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60歳独り身レズビアン。自分らしく生きる主人公を描く漫画に「いろんな人を肯定する作品」「誰も描けなかったジャンル」と反響【作者に聞く】

  • 2023年8月29日
  • Walkerplus

60歳を迎えた今村幸は、レズビアンで独り身。10年以上、恋人やパートナーはいない。寂しさや不安を感じることもあるけれど、自分らしく毎日を過ごしている。セクシュアルマイノリティであり、シニア世代のシングル。漫画「ひとりみです」は、そんなひとりの女性に焦点を当てた作品だ。

作者は、百合漫画やセクシュアルマイノリティをテーマにした作品を多く手掛けている漫画家のAKIKO(@akicocotto)さん。今回は第1話の一部を紹介するとともに、AKIKOさんに漫画を描いたきっかけや、作品のこだわりなどを聞いてみた。

■20年温めていた独り身レズビアンの物語。「あなたがこの世界にいることをちゃんと知っているよ」
独り身でレズビアンの今村幸が、還暦の誕生日を迎えたところから「ひとりみです」の物語は始まる。現在、電子書籍やnoteにて第1話が配信中で、セクシュアルマイノリティである中高年のシングル生活をテーマに、今後シリーズ化して描かれる予定だ。AKIKOさんが今回の作品を描こうと思ったきっかけは何だったのだろうか。

「独り身レズビアンのお話は、それこそ20年くらい前からずっと描きたいと思っていました。理由はシンプルで、もともと『女性のひとり暮らし』がテーマの作品が大好きで、私自身も恋愛対象という意味も含めて女性が好きなので。ただ、あまりにも需要が少なすぎて、出版社に企画を出しても通らないだろうとずっと諦めていました。でも歳をとってきて、体調も崩しがちになったりして、私が漫画を描ける残り時間はそんなに長くはないことに気づきまして…。『体が動く今のうちに自分が描きたい漫画を描いておきたい!後悔しないために!』と思ったのがきっかけです」

「レズビアンが登場する漫画」と聞くと、若い女性の恋愛物語を想像する人が多いのではないか。AKIKOさんはそのイメージこそ、今回の作品の主人公が恋愛とは距離を置いた60歳女性となった理由だと語る。

「若くなくても、恋愛をしていなくても、レズビアンはレズビアンなのです。そして恋愛以外にもいろいろな喜びと悲しみがあるひとりの人間なのです。異性愛者と一緒で、同性愛者にも恋人やパートナーを持つ人もいれば独り身の人もいます。そんな当たり前で大切なことを忘れそうになってしまう。だから『あなたがこの世界にいることをちゃんと知っているよ』というメッセージが必要だと思いました」

■時代背景とともに人物像を丁寧に描く。海外からも多くの反響が
第1話は、幸が今までの人生を振り返っていくストーリー。LGBTQ+という言葉が浸透してきた現代とは違い、幸が生きてきたのは、レズビアン、そして女性という立場でも、固定観念が強く社会に根付いていた時代であった。AKIKOさんが作品を描くときに大切にしたことや、こだわりについて聞いた。

「ストーリー作りでこだわったのは、主人公である幸さんの生きてきた時代背景ですね。私より少し年上の設定なので、彼女が多感な時期を過ごした昭和後期から平成初期がどんな時代だったのか、当時の日本の女性観やレズビアンコミュニティの様子なども年表にして、人物像をふくらませていきました。作画でのこだわりは、幸さんの皮膚のたるみやシワの描写です。彼女が60年間がんばって生きてきた証なので、大切に愛しさを込めながら線を引きました」

作品を読んだ読者からは、「いろんな人を肯定する作品だと思いました」「誰も描いていない、描けなかったジャンル」などの声が寄せられている。また、読者は国内にとどまらず、作品は英語版でも出版されている。

「SNSで初めて作品の告知をしたときに、海外の方々からの反応が予想以上に多くて驚きました。『これは私のこと?』『未来の私だ…!』『英語版はないの?』など。それを見てすぐに英語版の準備にとりかかりました」

今後の展開については、「幸さんのその後を語りつつ、彼女を通していろいろなタイプの“ひとりみさん”が登場する予定です」と教えてくれた。最後に、AKIKOさんに今後の創作活動での展望を聞いた。

「しばらく商業媒体での活動はお休み予定です。この『ひとりみです』シリーズと、もうひとつ『バイなのに倍モテないッ』というこれまたニッチな個人出版シリーズに集中するつもりです。どちらもビジネスとしては需要が少なすぎるので書籍化等はないと思いますが(笑)。でもだからこそ、今はその少数の人たちに向けて作品を届けたい。そんな自分の心に従って、創作活動を続けていこうと思います」

漫画「ひとりみです」は、現在第2話が準備中だ。AKIKOさんの描く60歳、独り身、レズビアン、そして等身大のひとりの女性として生きる幸の物語。続きを心待ちにしたい。

取材・文=松原明子

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