、工事の受注者に事前調査の実施と発注者への調査結果の説明を義務づけた。さらに、都道府県知事等による立入検査の対象に建築物等を、報告徴収の対象に発注者又は自主施工者を追加した。