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キーワードは“人間らしさ”。スターバックスのアートとは?

  • 2024年2月21日
  • Walkerplus

全国に約1900店舗を展開するスターバックス。オフィス街や駅、サービスエリアやショッピングセンター、リージョナル ランドマーク ストアや公園内店舗とそれぞれに特色ある店づくりがされている。温かみがあり居心地の良い空間を生み出している要素のひとつに、アートがある。スターバックスのサイレン、コーヒーチェリーやコーヒー生産地などが、さまざまなアートで表現されている。

これらはどのようにデザインされているのだろう。店舗開発を担当するスターバックスのストアバリューエレベーション本部 ストアデザイン・コンセプト部の部長・江藤希理子さんに話を伺うと、見えてきたのは「人間らしさ」というキーワードだ。

■スターバックスにとってのアートとは?
「人々の心を豊かで活力あるものにするために―
ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」

これは、スターバックスが掲げるMISSIONだ。店舗で働くパートナー(従業員)も店舗デザイン担当者もこのMISSIONを胸に行動している。スターバックスのアートの多くも、「私たちのMISSIONに共感していただいたアーティストに、スターバックスをテーマとした作品を依頼しています」と江藤さん。アートは米シアトルの専任チームが若手アーティストを中心に依頼して一元管理し、全世界で共有・使用している。

スターバックスのアートとの向き合い方を示す言葉がある。「celebrate(セレブレート)」だ。
「木やコンクリートなどをはじめ素材をどう扱い、その良さをどう生かすかを考えて使うことを、『素材をセレブレートする』と表現しています。アートや素材がそれ単体だけでなく、店内のデザインとマッチしより良いものとして世に出してあげるという意味合いですね」

江藤さんは、アートは「店舗の壁をただ埋めるためのものではない」と語る。店舗全体のレイアウトや空間構成を考えるとき、お客やパートナーが見る位置、そしてそこから受け取るストーリーを想像する。だからこそ店舗を設計する際は、最初からどのようなアートを置くかを想定する。そうすることで店のテーマやテクスチャーと調和させ、居心地の良い空間を生み出しているのだ。
「アートは、コーヒーと同じく人の心を豊かにするもの。かつ、不完全さや感情を含む人間らしさのあるものです」

■ルールはない。一人ひとりが実現したいことを考え、実行する
「スターバックスは、地域とのつながりを、店舗で主体的につくっていくことが認められています。私たちストアデザイン・コンセプト部も“地域に溶け込む”ことを重要視しています」(江藤さん)

そのためにまず必要なのが、出店する地域を知ることだ。

出店が決まると、営業担当者などがその地域で暮らす人、育まれている文化などを店舗デザインチームと共有し、設計の担当者が「表現におけるキーワード」「環境への配慮」「地域との関連性を考慮」「常に進化していく」ことや区画の条件に基づき、デザインする。どのような店が求められているかを、担当者一人ひとりが考え、導き出していく。しかしそこに、ルールはない。

どのようなアートを使い、どのような店舗にするのか、「最低限のガイドラインはありますが、ルールはありません。自分で考えることが大切。それが結果として、新しい表現や方法の発見につながっていきます」と江藤さん。

例えば、東京湾に面した、よこすか海岸通りにある「スターバックス コーヒー 横須賀大津店」(神奈川県)。2階に上がると、木の天井や壁の色や柔らかさと対比するように、大きなガラスの窓枠やその向こうに広がる海の青が飛び込んでくる。まるで1枚のフレームのように東京湾を取り込み、景色を引き立てている。地域の自然資源をもアートとして生かした、この土地ならではの空間だ。

窓の反対側は青いグラデーションにペイント。焙煎機やコーヒーチェリーなどのモノクロの写真やむき出しの鉄骨がインダストリアルな雰囲気を保っている。

担当者が向き合うことで、設計という仕事からはみ出すこともあるという。沖縄県にある「スターバックス コーヒー 沖縄本部町店」のアートはとてもユニークだ。店舗のオープン前から海岸のゴミ拾い活動を通してパートナーと地域の人たちが交流を持ち、拾ったゴミで子どもたちが工作をするワークショップを開催。その作品を使って大きな魚のアートを完成させ、展示している。

「スターバックスのパートナーは、自分が成し遂げたいことは何かということを常に考えて、スターバックスにいる理由をそれぞれが持っています。地域を愛し、地域の人々とともに歩んでいく。地域環境を共に考えていくこと。沖縄本部町店の設計担当者にとって、自分のやりたいことであり地域のためになるという強い思いで、主体的に行動しています」
一人ひとりがその地域と向き合うことでつくり上げる店舗だからこそ、人間らしさが宿り居心地の良さが生まれているのだ。

■アートの先につながりが生まれる
店舗によっては独自にアーティストに制作や展示をお願いすることもある。そのひとつが、大分県にある「スターバックス コーヒー 別府公園店」だ。店内には伝統工芸の竹細工で地元の職人が手がけた照明、地元木材を使ったテーブルなどがしつらえられている。その中でひときわ目を引くのが、2メートルを超える巨大な彫刻。大分県佐伯市出身のアーティスト、桑原ひな乃さんの作品だ。

温泉街として知られる別府は、フェスなどが開催されるアートの街でもある。江藤さんによると設計担当者は、この街の特徴のひとつをアートととらえて店舗をデザインし、公園の中という特殊な場所で、地域との関連性のあるものを置きたいと考えたという。そこで白羽の矢が立ったのが、当時はまだ京都芸術大学の学生だった、桑原さんだ。

「これは卒業制作の作品で、制作活動は学生の時だけだと、悔いのないようにという気持ちで挑んだものです」と桑原さん。だが、この展示を機に卒業後も制作活動継続を決意。この春には、京都、埼玉を経て、ここ別府に活動拠点を移す予定だ。そして未来に向け、こう想いを語った。
「大分が大好き。これまでの地元を題材にした現代美術から、次は現代美術を通して、地元を知ってもらえるきっかけを生みだせるアーティストになりたい」

そんな桑原さんが拠点を別府に移す後押しとなったのは、多くの人との出会いで、「呼ばれている気がした」という。そのきっかけは、別府公園店だった。別府をアートの街として浸透させた、NPO法人BEPPU PROJECTの代表理事・中村恭子さんとの出会いだ。
「別府公園店でこの作品を見て桑原さんを知り、ずっと気になっていたんです。そこで、新進気鋭のアーティストが集結する『Art Fair Beppu』を新たに立ち上げるにあたって、声をかけさせていただきました」と中村さんは振り返る。

「別府公園は、100年以上前に整備され、戦前戦後といろいろな意味を持ってきたエリア」と中村さん。散歩やジョギングする人が行き交い、春には花見をし…と、市民にとって、ここに在ることが当たり前の日常となっている。そんな場所だからこそ、地域に溶け込むのは難しいだろう。しかし中村さんは別府公園店の印象を、「今、この街で生きている人たちの空間だと感じる」と表現する。

「表面的なことだけではなく、地元に目を向けて一緒にお店を作り上げていこうという姿勢が、空間やパートナーの皆さんから感じられる。その象徴として地元のアーティストが採用されている」と中村さん。

一杯のコーヒーを楽しむ空間が、居心地の良いものであると同時に、アートと出合うきっかけの場所となり、人と人とをつなぐ架け橋にもなっている。

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