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コーヒーで旅する日本/関西編|日々、新たなコーヒーとの出合いが生まれる、大らかな里山の憩いの場。「Cafe manna」

  • 2023年3月7日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも、エリアごとに独自の喫茶文化が根付く関西は、個性的なロースターやバリスタが新たなコーヒーカルチャーを生み出している。そんな関西で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

関西編の第55回は、“日本一の里山”と称される兵庫県猪名川町にある「Cafe manna」(カフェマンナ)。店主の長田夏季さんと母親の眞由美さんの親子で切り盛りする、開放感たっぷりの一軒だ。とはいえ、この店の醍醐味は美しい田園風景だけにあらず。Qグレーダーの資格を持ち、カッピングの競技会でも準優勝した長田さんが吟味し、焙煎するコーヒーは常時15~6種と実に多彩。鋭敏な味覚と細やかなサービスで個性派揃いのコーヒーの魅力を提案する、この店では、老若男女、幅広い世代のお客とコーヒーとの新たな出合いが、日々生まれている。

Profile|長田夏季 (おさだ・なつき)
1983(昭和58)年、大阪府生まれ。銀行に就職した後、母親と共にカフェを開業するべく、料理専門学校のカフェコースに入学。卒業後、UCC上島珈琲系列の飲食部門UFSに入社。神戸、熊本などの店舗で働く傍ら、Qグレーダーなどの専門資格を多数取得。競技会へも出場するなどバリスタとして経験を積み、2012年に「Cafe mannna」を開業。翌年のカップテイスターズ チャンピオンシップ(JCTC)で準優勝。

■母娘で作り上げた、開放的な里山のくつろぎの場
阪神間から一路、北へ。宝塚、川西など北摂の住宅街を抜けると、にわかに山の緑が深みを増してくる。“日本一の里山”と称される、猪名川町の田園風景の中にぽつりと現れる、「Cafe manna」の白い店構えは、童話の世界を思わせる佇まいだ。店の裏手の広々としたテラスから望むノスタルジックな風景は、街なかから1時間足らずとは思えない。

「建物は、元農家だった平屋を改装して、テラスのある場所は以前は庭だったんです」と、案内してくれたのは店主の長田さん。開店のきっかけは母親の眞由美さんが、仕事の引退後に同世代が気軽に集まれる場を作りたい、と温めていたアイデアが発端にある。「母は経営コンサルタントの仕事に就いていたので、店の運営のことは分かるけれど、コーヒーについては全くの専門外。そこで、私がコーヒーのことを学んで、一緒にお店を立ち上げようということになったんです」

とはいうものの、当時は銀行に勤めていた長田さんも、飲食店の経験はほぼなかったため、一から学ぶべく料理専門学校のカフェコースに入学。この時、特別講師として来校した、島根の名店・カフェロッソの門脇洋之さんが淹れたエスプレッソとカプチーノが、コーヒーの世界に誘われる入口となった。

「今まで飲んできたものとは別次元のクオリティ。あれほど感動する味はなかった」と、専門学校ではエスプレッソを手始めに、抽出方法によって変化する、多種多彩な味わいの表現に没頭していった。ただ、それだけでは、実地の経験が足りないと考え、卒業後はUCC上島珈琲系列の飲食部門UFSに入社。サイフォン専門店を皮切りに、神戸のイタリアン・バール、熊本のカフェと店舗を移りながら、バリスタとしてどん欲に経験を積んでいった。

日々、多くのお客に応対する仕事の傍ら、SCAJ(日本スペシャルティコーヒー協会)やIIAC(イタリア国際カフェテイスティング協会)が主催するコーヒーの資格を多数取得。さらには、日本で約200人しかいないという、コーヒーの評価を行う認定カップ審査員・Qグレーダーにも合格。また、各種競技会にも出場し、あらゆる機会に抽出技術やサービススキルを磨いていった。とりわけ、思い入れが強いのが、カッピングのスキルを競うカップテイスターズ チャンピオンシップ(JCTC)だ。「必要な出場資格を満たすのに時間がかかりましたが、カッピングセミナーに通う中で自信を深めていたので、出場できれば上位を狙えるのではと思っていました」と長田さん。開店から1年後の2013年に初出場すると、見事に準優勝。秘めた自信を、結果で形に残せたことは、今も大きな拠り所となっている。

■鋭敏な味覚で多彩な豆の個性を正確に捉えて提案
UFSにいた約2年間で得た経験に加えて、「Cafe mannna」開店後もさまざまな競技会に毎年ジャッジとして参加している長田さん。バリスタといえば、以前は抽出に特化した印象があったが、今では豆のクオリティの判断、すなわちカッピングは欠かせないスキルの一つだ。自店のコーヒーの味作りにも、これまで培ってきた鋭敏な味覚が力を発揮している。

「焙煎の方向性を決めるのは、最終的にカップに淹れた時の味のイメージ。素材のポテンシャルを捉えて、個性的な風味を引き出せるかどうかが一番大事なポイント」と長田さん。豆の品揃えは、インドネシア・マンデリン、インド・モンスーンといった定番人気から、蓮華の蜂蜜のような甘味が印象的なエチオピア・アジェレ、赤ワインを思わせる芳醇な香りを放つメキシコ・アナエロ・ワイニーなどの個性派まで、シングルオリジンが常時15~16種。スペシャルティグレードを中心に、バラエティに富んだ顔ぶれだ。

ただ、スペシャルティコーヒーにまだなじみが薄い土地柄、豆の蘊蓄(うんちく)やスペックよりも、景色を見ながら気軽にくつろぎたいというお客が大半。そこで、飲みやすさを重視して、焙煎度はすべて中煎りの仕上がりに。「焙煎度が同じでも、豆ごとの風味の差は出てくるもの。豆のスペック云々よりは、まずは、その幅広さを感じて、コーヒーを楽しむ入口にしてもらうというのがコンセプト。だから、中煎りに向いた豆が選択基準の一つになりますし、風味の差をよりはっきり分かる“クリーンカップ”を何より大切にしています」

毎月、新しい銘柄が入れ替わるというコーヒーの中には、ミャンマーやコンゴなど聞き慣れない産地の豆もあるが、それもまた興味を引き出すきっかけの一つ。「できるだけ違う種類を味わってもらいたいので、ユニークなキャラクターを持つ銘柄が多いですね。コーヒーのメニュー構成は、毎回入れ替える時に一から味を取って考えていくので、正確に味を捉えて提案していくのは、カッピングの経験が生かされている」と長田さん。この多彩な味の幅をコントロールできるのは、今まで膨大な種類のコーヒーを味わってきた積み重ねがあるからこそだ。

その上で、フレーバーがイメージしやすいように、プレゼンも丁寧な伝え方に腐心する。細かく風味を解説したメニューからも、長田さんのスタンスがうかがえる。「一般的に豆の持ち味に近いフレーバーを伝えることが多いですが、それが酸味、苦味、香りなどの、どこに由来しているかを分かりやすく示すことを心掛けています。例えば、柑橘とかベリーといった言葉をポンと出すのでなく、“こういう要素があるから、このフレーバーになる”という味の組み立てですね。逆に言えば、飲んだ時にはっきり感じ取れる特徴的なフレーバーを持つ豆を提案するようにしています」

■幅広い世代の客層に新たなコーヒーとの出合いを演出
盛りだくさんのコーヒーに加えて、メニューには眞由美さんが考案したランチや、長田さんが手作りするスイーツも充実。近隣で採れた野菜を使った、自家製カレーやキャロットケーキを目当てに訪れるファンも少なくない。中でも、店の看板メニューとして人気なのがティラミスだ。小瓶に入ったユニークな一品は、ティラミス世界一を決めるGran Concorso di Tiramisu'日本大会で、コーヒー店として唯一、トップ10に選出。マルサラ酒の代わりに、アルコールを飛ばした白ワインにコーヒー粉を浸け込み、生地自体に香味をまとわせた、芳醇でまろやかな味わいは、もちろんコーヒーとの相性も抜群だ。

店の目の前は、北は丹波、西は三田へと別れる分岐点にあり、斜向かいの道の駅を訪れる行楽客も少なくない。また、サイクリングロードとしても人気で、地元のレーシングチームが走るルートにもなっている。界隈を走る際は、この店でモーニングやランチの時間を組み入れることも多いとか。「チームの方々は開店当初からの常連さんで、今では結婚して家族で来て下さることもあります。時には、母に子育てのことを聞きに来られることもあって、店の一角が育児相談所みたいになっています(笑)」と長田さん。立地選びやインテリアを手掛けた眞由美さんは、介護士の資格も持っていることから、店内は完全バリアフリー。介護施設の方も来てもらえるように、という配慮も随所に行き届いている。

「お客さんの要望に、お応えできることはすべて応えるのが、サービスマンでもあるバリスタの仕事。私のコーヒーを飲みたい思って来て下さる方々に、コーヒーの楽しみを見つけていただければ」と長田さん。幅広い世代の人々を大らかに迎えいれる里山の拠りどころでは、日々、個性豊かなコーヒーとの出合いが生まれている。清々しい空気と緩やかな時間に抱かれながら、自分好みの一杯をあれこれ思案するのもまた一興。街なかとは一線画した、贅沢なカフェタイムを味わうためなら、ここまでの道のりも決して遠くはない。

■長田さんレコメンドのコーヒーショップは「Knopp」
次回、紹介するのは大阪市の「Knopp」(クノップ)。
「店主の吉田さんとは、JBCで選手として何度も顔を合わせるうちに、親しくなっていった間柄。彼女はうちのカレーが好きで、今もお互いの店をよく行き来しています。昨年はコーヒーカクテルの競技会、コーヒー イン グッド スピリッツ チャンピオンシップで、7年越しの優勝を獲得。技術もさることながら、目を見張るのはレシピの発想。焼茄子とコーヒーの取り合わせなど、創造の上を行く素材使いと、それをまとめあげる力はずば抜けています」(長田さん)

【Cafe mannaのコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル 1キロ(半熱風式)
●抽出/ハンドドリップ(ハリオ)、エスプレッソマシン(シモネリ)
●焙煎度合い/中煎り
●テイクアウト/ あり(580円~)
●豆の販売/シングルオリジン15~16種、200グラム1080円~

取材・文/田中慶一
撮影/直江泰治




※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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