"地球温暖化など、人間の活動に伴って進行する環境問題への対応が急がれているなか、ヒートポンプという技術が注目されている。ヒートポンプは、温度の低い熱源から熱を吸収して、高温の熱源を加熱するのに使う装置だ。水をくみ上げるポンプのように、低いところから高いところへ熱(ヒート)を運ぶ仕組みからこう呼ばれる。ヒートポンプ技術を使うと、大気や地中、下水など周囲の熱を取り込んで別の場所に移して放出することで、一般的には利用しにくい低温の熱エネルギーを高い効率で活用することができる。ヒートポンプのなかでも、家庭用、業務用ともに導入が進んでいるのがエコキュートだ。
給湯は、家庭におけるエネルギー消費の約3割を占める。エコキュートの正しい名前は、「自然冷媒ヒートポンプ式電気給湯器」。電気と大気中の熱を使ってお湯をわかす給湯器で、冷媒にはCO2を使う。大気中の熱を効率よく水に移すことで、これまで主流だった燃焼式の給湯器と比べて、一次エネルギー使用量を約3割低くおさえ、光熱費の大幅削減を実現した。また、二酸化炭素(CO2)の排出量も約半分に減らすことができる。エコキュートは、本体のヒートポンプユニットと、お湯をためるタンクユニット、リモコンなどからなる。現在ではさまざまなメーカーから製品として提供されているが、電力中央研究所と東京電力、デンソーとの共同研究によって実現したものだ。同研究所は、1980年代からヒートポンプの研究開発を進め、2001年に各社と共同でエコキュートの開発に成功した。最近は、たくさんのお湯をためる必要がないエコキュートや、給湯だけでなく床暖房や浴室乾燥などの機能をもつ多機能なエコキュートもある。
エコキュートは、性能の高さと、環境にやさしい技術であることに加えて、料金が昼間の3分の1である夜間電力を主に使うこともあり、急速に普及している。電気事業連合会の試算によると、エコキュートの累積普及台数は2006年度末で83万台に及び、これはCO2にして約60万tの削減に相当するという。また、2008年3月に改定された京都議定書目標達成計画の中で、政府は520万台という導入目標を掲げている。エコキュートの設置に関する支援としては、経済産業省(資源エネルギー庁)の「高効率給湯器導入促進事業」がある。これからエコキュートを住宅に設置して使う予定の人に、エコキュート導入補助金として購入費用の一部を交付するもので、金額は4万2000円の定額だ(2008年)。多治見市のように独自の補助金を出す自治体もある。
一方、「潜熱回収型高効率ガス給湯器」の開発も進められ、こちらは「エコジョーズ」と呼ばれている。ガス給湯器でお湯をわかす時に発生する排気ガスを捨ててしまわず、熱を回収して再利用することで、従来約80%だった熱効率を約95%にまで高めることを可能にしたものだ。このように、電気やガスを効率よく使ってエネルギーを節約する技術の実用化が進んでいる。