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“神戸らしさ”が息づくオリジナルのスタイルを追求。多くの人が交わることで絶えず変化を続ける、「Lima Coffee」

  • 2023年5月9日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

関西編の第61回は、神戸市中央区の「Lima Coffee」。店を構える栄町は、今もレトロなビルが数多く立ち並び、かつてのかつての港町の香りを残すエリア。2000年代初めに、点在するビルの中に小さなショップが集う“雑貨の街”として注目を集め、2010年代には、ロースターやスタンドが相次いでオープンし、今では神戸の“コーヒーストリート”の趣に。当時、街の変化を促した先駆け的な一軒が「Lima Coffee」だ。わずか4坪の小さな店から始まり、2020年に移転リニューアルした店は、いまや界隈の新たな拠り所として存在感を発揮。コーヒーを介して、多くの人が交わることで絶えず変化を続ける、「Lima Coffee」目指す“神戸オリジナル”の店作りとは。

Profile|橋本潤也 (はしもと・じゅんや)
19886(昭和61)年、兵庫県神戸市生まれ。インドネシアで事業に携わる兄を通じて、現地を訪れたことがきっかけでコーヒーに関心を持ち、配管技師の仕事から転身。神戸市兵庫区で個人の焙煎所を開業し、2014年に栄町に移転して「Lima Coffee」をオープン。2017年、香川県高松市に「Lima Coffee 瓦町店」を出店。2020年に本店を現在地に移転。2021年に高松市で2店目となる「仏生山珈琲 回」、2023年4月に、神戸で2店目となる「Lima Coffee & PLANT」を須磨区にオープン。

Profile|手島隆行(てしま・たかゆき)
19882(昭和57)年、兵庫県尼崎市生まれ。およそ8年のバーテンダー時代に、コーヒーの抽出も携わっていたことから、豆の焙煎に興味を持ち、橋本さんの誘いをきっかけに、「Lima Coffee」でロースターに転身。本店の店長・焙煎担当を務める。

■コーヒーに関わるきっかけを作ったインドネシアとの縁
神戸開港以来の繁華街・元町商店街の南側。かつては港湾・貿易関係の会社が集まった栄町は、今もレトロなビルが数多く立ち並び、往時の港町の香りを残すエリアだ。2000年代初めあたりからは、点在するビルの中に小さなショップが集い、おしゃれな“雑貨の街”として様変わり。さらに2010年代には、コーヒーショップの相次いでオープンし、細い路地に多彩な店が点在する、神戸の“コーヒーストリート”の顔も持つようになった。当時、街の変化を促したコーヒーショップの中の一つが「Lima Coffee」だ。

「歴史を感じるもの・場所が好きだったこともあって、港町とゆかり深い建物が多く残り、かつ新しいカルチャーが生まれる場所として、以前から栄町に魅力を感じていました」という店主の橋本さんは、配管技師からロースターに転身したユニークな経歴の持ち主。きっかけは、兄が事業を手掛けていたインドネシアとの縁だった。「兄がインドネシアの方と結婚した影響もあり、いずれは現地と日本の懸け橋となるような仕事をしたいなと思って、注目したのがコーヒーと熱帯の植物を扱うことでした。現地を訪ねると身近にコーヒー農園があり、初めて見た栽培時の赤い実と普段飲むコーヒーとのギャップに驚いて。それまでコーヒーにさほど関心はなかったんですが、その体験を経て、勢いで焙煎機を買って自分でも焙煎を始めたんです」と振り返る。

その後、兵庫区で小さなロースターとして創業し、1年かけて本格的な開業に向けた準備を経て、栄町に移転。幼馴染と共に立ち上げた店は、わずか4坪のスペースに焙煎機とカウンターを詰め込んだ、スタンド兼焙煎所としてスタートした。店名のLimaとは、インドネシア語で「5」の意味。コーヒーの味を構成する甘・苦・酸・香り・コクの5つの要素を表し、「人の五感を刺激するコーヒーで、暮らしを楽しくしたい」との思いが込められている。自ら産地を訪れて仕入れる看板銘柄、インドネシア・マンデリンを中心に多彩な産地の豆を揃え、スタンドでは珍しいサイフォンで新鮮な風味を提供。ユニークなスタイルで支持を得て、移転後は卸も徐々に増えていった。

■港町の歴史が息づく、古くて新しい街の拠り所
開店から3年。橋本さんが「大きな転機になった年」という2017年には、さまざまなご縁が重なり、香川県高松市に2号店を出店。さらに神戸市北区の新しい道の駅のカフェのコーヒーを手掛けるなど、コーヒーを通じて人の縁を広げ、地域密着の小さな店は4坪には収まりきらないほどに存在感を増していった。「香川に出店した店は、カフェスペースも備えた広い店ですが、それに対して、“本店がこの規模というのはどうだろう?”と思うようになって(笑)。その後は、栄町の店を大きくしたいという気持ちをずっとかかえていましたね」と振り返る。

そんな折に出合ったのが、現在「Lima Coffee」がある、年季を重ねた古いビル。やるならば、神戸らしい歴史を感じる場所で、と考えていたイメージにピタリとハマった。「まさに一目ぼれで、外観を見た瞬間、“あ、ここに移転しよ”って決めてました(笑)」。2020年に移転オープンした店は、元は銀行だったモダンな意匠、壁や装飾の一部を残してリノベートした空間に合わせて、家具や調度もアンティークをセレクト。入口すぐはカジュアルなスタンドに、さらに奥には、移転前になかったカフェスペースも併設。レトロな建築に今様の感性を取り入れた新たな拠点は、“本店”と呼ぶに相応しい空間へと生まれ変わった。

現在、コーヒーの品揃えは、定番のブレンド2種をはじめ、シングルオリジンは20種近くまで広がり、バラエティに富んだ顔ぶれに。もちろん、トップオブトップのスペシャルティコーヒーを吟味し、近年はアナエロビックなどの新しい精製プロセスを経た豆も積極的に取り入れている。とはいえ、メニューには豆の名称が並ぶのみで、説明の類は一切なし。「コーヒー好きだけでなく、いろんなお客さんに来てもらいたいので、ことさらコーヒーのことを打ち出したりはしてないんです」という、大らかなスタンスは創業時から変わらない“Limaらしさ”の一つだ。

その意味では、移転前から店の焙煎を担当する手島さんの存在も同様。バーテンダー出身のバリスタは少なくないが、ロースターへの転身はかなりレアケースだ。「以前働いていたバーでもコーヒーを出していて、どんな豆で淹れるか選ぶのが楽しくて。いずれ自分で焙煎して好みの味を作りたいと思っていた時に、橋本さんから誘いを受けたんです」と手島さん。もちろん、焙煎に携わるのは、「Lima Coffee」に入った時が初めて。それでも、「焙煎機の扱いは、実際にやりながら覚えてきました。それも、ある程度任せてもらって、自由にさせてもらえる店だったからこそ。好みとしては、風味にインパクトのある豆の方が焼いていて面白い。どういう個性を引き出すか、考えるのが楽しいですね。浅煎り中心の店が多いので中~深煎りを中心に、また飲みたくなる味、“Limaのコーヒーはひとクセある”というイメージを作っていきたい」。蘊蓄よりも、飲んだ時に店の個性をも伝えるコーヒーを。オリジナルな一杯は、型にはまらない発想から生まれている。

■コーヒーを通した人のつながりから生まれる“神戸オリジナル”
カフェスペースが広がったことで、コーヒーの友になるスイーツも充実。ご近所の人気店「加集製菓店」に特注する「カヌレ・ド・リマ」やドイツのマイスター資格を持つ職人が手掛けるバウムクーヘンなど、地元の店とコラボしたメニューは新たな店の名物に。華美なケーキではなく、あえてクラシックな洋菓子をメインに据えたのも、歴史を愛する橋本さんのこだわりだ。また、直近では、クロワッサン専門店として話題のベーカリーバカンスの食パンを使ったトーストもオンメニュー。さらに、調理・製菓の経験を持つスタッフも加入し、キッシュや焼菓子など自家製のメニューも徐々に増えている。「店や人のつながりが密なのが神戸の土地柄。そこから従来の神戸の魅力と一味違うカルチャーを作っていければ」と、今もコラボメニューや新提案のアイデアが進行中だ。

「うちは全部人のつながりで広がってきた店。開店当初はインドネシア推しの店でしたが、スペシャルティコーヒーの普及もあってコーヒーの幅が広がって。時代の流れにたまたま合っていたこともありますが、今まで体当たりでやってきたことが、店の血となり肉となっていった感があります。もちろん流行り廃りは必ずありますから、今もまだ体当たりで経験している最中ですね」

コーヒーは大きな柱ではあるが、橋本さんが開店前から構想していた熱帯植物・アガベの販売も3年前からスタートし、今春、須磨にオープンした新しい店は、アガベとアウトドアアイテムの販売も併設したショップとして、本格的な展開に力を入れている。「最初はコーヒー一本で来たけど、そこを突き詰めるのではなく、逆に異なる要素を取り入れて、他のジャンルに枝葉を伸ばしていくイメージ。もちろん、すべて本物志向のクオリティで。価値観は人それぞれですが、独自のスタイルを追求して、今は存在しないような店が作れたらと考えています。どこか尖っているところがあるのが、神戸らしい店の在り方だと思うので、Limaのカラーを出しながらずっと続く店を作っていきたいですね」

栄町界隈は、北に南京町、南にハーバーランドと、神戸を代表する観光地に挟まれながら、程よい距離感を持つエリア。週末ともなれば人通りも多く、「Lima Coffee」は街を回遊する人々の新たな拠り所になっている。「市内の人の流れをつなぐハブ的な存在として、この場所を生かして、もっと幅広い人が集まるようになってくれればうれしい」と橋本さん。地元の常連に交じって、観光客も出入りする店内は、開港以来、様々な人々が行き交った港町らしい雰囲気を感じさせる。神戸の歴史を留めた空間は、コーヒーを介してさらなる縁が広がる場所。何より、この店自体も、多くの人が交わることで、絶えず変化を続けている。

■橋本さんレコメンドのコーヒーショップは「FAVORITE COFFEE」
次回、紹介するのは和歌山市の「FAVORITE COFFEE」。
「店主の丸田さんは、神戸での仕事の待ち合わせ場所として、たまたまLima Coffeeに来てくださったのがご縁の始まり。うちのコーヒーを飲んで、お店で使う豆に選んでいただいて、今も交流が続いています。実は丸田さんの本業は、和歌山で人気のラーメン店を手掛けるオーナーさんで、『FAVORITE COFFEE』はその姉妹店としてオープン。カフェのメニューにも、こだわりのラーメンと同様の職人気質が感じられて、ローカルな人のつながりを大切にした店作りにも魅力を感じます」(橋本さん)

【Lima Coffeeのコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル5キロ(半熱風式)、ディスカバリー
●抽出/サイフォン、エスプレッソマシン(ラマルゾッコ)
●焙煎度合い/中浅~深煎り
●テイクアウト/ あり(550円~)
●豆の販売/ブレンド2種、シングルオリジン約20種、100グラム600円~

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治




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