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コーヒーで旅する日本/東海編|「From Seed to Cup」の理念を胸に、自分に何ができるのかを問い続ける。「スギコーヒーロースティング」

  • 2023年1月4日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも名古屋の喫茶文化に代表される独自のコーヒーカルチャーを持つ東海はロースターやバリスタがそれぞれのスタイルを確立し、多種多様なコーヒーカルチャーを形成。そんな東海で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

東海編の第3回は、愛知県高浜市にある「スギコーヒーロースティング」。オーナーの杉浦学さん、奥様でありバリスタでもある優子さん、ロースターの大島順司さんの3人が中心となり、人口5万人足らずの小さな町からコーヒーの魅力を発信している。父が興した自家焙煎珈琲店を受け継いだものの、おいしいコーヒーとは何か?という壁にぶち当たった20代。スペシャルティコーヒーを知り、おいしさの理由を知った30代。COE(カップ・オブ・エクセレンス)国際審査員として品質を見つめ続けた40代。そして50代を迎え、のどかな故郷に腰を据えてコーヒーと向き合う今。杉浦さんの歩んできた人生を振り返りながら、コーヒーマンとしての理想を探ってみたい。

Profile|杉浦学(すぎうら・まなぶ)
1969(昭和44)年、愛知県高浜市生まれ。両親が1977年に創業した自家焙煎コーヒー店「アイガーコーヒー」で、コーヒーに親しみながら成長。24歳ごろから家業を手伝うようになる。1999年、スペシャルティコーヒーとの出合いをきっかけに「スギコーヒーロースティング」をスタート。同業者と切磋琢磨しながらカッピング、仕入れ、焙煎技術、マーケティングなどを磨く。2008年から、COE国際審査員を務める。現地の生産者を訪ね、地元ではコーヒー教室を開催するなど、農園と消費者の架け橋となるべく精力的に活動を続けている。

■コーヒーのおいしさを届け、地域に愛されて45年
愛知県高浜市は、知多半島と海を挟んで向かい合った三河地方にある人口5万人弱の小さな町。この地で45年にわたって自家焙煎コーヒーを扱ってきた「スギコーヒーロースティング」が、実はコーヒー業界の最前線をいくスゴイ店だということは、あまり知られていないかもしれない。のんびりとした風景に映えるオレンジの外観は、一見してコーヒー店とは思えない。店を訪れる人の約8割がご近所さん。豆を買うついでにスタッフと世間話に花を咲かせ、1000円以上の購入でサービスされる無料コーヒーを飲んで、「ありがとね」と帰っていく。

1999年にスタートした「スギコーヒーロースティング」の前身は、1977年創業の「アイガーコーヒー」。オーナーである杉浦学さんの父が始めた自家焙煎コーヒー店だった。「当時はちょうど自家焙煎ブームで、コーヒーに親しむ人がいっきに増えたタイミング。父は、喫茶店などに焙煎した豆を卸す業務用コーヒーをおもに手がけていました。家にはコーヒーの香りがいつも漂っていたものです。社会人になって数年が経った24歳ごろから、父の体調が思わしくなく、家業を手伝うように。29歳の時、父が亡くなりました。小売に力を入れ始めたのはこのころからですね」と当時を振り返る杉浦さん。家業を継ぎ、コーヒーのおいしさに思い悩んでいたころ、世界的に巻き起こった高品質コーヒーの波に遭遇する。

■スタッフそれぞれがプロフェッショナルに!
オーナーとなってからの杉浦さんは、店を運営しながら有名店をまわってコーヒーの教えを請い、セミナーやブログで情報収集するなど積極的に知識を求め、どうすればコーヒーがおいしくなるのかを考え続けていた。そんななかで、全国各地にスペシャルティコーヒーを広めたメンバーが多く所属した「珈琲の味方塾」にたどり着く。のちに「JRN(ジャパン・ロースターズ・ネットワーク)」と改称し、仲間たちと切磋琢磨を続けていくことになる杉浦さんのホームグラウンドだ。この出合いを通じて、2001年にグアテマラで行われたCOEにおいて落札された豆を購入する機会を得た。「高品質コーヒーを知って、世界が変わりました。当時感じた『この本当においしいコーヒーをたくさんの人に知ってほしい』という気持ちは、今も変わっていません」と杉浦さん。

それからというもの、アメリカのカンファレンスやセミナーに参加し、ブラジルのオークションで豆を落札し、現地の農園を視察してダイレクトトレードを行うなど、杉浦さんの活動域は世界に広がった。そして、いかに高品質な豆を見極めて仕入れるのかを追及し、2008年からCOE国際審査員を務めるなど客観的に品質を評価するプロフェッショナルとして活躍するようになった。当時からともに店を支えていた優子さんはバリスタとしての技を競う「JBC(ジャパン バリスタ チャンピオンシップ)」に挑戦し、2012年にはセミファイナリスト、2014年にはファイナリストに。焙煎を担当する大島さんはカッピング技術を競う「JCTC(ジャパン カップテイスターズ チャンピオンシップ)」で2011年の日本チャンピオンに輝くなど、スタッフが一丸となってそれぞれの技術に磨きをかけた。

■客に喜ばれる瞬間がうれしい
技術を磨いた先には、地元で支え続けてくれた人々の姿がある。おいしいコーヒーを、自宅でも味わってほしい。そんな思いから、焙煎、店づくり、コーヒー教室の開催にも尽力してきた。「品質のいいコーヒーなのだから、それぞれの個性を体感してほしいと思っています。だからこそ、店頭に並べる商品はできるだけまんべんなく、味わいが偏らないようにしています。ぜひとも、先入観を持たずにオープンな気持ちでコーヒー選びを楽しんでほしいですね」。商品ラインナップは常時20~25種類と充実。選ぶ楽しさに加えて、自分の好きな味わいを見つけてほしいという杉浦さんの願いも感じられる。

杉浦さんの焙煎のポイントは「酸」と「甘さ」の表現にある。たとえば浅煎りだからといって、酸が強すぎるようにはしたくない。そこで、コーヒーチェリーの果実感を楽しんでもらえるような、酸の明るい焙煎をイメージする。逆に、深煎りだといっても、焦げた感じは出したくない。そのため、チョコレートのような風味とほのかな甘味を意識。このようにサンプルローストでプランを決めて、温度や時間のデータを取りながら焙煎していく。プロセスによる味わいの変化を研究することにも余念がない。

コーヒー豆を販売するだけではなく、コーヒーの淹れ方を紙に印刷してレクチャーする取り組みも実践。分量や温度、時間を細かく表記し、自宅でのコーヒータイムをサポートしている。実演を見て抽出方法を知りたい人のために、コーヒー教室も定期的に開催する。商品を購入した会員宛てに郵送している、コーヒーにまつわる情報をまとめた手作りの新聞も好評だ。「今は、磨いてきた技術を伝えることも大事だと感じています。次に来店してくれた時に『あのコーヒーおいしかったよ!』『コーヒーを飲むのが楽しくなった』と喜んでくださる顔を見るのが、何よりの励みになります」

■「From Seed to Cup」への思い
杉浦さんのコーヒーマンとしての理想は、スペシャルティコーヒーの定義として使用される「From Seed to Cup」の言葉にすべて集約される。「この言葉は、2002年に参加した『SCAA(アメリカスペシャルティーコーヒー協会)のカンファレンスで初めて耳にしました。コーヒー豆の栽培から始まり、収穫、選別、輸送、保管、焙煎、抽出など、数多くの工程を経てようやく1杯のコーヒーができあがりますが、『本当においしいコーヒーを作るためには、これらすべての工程で徹底した品質管理と適切な対応が必要になる』ということを意味しています。つねに、自分はこのサプライチェーンの中で何ができるのかを考えてきました。生産地を訪ねるのも、コーヒー教室を行うのも、そのためです。最近は、将来的に開業を目指す若い人たちから相談を受けることも多くなりました。昔の自分を思い出し、これからのコーヒー業界を担う若手のサポートも精一杯取り組みたいと思っています」

コーヒー業界を取り巻く環境の変化や多様化する世の中において、何ができるのかを自らに問い続ける杉浦さん。「From Seed to Cup」の理念を胸に、生産者と消費者の架け橋となるべく培った技術を、これからも惜しみなく広めていってくれるに違いない。

■杉浦さんレコメンドのコーヒーショップは「CAFE re:verb」
「岐阜市街地の中心部にある『CAFE re:verb』は、ヘアサロンと一体になったユニークなスタイルのカフェ。自家焙煎コーヒーではありませんが、店主の福井さんは『JBC』にも果敢に挑戦するなどコーヒーにこだわりを持っています。当店のような自家焙煎コーヒー店とは違った視点からコーヒーを見つめていて、私自身もいい刺激をいただいています。独立する前からの知り合いで、人間的にも大好きです」(杉浦さん)


【スギコーヒーロースティングのコーヒーデータ】
●焙煎機/プロバット半熱風式22キロ
●抽出/エスプレッソマシン(ビクトリア・アルドゥイーノ ブラック イーグル)、フレンチプレス(試飲のみ)
●焙煎度合い/浅煎り~深煎り
●テイクアウト/なし
●豆の販売/100グラム702円~

取材・文=大川真由美
撮影=古川寛二


※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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