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ご当地グルメ「よこすか海軍カレー」、“牛乳がセット”なのはなぜ?カレーで街おこしに成功したワケ

  • 2023年8月10日
  • Walkerplus

海上自衛隊やアメリカ海軍などの施設があり、“基地の街”として知られる神奈川県横須賀市。しかし、一時期から横須賀は“カレーの街”として広く知られるようになった。

その象徴と名高いのが、「よこすか海軍カレー」。横須賀市、横須賀商工会議所、海上自衛隊 横須賀地方総監部によって1999年に発足された「カレーの街宣言」と合わせて定義づけられたもので、当時、カレーによる街おこしは全国初の試みだったそうだ。

今では横須賀市内はもちろん、全国的にも人気の「よこすか海軍カレー」だが、1エリアのカレーがここまで有名になったのはなぜなのだろうか。今回は、カレーの街よこすか事業者部会の鈴木孝博部会長に話を聞いた。

■大行列を生んでいた旧日本海軍のお手製カレー
1999年に実施された横須賀市の「カレーの街宣言」および「よこすか海軍カレー」プロジェクトがさらに広がりを見せたきっかけは、地元の年末恒例イベントにあったという。

「毎年の大晦日に、地元にあるヴェルニー公園という場所でカウントダウンのイベントがあるんですよ。そこでは新年を迎えると花火が上がったりするんですが、その際、海上自衛隊の方々が来場者に無償でカレーを振る舞っていたんですね。そのカレーが本当においしくて、毎年大行列ができていたので、『このカレーを地元の街おこしに活用したらどうか』というアイデアが生まれ、1999年に『カレーの街宣言』および『よこすか海軍カレー』のプロジェクトが立ち上がりました」

日本には旧軍港4市として神奈川県横須賀市、京都府舞鶴市、広島県呉市、長崎県佐世保市があるが、当時すでに舞鶴市と呉市では「海軍肉じゃが」、佐世保市では「海軍ビーフシチュー」をご当地グルメとし、街おこしを実施していた。

これを受けて、横須賀市でも海軍からのレシピをもとに「よこすか海軍カレー」を広めるに至ったわけだが、その理由には多くの人が知らない事実もあるという。

「カレーライスって、日本人に馴染み深いメニューですよね。諸説ありますが、そのカレーライスを庶民に広めたのは旧日本海軍だったと言われています。ルーツも意義深いものだったため、『よこすか海軍カレー』を立ち上げることに決まりました」

■「よこすか海軍カレー」の定義とは?牛乳とセットの理由
立ち上げにあたり、旧日本海軍の軍隊食のレシピとして採用されていた「海軍割烹術参考書」(1908年発行)を要約し、「よこすか海軍カレー」の定義を明確にすることにした。

「おおまかにいうと、牛肉または鶏肉、ニンジン、タマネギ、ジャガイモ、塩、カレー粉、小麦粉を使ったカレーです。豚肉は認めません。また、食べるときは必ずご飯にかけること、そして、サラダ、チャツネなどの漬物類と合わせて、牛乳もセットで摂ることとしています」

サラダやチャツネの副菜はわかるものの、ここで意外なのが牛乳だ。

「旧日本海軍では、脚気(かっけ)が流行った時期がありました。そこで、イギリス海軍で提供されていた、栄養バランスのいいカレー風味のシチューに小麦粉でとろみをつけ、ライス にかけた軍隊食を取り入れました。さらに、海上自衛隊では栄養バランスを考慮してサラダと牛乳をつけて提供されるため、よこすか海軍カレーもそれに倣い、サラダと牛乳をセットで提供することをルールとしています。また、遠洋航海などで曜日感覚を失わないために、 今も毎週金曜日にカレーを食べる習慣があります」

■“半信半疑”が“確信”に変わった「よこすかカレーフェスティバル」
1999年、前述の定義をもとに、まず地元の数軒の飲食店が「よこすか海軍カレー」を出すようになった。しかし当初はどの飲食店も半信半疑のまま、このメニューを出していたという。

「それまで、横須賀では特別カレーの消費量が多いわけでもなかったですし、飲食店の皆さんは『これってどうなの?』という感じでしたね。それでもメニューを出してくださったわけですが、その半信半疑が確信に変わったのが、同年8月に市役所前公園で開催された『第1回よこすかカレーフェスティバル』でした。地元の飲食店の皆さんの協力のもと実施したイベントでしたが、そこで『よこすか海軍カレー』が結構売れて、メディアにも多く取り上げられました。結果的に、当初は数軒の飲食店だけが出していた『よこすか海軍カレー』ですが、『うちもやりたい』とお声がけいただくようになり、現在ではカレーの街よこすか事業者部会の市内約50店舗の飲食店で出されています」

ちなみに、横須賀市内の飲食店だとしても、勝手に「よこすか海軍カレー」を名乗ってはいけないルールになっているんだとか。名乗るためには前述の定義に基づいたうえで、カレーの街よこすか事業者部会の審査をクリアしなければならない。

「審査と言っても、『お前のところには認めん!』というようなことではなく、定義からズレていた場合は『ここはこうしてください』『こっちのほうがいいと思いますよ』と再度調整していただくなどしています。いろんな飲食店さんと『よこすか海軍カレー』を盛り上げていきたいと思っていますので」

こうして、地元でも認知されていった「よこすか海軍カレー」。実際に食べてみると、極めてオーソドックスな欧風カレーであるが、素材の風味を殺さない、優しい味わいだ。この普遍的な味わいから、のちにレトルトカレーも開発されるようになったが、当初は想定外の壁にぶち当たったという。

「『よこすか海軍カレー』のレトルトカレーを百貨店に売り込みに行くと、当時はたいてい断られました。その理由は、『海軍』というネーミングと『日章旗』からくるもので、『こういうものは陳列できない』と言われることが大半でした。思わぬ現実を前にレトルトカレーを広めるのは苦労を重ねましたが、やがて数多くのメディアが取り上げてくださったことによって認知が広まり、百貨店はもちろん、スーパーマーケットなどの小売店などでも扱っていただけるようになりました」

■「『横須賀といえばカレー』をさらに強化したい」
結果的に「カレーの街よこすか」および「よこすか海軍カレー」は、“カレーで街おこし”のモデルとなり、以降もさまざまな自治体が類似の取り組みをするようになった。また、「よこすかカレーフェスティバル」は、全国のカレーに関わる飲食店にとって憧れのイベントにもなったそうだ。

「日本には、カレーで街おこしをしようとする自治体が多くあります。そういった『ご当地カレー』ばかりを集めて実施するのが『よこすかカレーフェスティバル』ですが、ここで優勝することが、ある種のステータスのようにもなりました。今後はさらにブラッシュアップしていきたいと思っていますが、本当にありがたいことです」

鈴木部会長によると、コロナ禍が落ち着いた今、さらなる未来を描いているという。

「コロナ禍以前の『よこすかカレーフェスティバル』は、来場者6万5千人という大反響を得ていました。本当にありがたいことですが、どうしても『観光』的に認知されている側面も否めません。今後はイベントの復活と合わせて、横須賀市内からさらに『よこすか海軍カレー』を広めていきたいと思っています。結果的に、イベントなどの催事以外で『横須賀にカレーを食べに行こう』と思っていただける方が増えるとうれしいですね。もっと“カレーの街よこすか”を定着させていきたいです」

「日本の家庭に浸透させたカレー」と言われ、横須賀市や海上自衛隊の熱い思いが込められた「よこすか海軍カレー」。2023年の夏は、カレーをメインとした横須賀旅の予定を立ててみてはいかが。

取材・文=松田義人(deco)

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