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「なぜ女性の下ネタはNG?」タブー感が強い女性の性を描く、祖父江里奈プロデューサーの“刺さる”作品づくり

  • 2022年2月4日
  • Walkerplus

テレビ東京のドラマ24で放送中の「シジュウカラ」(毎週金曜 深夜0:12〜)。山口紗弥加演じる、夢を諦めた漫画家・綿貫忍が、昔描いた作品のブレイクによって再度漫画と向き合うことになり、アシスタントとしてやってきた22歳の美青年・橘千秋(板垣李光人)と18歳差の恋に落ちる…という恋愛ドラマを描き、話題になっている。

ドラマ24は「孤独のグルメ」シリーズ、「きのう何食べた?」といった人気作や、「生きるとか死ぬとか父親とか」、「スナック キズツキ」など、女性の人生を切り取ったドラマを放送してきた枠。今作よりこの枠のチーフプロデューサーを務めているのが、女性の性を描き話題となった「来世ではちゃんとします」、「38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記」などを手がけてきた祖父江里奈プロデューサーだ。

「シジュウカラ」も女性を主人公に据え、不倫を扱ったドラマだが、祖父江プロデューサーは女性の性を描くことについて、どう捉え、発信しているのか、話を聞いた。

■不倫というキーワードがキャッチーだけど…
――「シジュウカラ」の企画を立ち上げたのは別のプロデューサーで、祖父江さんはドラマ24という枠の責任者であるチーフプロデューサーという立ち位置でいらっしゃるんですよね。

【祖父江里奈プロデューサー】どの作品をラインナップするかという立場にはいるんですが、この枠を引き継いだ時点ですでに「シジュウカラ」の制作は決定していた形になります。

――祖父江さんと不倫モノという組み合わせが、なんとなく意外だったのですが、その話を聞いて納得でした。

【祖父江里奈プロデューサー】私が企画するという視点でいうと、不倫というテーマはあまり興味を持てないんですよね。不倫が良い悪いとかじゃなくて、いろいろな人がやっているテーマだし、私がおもしろく作る自信がないっていうこともあるんですけど(笑)。

「シジュウカラ」に関して言うと、不倫というキーワードがキャッチーではありますけど、40歳を越えた女性が自分の生き方を見つめ直す話だと思っています。“旦那と子供がいて幸せなんだけど、果たしてこれで良かったのか”と、立ち止まって考えるようなタイミングですよね。

このドラマでは、幸せな家庭を維持するために諦めた夢に改めて向き合ったり、本来だったら自分の人生に現れるはずのなかった若い男の子に恋をしてしまったり、ということが描かれます。不倫モノと言っているものの、もしかしたら身近にもあるかもしれない“if”の世界のお話なので、不倫モノだと毛嫌いせずに多くの人に見てほしいなという思いです。

――山口紗弥加さんは、それこそ「38歳バツイチ〜」で主演を務められていますし、祖父江さんは何度もお仕事をされていらっしゃると思うのですが、主演としてオファーされることは企画段階で決まっていたのですか?

【祖父江里奈プロデューサー】そんなことはなく、誰にお願いするかは担当のプロデューサーとも結構話し合いました。ただ、アラフォーの揺れる女心を演じさせたら山口さんは天才なんです。それはもう「38歳バツイチ」の時に確信していたし、揺れる危うさを巧みに演じられる人だと思っているので、そういうところでのキャスティングですね。

「38歳バツイチ」で演じてもらったチアキは結構ぶっ飛んだキャラクターでしたが、今回は主婦なので、そういう意味ではより多くの人の共感を得やすい役どころかもしれないです。結婚して子供もいて、旦那さんが若干モラハラ気味。世の中にあふれている気がします。

――板垣李光人さんが不倫の相手役というのも驚きでした。

【祖父江里奈プロデューサー】すごく挑戦的な役だし、よくオファーを受けてくれましたねって、私もびっくりしました(笑)。山口さんと板垣くんって怪しげな香りがして、いいビジュアルですよね。

モラハラ夫を演じる宮崎吐夢さんも大好きな俳優さんなんですけど、ちょっと狂気を感じるような怪演っぷりを楽しんでもらえると思います。それに、元彼でもうひとりの不倫相手として発表されている池内博之さんが、割と後半に登場するんですが、色気のある方なので私も楽しみでしょうがないです(笑)。
■女性の性に関する作品を作ったのは怒りのような感情から
――ここからは祖父江さんご自身について伺っていきたいと思います。“カジュアルなエロ”という表現もされていますが、女性の性を扱った作品を作ろうと思ったのはどんなきっかけがあったのでしょうか?

【祖父江里奈プロデューサー】大学生の頃にサークルで演劇と映画をやっていたんですが、「なぜ女の子は下ネタを言ってはいけないのか」という半ば怒りのような感情から、女の子の性に関する作品を作っていました。男の子は楽しそうに下ネタを言い合って笑っているのに、女の子が言うと「お前、そういうこと言うなよ」みたいな反応をされるのがおもしろくないというか、悔しいなって。それが原体験といいますか、創作のモチベーションになっていると思います。

ただ、テレビ東京では新人はバラエティー番組の部署にしか配属されないんですね。それでドラマともエロとも全然関係ない番組を作り続けていたんですけれど、10年越しに異動希望が叶って、もともと作りたかったものをようやく形にし始めたというような感じです。

■女性向けのエロは「テレビ東京だからできるんじゃない」
――テレビ東京でドラマを作りたい、という思いで入社されたんですか?

【祖父江里奈プロデューサー】本命は別のテレビ局でした(笑)。私が入社する少し前にドラマ24の枠ができて「これから深夜ドラマを頑張っていくんだろうな」という気配はありましたけど、「勇者ヨシヒコ」とか「孤独のグルメ」とかで盛り上がったのは入社後だったので。そういうブランドがどんどん積み上げられていくのをうらやましく思いながら、横目で見ていましたね。そこに女性向けのエロっていうジャンルはなかったから、今思えばラッキーだったのかもしれません。

――テレビ東京は攻めた番組作りをしているイメージがあって、だから実現できたのかなと思っていたのですが。

【祖父江里奈プロデューサー】テレビ東京だからできるんじゃないんですよ。やろうと思えば他局の人たちだって絶対できるんです。でも、ほかにやるべき大きなコンテンツがいっぱいあるから。そこの人たちがあえて選ばないところを取りにいっているのがテレ東の番組で、女性向けのエロもそのひとつだったと思っています。

――女性の性を描くという部分で、周りから何か言われたり、ハードルになったりすることはありましたか?

【祖父江里奈プロデューサー】それはいっぱいありますよ。私は女性がもっと性を堂々と楽しめるような世の中にしたいと思っているんですけれども、受け取られ方はこっちでコントロールできないじゃないですか。“誰もが持っているけれど、オープンにしていない部分”を描いているのに、「このキャラクターは身近な女の子ではなく、特別にエロい子」だとか、「エロい人が好んで見るコンテンツ」というような勘違いをされてしまうことはやっぱり多くて。

内田理央さんが、性に奔放で5人のセフレがいる主人公を演じる「来世ではちゃんとします」も、“内田さんに過激なことをやらせている”という部分をフィーチャーされることがありますけど、そこを狙ったわけではないんですよね。それでも、「来世ちゃん」は概ね温かく受け入れてもらえているので、本当に良かったなと思っています。

■等身大プラスαの世界を描いて、現実世界の女性たちを元気にしたい
――エロいコンテンツを見ていることは人に話しづらいけれど、「『来世ちゃん』っておもしろいよね」という話は気軽にできる。それに対して「このドラマを見ていることは恥ずかしいことではないと思われている」とほかのインタビューでお話されているのを読んで、すごく腑に落ちました。男の人が下ネタを楽しんでいるように、女性ももっとフラットに楽しめるようになるといいですよね。

【祖父江里奈プロデューサー】男の人は下ネタを堂々と言ったとしても、人格が損なわれたりしないじゃないですか。生まれながらにしてそういう状況だから気付かないと思うけど、女の人が下ネタを楽しそうにしゃべっていたらビッチの称号を与えられてしまったりする。本当に男女差があるテーマだと思います。これは、女性の自由獲得の歴史の話になってきますよ(笑)。

――祖父江さんも、そういう世界で戦っていらっしゃる方だと思っています。

【祖父江里奈プロデューサー】思いっきり世の中を変えてやろう、と本当は言いたいところなんですが、いかんせんそんな自信もなく(笑)。私は、等身大プラスαを描きたいとずっと思っているんです。とりあえず私と似たステータスの人、私と同じくらいの年齢で、日本に暮らす女性で、働いていて、まぁ結婚していてもしていなくても、っていう女の人。

一歩踏み込むことで経験するかもしれない、とか、ちょっとした運命のいたずらで経験したかもしれない、というような半径5メートル以内で起こりえる話が、現実世界を生きる女性たちを楽しくしたり勇気づけたりすれば、私のドラマ人生最高だなと思えるというか(笑)。そういうモチベーションで作っていますね。

例えば、「来世ちゃん」の主人公・桃江ちゃんにセフレが5人いるというと、とんでもない設定に見えるし、そんなにセフレがいる人は多くはないと思います。でも、好きな人に相手にされていないのに、体の関係をもってしまって悩んでいる、というのはよくある話。等身大プラスαっていうのはそういうところで、ちょっと脚色してエンタメとして楽しめるものにするのがドラマにできることなのかなって思ってます。

「38歳バツイチ」にしても、マッチングアプリで男と出会いまくっている38歳はなかなかいないけれど、うっかりマッチングアプリ始めたら、ちょっとかっこいい男の子と出会って、今まで知らなかった世界を開いて…みたいな人はいるし。「めちゃくちゃ興味あるけど迷ってて、まだやってない!」という人はもっともっといるわけで。そういう人たちに刺さればいいなと思っていましたね。

■原動力は「たくさんの作品に救われてきた」こと
――この主人公は私かもしれない、といろいろな女性が感じていると思います。また、生理に関するドラマもやってみたいとTwitterに書かれていましたが、基本的には女性の味方というスタンスですか?

【祖父江里奈プロデューサー】そうですね…。じゃあ男性はいいのかみたいなことをよく言われるんですけど、私もそう器用なタイプではないので。男性は誰か救いたい人が救ってあげてください、甘えないでくださいっていう感じですかね(笑)。男性の生きづらさも、いつかはやりたいとは思っているけれど。

それでいうと、わかりやすいからって“女性向けドラマ”って連呼することにも抵抗はあるんです。女性の悩みとして描いているものは実は男性も悩むことかもしれないし、ジェンダーを2つに分けることも、今の時代にそうあるべきか?と考えますし…。

私、2021年の半分くらいはアフガニスタン情勢を見ながらずっと泣いていたんですよ。あれって私たちには何もできないじゃないですか。じゃあせめて私にできることといったら、私によく似た境遇の女の子をちょっとでも元気づけること、なんですよね。

――その原動力はやはり、大学生の頃に感じた怒りがベースにあるんでしょうか?

【祖父江里奈プロデューサー】それもだし、私自身、いろいろなコンテンツに救われてきたからじゃないですかね。この主人公、私と同じだって感じたり、私もこんな風になりたいなと思ったり、たくさんの作品にそうやって救われてきたから、私が作るものも誰かにそう思ってもらえたらうれしいなって思いますね。

取材・文=大谷和美

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