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コーヒーで旅する日本/九州編|ゆっくりで良い、継続していくことが大切。地方で築いたコミュニティと共に歩む「MY珈琲」

  • 2022年10月10日
  • Walkerplus

全国的に盛り上がりを見せるコーヒーシーン。飲食店という枠を超え、さまざまなライフスタイルやカルチャーと溶け合っている。なかでも九州はトップクラスのロースターやバリスタが存在し、コーヒーカルチャーの進化が顕著だ。そんな九州で注目のショップを紹介する当連載。店主や店長たちが気になる店へと数珠つなぎで回を重ねていく。

九州編の第46回は、長崎県佐世保市にある「MY珈琲」。店を構えるのは佐世保市街地から車で15分ほどのやや郊外。交通量は比較的多い国道498号沿いにあるが、町の風景に溶け込み、目立つ店ではない。ただ、2008(平成20)年に開業し、佐世保市エリアにスペシャルティコーヒーの魅力を広めた一店として知られ、ここの豆を買いに訪れる常連は数多い。開業から14年、「MY珈琲」が地元に根付き、愛されている理由を探る。

Profile|山口正樹(やまぐち・まさき)
1972(昭和47)年生まれ。両親の転勤が多かったことから、大分県中津市や福岡県福岡市など各地で暮らす。専門学校進学を機に上京。東京で飲んだ「堀口珈琲」のコーヒーのおいしさに感動し、コーヒーの世界に興味を抱く。その後、さまざまな仕事をする中で自家焙煎を柱としたコーヒーショップを開くことを決意。両親の故郷の近くであった佐世保市に2008(平成20)年、「MY珈琲」をオープン。

■暮らしに溶け込むコーヒー
コーヒーとは自然と暮らしになじむもの。「MY珈琲」を訪れて、最初にそう感じた。店があるのは佐世保市の矢峰町というやや郊外で、暮らす人が多いエリア。ほとんどの人の移動手段が車のため歩いている人は少なく、カフェを開くには決して好立地とは言えない。ただ、豆売りをメインとするなら話は別だ。

店主の山口さんは「当初は土地勘があって、友人・知人も多い福岡市内で開業を考えていましたが、家賃も高いし、焙煎OKなど条件に見合った物件に巡り合えなかったんですね。根がせっかちで飽き性なこともあり、自戒の念も込めて“ゆっくり営んでいこう”という思いを抱いたのもありました。それで、両親が暮らしていた佐世保市矢峰町に店を開くことを決めました」と開業した当時を振り返る。

■上品で繊細な味わいを表現するために
山口さんはどこかでコーヒーの修業を積んだわけではないが、とある縁から大分県・耶馬溪町の豆岳珈琲、石川県・能登半島の二三味珈琲の影響を強く受けている。それもあり、仕入れる生豆は両店と同じく、堀口珈琲が運営するリーディングコーヒーファミリー(LCF)。

「最初に感銘を受けたのが堀口珈琲さんのコーヒーだったことも大きかったですね。実はその体験をするまで、コーヒーはただ苦い飲み物という認識で、まったく好きじゃなかったんです。だけど堀口珈琲さんのコーヒーは、香り高く上品で、繊細な味わいでした。いつか自分が店をやるなら、絶対にLCFから生豆を仕入れたいと強く思いましたね」と山口さん。

佐世保市で店をやると決め、すぐに堀口珈琲に足を運んだ山口さん。生豆を仕入れたい旨を伝え、晴れてLCFに加盟が叶った。

■邪魔しない焙煎を
「MY珈琲」の焙煎機は直火式だ。半熱風式を選択することもできたが、山口さんはあえて直火式という選択をした。「直火式は火力の調整が難しく、最初は大変なこともたくさんありました。釜内の温度を最適にするために常に注意を払っておく必要がありますし、ダンパーや火力を細かく調整しないといけません。ただ、そのマニュアルな感じが僕は好きで、今は直火式でやってきて良かったと思っています。なにより、地方という土地柄、深煎りが好まれる傾向にあり、そういった意味でも直火式は合っていましたね」

その言葉通り、豆のラインナップはシティロースト、フルシティローストを中心に、しっかり深煎りのフレンチローストまで用意。ブレンド3種、同じ産地の焙煎度違いを含めてシングルオリジン約10種が基本的な豆のラインナップだ。

山口さんは焙煎について「素材が良いので、とにかく“邪魔をしない”焙煎を心がけています。ポテンシャルを引き出すというより、消さない感覚に近いです」と話す。

さらにスペシャルティコーヒーについてこうも続ける。「スペシャルティコーヒーは産地によって明確な個性があり、ワインにとても近い飲み物だと思っています。佐世保に店を開いて、ソムリエの方と仲良くなったんですが、テロワールといったワインの概念に触れ、よりその考えを強くしましたね。ソムリエの方が当店のコーヒーを広めてくれたり、佐世保市役所の近くにあった喫茶店の店主が豆を使ってくれたり、佐世保で繋がったさまざまな人の縁にも助けられ、今があります」と話す。

このエピソードを聞いて、やはりローカルで店を開くということは、その地域で信頼できる人々とコミュニティを作ることが大切だと感じた。その点で言うと、人当たりが柔らかく、常に明るい性格の山口さんは地方でコーヒーショップを営むのに最適だったのかもしれない。

佐賀県伊万里市から国見峠を越えてすぐということもあり、現在は佐賀県、福岡県からドライブがてら訪れる客も多い「MY珈琲」。一方で、近隣の子供がおつかいでコーヒー豆を買いに来ることもしばしばあるというから、どこかほっこりする。およそ15年にわたり愛される、地方のロースタリー。“ゆっくりと営んでいこう”という山口さんの目標は佐世保市ののどかな町で叶えられている。

■山口さんレコメンドのコーヒーショップは「豆乃木」
「福岡県北九州市にある『豆乃木』。女性店主の板倉さん自ら焙煎をしており、店も女性らしい柔らかな雰囲気を醸し出しています。生豆の仕入れが同じLCFということもあり、仲の良い同業者の1人。普段はなかなか会う機会がないですが、ちょこちょこ連絡を取り合う仲です」(山口さん)

【MY珈琲のコーヒーデータ】
●焙煎機/フジローヤル直火式5キロ
●抽出/ハンドドリップ(KONO名門フィルター、HARIO V60)
●焙煎度合い/中煎り〜深煎り
●テイクアウト/あり
●豆の販売/100グラム700円〜




取材・文=諫山力(knot)
撮影=大野博之(FAKE.)

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