「ゴジラ生誕70周年記念 ゴジラ・THE・アート展」が、六本木ヒルズ森タワー52階の森アーツセンターギャラリーで2025年6月29日(日)まで開催されている。戦後の象徴ともいえるゴジラを、現代のアーティストたちがそれぞれの感性で捉え、“ゴジラとは、何か。”を見つめ直す。怪獣というイメージだけでは語れない、新たな視点でのゴジラと出合える展覧会だ。
「ゴジラ・THE・アート展」エントランス
本展のキュレーターを務めた金秋雨さん
■ゴジラって、何者?
1954年、ビキニ環礁での水爆実験や第五福竜丸事件をきっかけに誕生したゴジラ。巨大な体と唸り声で、戦後の不安や核の脅威を映し出す存在として登場した。
東宝映像美術が手がけた、ゴジラとアートが融合したモニュメント。破壊し尽くされた街の上に初代ゴジラが君臨する
当初は「ちょっと変わった映画」としてそれほど注目されていなかったが、公開後には予想を超える反響を呼び、社会の感情を代弁するような存在へと変化していった。着ぐるみのゴジラスーツは和紙や竹などを用いた職人の手作業によるもので、今見てもその重厚感は印象的だ。
映画監督の木村太一さんによる映像作品は、歴代のゴジラ作品と咆哮、音楽をミックス。ゴジラが目の前に迫る大迫力の映像は、観るものを惹きつけてやまない
その後、時代の変化にあわせて表現手法も進化し、近年では『シン・ゴジラ』などCGを活用した作品も登場。災害や政治をモチーフとしたストーリーが話題となった。ゴジラは今もなお、時代の空気を鋭く反映する存在として、多くの人の関心を集めている。
■アーティストたちが見つめたゴジラ、その知られざる姿が現れる展覧会
この展覧会では、アーティストたちが多様なアプローチでゴジラを表現している。5つのテーマに沿って構成された展示空間には、個性あふれる作品が並び、見るたびに新たな発見がある。ゴジラに対するこれまでの印象が変わるような、視点の広がりを感じられる内容だ。
エントランスに展示された、初代ゴジラの造形を検討するために作られた雛型の再現立像 / 展示風景
第1章:近代の蒐集として
この章では、3人のアーティストがそれぞれの視点で“ゴジラ”に向き合い、記憶や感情の奥にある姿を表現している。
ゴジラが破壊した展示室をイメージした空間から、いよいよ本編がスタートする / 展示風景
入り口正面に展示された横尾忠則さんの『PARADISE』は、瓦礫、怪獣、群衆が入り混じる混沌とした画面に、破壊と再生のエネルギーがあふれている。続く福田美蘭さんは1954年の映画ポスターをもとに、現代の視点で構成し直し、社会不安や集団心理を描き出す。
『PARADISE』 横尾忠則さん / TM & (c)TOHO CO.,LTD. (c)Tadanori Yokoo
O JUNさんの『Rays』は、『ごじら』と『ビル群』の2作品からなる。幼少期の記憶をもとにクレヨンで描かれた『ごじら』と、紙工作で構成された『ビル群』は、どちらも“ゴジラ”ではなく、記憶の中にある「ごじら」の姿を表している。
『Rays』 O JUNさん / TM & (c)TOHO CO.,LTD. (c)O JUN Courtesy of Mizuma Art Gallery
O JUNさん
それぞれ異なる手法ながら、「ゴジラとは、何か。」という問いに真摯に向き合い、個人の記憶や社会の背景を通して、その姿を探っている。
第2章:イメージと咆哮
この章では、写真と版画という異なる方法でゴジラをとらえている。風間サチコさんの『伏龍岩礁帯No.5』は、静かな風景の中に描かれたゴジラを思わせる岩などのモチーフを通して、戦後日本の記憶を呼び起こす。川田喜久治さんの『ロス・カプリチョス インビジブル』は、都市の空や風景をとらえた写真作品。どこか不穏な空気が漂い、ゴジラの「ぎゃおぉおおおん……」と重く、遠く、心臓の奥に響く咆哮が遠くで響いているような印象を残す。
『ロス・カプリチョス インビジブル』 川田喜久治さん / (c) Kikuji Kawada, Courtesy PGI
直接的な描写は少なくても、作品を通じて観る者の中にゴジラの存在が浮かび上がってくる。言葉を使わずに伝わるイメージの力を感じる展示だ。
第3章:美しい廃墟
特撮映画のセットを思わせるミニチュアや、木彫による大型作品など、立体的な作品が並ぶこの章では、破壊された都市やその中に残るものに目を向ける。
TokyoBuildさんのミニチュア作品群 / 展示風景
TokyoBuildさん
TokyoBuild(東京ビルド)さんのミニチュア作品群は、建物の細部まで作り込まれており、見る者にリアルな都市の姿を想起させる。小谷元彦さんの『the One ―呉爾羅(仮設のモニュメント6)』は、彫刻と特撮の融合を感じさせる存在感のある作品だ。
『the One ―呉爾羅(仮設のモニュメント6)』 小谷元彦さん / TM & (c)TOHO CO.,LTD. (c) Motohiko ODANI
小谷元彦さん
現実には存在しない景色でありながら、どこか懐かしさを感じるような表現が続き、フィクションと現実の境界をあいまいにしていく。
第4章:我々は、何を見ているのか
この章では、観客自身が「見る」という行為について考えさせられる作品が登場する。青柳菜摘さんの『NNC ―きょうの出来事β』は、LEDや映像を用いて、情報社会の中でのゴジラの存在を再考させる。
『NNC ―きょうの出来事β』 青柳菜摘さん / TM & (c)TOHO CO.,LTD.
青柳菜摘さん
佐藤朋子さんの『オバケ東京のためのインデックス 序章』は、岡本太郎さんの都市論『オバケ東京』をもとに制作された映像作品。アーカイブ映像やテキストを組み合わせ、都市と人の関係を問い直す内容になっている。
『オバケ東京のためのインデックス 序章』佐藤朋子さん / 展示風景
インスタレーションやパフォーマンスも空間に点在しており、展示を受動的に鑑賞するだけでなく、能動的に関わることが求められる。視点の変化を促す体験が用意されている。
ゴジラ×ポップカルチャーの熱量「GODZILLA THE ART by PARCO」
2023年から渋谷PARCOで展開されてきたアートプロジェクト「GODZILLA THE ART」では、さまざまなアーティストが参加し、それぞれのスタイルで現代のゴジラを表現してきた。
『“GODZILLA VS MR.SHIRAI”』COIN PARKING DELIVERYさん / TM & (c)TOHO CO.,LTD.
『Godzilla Hammer』大平龍一さん / TM & (c)TOHO CO.,LTD. (c) Ryuichi Ohira Courtesy of NANZUKA
映像技術や表現手法の変化に合わせ、社会や時代を映すゴジラの姿を紹介。ポップカルチャーとアートが交差しながら、今の時代にしか生まれ得ないゴジラ像が形になっている。
『I Like Cats + Godzilla』 James Jarvisさん / TM & (c)TOHO CO.,LTD. (c)James Jarvis Courtesy of NANZUKA
『Godzilla』 浅野忠信さん / TM & (c)TOHO CO.,LTD. (c)Tadanobu Asano Courtesy of NANZUKA
■ゴジラの咆哮が聞こえてきそうなオリジナルグッズのラインナップも注目
展覧会に来たら、やっぱり欲しくなるのがグッズ。ここでは、グラフィティアーティストのエリック・ヘイズや、絵本作家のキューライスとのコラボアイテムが並び、思わず心が踊るアイテムがそろっている。
「HAZE I GODZILLA 1975 S/S TEE」7700円
「フラットトート」各4070円
「ビニールポーチ」2420円
「アクリルキーホルダー」990円
Tシャツ、トート、フィギュアまで幅広くそろい、展示で感じた興奮や感動をそのまま形にして持ち帰ることができる。さらに、エリック・ヘイズ描きおろしの『ゴジラ カードゲーム』PRカードが来場者に配られる企画も。
来場者に無料配布されるHAZE描き下ろしのカード(なくなり次第終了)
ゴジラのあの咆哮が聞こえてきそうなアイテムの数々は、ファンならずとも手にしたくなるはず。
■ゴジラを食べよう!ゴジラが主役の限定グルメも話題
会期にあわせて六本木ヒルズでは、「ゴジラ」へのリスペクトが随所に込められた、“食べるアート体験”が広がっている。
ラ ブティック ドゥ ジョエル・ロブションの「ゴジラフィナンシェ」900円。カタカナのロゴとゴジラのシルエットがプリントされている
「六本木ヒルズ VSゴジラ SPECIAL MENU」のうちのテイクアウトメニュー
六本木ヒルズ内の飲食店12店舗では、ゴジラをテーマにした全13種類の「ゴジラVS六本木ヒルズ」スペシャルメニューが登場。チョコチップとカカオパウダーで背中を再現した「ゴジラのごつごつ最強パン」(信濃屋)や、揚げワンタンを背びれに見立てた「ゴジラあんかけ黒炒飯」(梅蘭)など、見た目と味の両方で楽しめる料理がそろう。そして、激辛カレーパンやゴジラの足跡型ドーナツなど、遊び心をくすぐるテイクアウトメニューにも注目が集まる。対象メニューを注文すると、六本木ヒルズ限定のゴジラステッカーがもらえる特典もある。
期間中に「ゴジラVS六本木ヒルズ」のスペシャルメニューを購入・飲食すると、六本木ヒルズ限定のゴジラステッカーがもらえる(なくなり次第終了)
さらに、展覧会場と同フロアのカフェ&レストラン「THE SUN & THE MOON(Cafe)」では、展覧会と連動した特別メニューが用意されている。
「赤と黒」をテーマに掲げた、「THE SUN&THE MOON(Cafe)」の限定コラボメニュー
スモークサーモンのムースにパイを添えた前菜「Rouge et Noire」や、ゴジラの背中を思わせるごつごつバーガー「瓦礫と咆哮(GODZILLA BURGER)」など、「赤と黒」をテーマにした料理を堪能できる。竹炭メレンゲを使ったデザートや、赤から黒へと色が変化するモクテルなど、料理で味わう迫力満点のゴジラアート体験にも注目したい。
Rouge et Noire(スモークサーモンのムースにパイを添えて)2980円。カットした野菜によって、「ゴジラ」の文字が表現されている
Chemistry Red yet Black(Red, Yellow, Blue)-赤でありながら黒-(赤と黒のモクテル)1430円。添えられた液体をグラスに注ぐと、全体が黒く仕上がるユニークな1杯
「あなたにとって、ゴジラって何?」
そんな問いかけとともに始まるこの展覧会は、2025年6月29日(日)まで。アートに詳しくなくても楽しめる内容なので、この機会にぜひ足を運んでみてほしい。
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取材・文・撮影 = 北村康行