サイト内
ウェブ

藤原竜也「子供の成長は爆発しそうなくらいうれしい」子煩悩なパパぶりを明かす

  • 2021年8月27日
  • Walkerplus

直木賞受賞作家・佐藤正午(さとうしょうご)の、数ある傑作の中でも“最高到達点”との呼び声高いエンターテインメント小説『鳩の撃退法』が、藤原竜也主演で映画化される。8月27日(金)より公開の同作品は、主人公の描く小説のストーリーと現実を行き来しながら、先の読めない展開で多くの読者を魅了。映像化不可能と言われ続けてきた話題作だ。

そんな難解な作品で、主人公の作家・津田伸一を演じる藤原竜也に、作品への思いや現場でのエピソード、さらに、来年40歳を迎える心境を聞いた。

■監督も俳優陣も、駆け引きをしていた現場
――現実と、主人公が描く小説の中とを行ったり来たりする『鳩の撃退法』。どんな思いで現場に臨みましたか?

【藤原】複雑な話だったので、今は現実なのか、小説の中なのか、スタッフと逐一確認を取りながら撮影を進めました。同じカメラの前で芝居をしていても、それがリアルなのか、小説の中の津田なのか、シーンごとに緊張感があって新鮮でしたね。


――タカハタ秀太監督から演技指導はあったのでしょうか?

【藤原】それが一切なかったんです。タカハタ監督とは初めてお会いしたのですが、「リハーサルをそれほど重ねずにやりましょうか」と言っていただいて。あえて物申さずに、俳優を信じて臨んでくださいました。テストをせずにカメラを回せるところは回していくという、従来の映画の撮り方とは違う監督の手法はとても新しくて、演劇的なおもしろさもあり、非常にやりがいのある現場になりましたね。任せてもらったプレッシャーを抱えて演じたからこそ、良くなったシーンもあったと思います。

――監督はなぜそういった手法をとられたのでしょう?

【藤原】これはあくまで僕の考えですが、俳優が演技をした時に、一番最初に出たものを撮りたいということだったのではないでしょうか。こういった緻密なストーリーの作品ではかなりリスキーな方法だと思いますが、できあがったものを見ると正解だったと思います。

現実と小説の中と、2人の津田が同時に映るシーンでは、正直言って自分がどう映っているか現場では想像もできなかったんです。けれど、「ここに立ってセリフを言ってみてください、そうするともうひとりの津田が後ろに座っているので、話しかけてみてください」と。言われたとおりに従うだけで、監督からは説明がなかったからこそ、自然な演技が生まれたような気がします。

――かなり挑戦的な作り方ですね。逆に、藤原さんから監督に質問したことはありましたか?

【藤原】監督が、あえて1から10まで説明しないのだなと早い段階で感じ取ったので、僕も質問はしなかったですね。振り返ってみると、『鳩の撃退法』の現場は監督もスタッフも含めて、いろいろな人が駆け引きをしていたんじゃないかな。共演陣のみなさんも、監督がそういう思惑なのであればちょっと自由に演じさせてもらおうとアプローチしているように見えました。

今回の現場は出演者もスタッフも仲が良くて、新型コロナウイルスの流行前だったので、みんなでよく食事にも行っていたんですが、演技については全員が意識的に多くを語らなかったように感じます。でも監督とは一度も食事に行かなかったなぁ。お互いに、必要以上に距離を詰めようとしなかったですね。コロナ前からソーシャルディスタンスを保っていました(笑)。一定の緊張感を保ったことが、功を奏した作品になっているんじゃないかな。

――その駆け引きの末に完成した作品は、どんなものになったのでしょう?

【藤原】完成した映像を見たら、とにかく「監督にやられた!」って思いましたね。特に、瞬間的に寓話(ぐうわ)の世界に引き込むシーンの監督の手腕は見事だなと。見る人によって捉え方が変わるところも数多くあって、一観客としてのめり込んでしまいましたね。

■津田への思いと、演じるうえでの心境の変化
――自身で作り上げていった津田に対する思いはありますか?数々のクズ男を演じてきた藤原さんが、今回は天才作家のクズ男を演じているわけですが…。

【藤原】彼は確かに、非常にダメな部分が多いですよね。けれど、彼のダメな部分を否定的に捉えるのではなく、こういう小説家っているんだろうなと、まず肯定しました。いつか正しいものが書けるかもしれない、いつか今いる場所から一歩踏み出せるかもしれないと思いながら、それを強く望むのではなく、今ある自分を受け入れて、富山で暮らしている。流されるがまま今の自分を生きる、という部分は共感もできます。

僕自身は常に行動したいアグレッシブなタイプなので、彼とはあまり似ていないですけど、津田の、今ある自分を否定しない生き方は嫌いではないですね。多くのものを望まず、争いを避けて通りたいという彼の持つ優しさのようなところは、いいなと思いながら演じていました。

――演じるうえで工夫されたところはありますか?

【藤原】これまでの作品は、聞き取りにくいセリフだったり、ブレスをここで入れたほうがいいなと思うところは、人から指摘されたり、自分から発言したりして、その都度修正していたのですが、今回は突っ走ってみたり、句読点をあえて省いたり、まくしたててみたり。今までしなかった演技の方法を試しました。そうすることで、彼が内に秘める思いを表現できるのではないかと思ったんですよね。それがどう反映されているかは、ぜひ作品を見てほしいです。


――そう聞くと、どう演じられているのか楽しみです。ちなみに来年40歳を迎える藤原さんですが、そうした演じ方に変化が生じているのは、現場の雰囲気に加えて、ご自身の心境にもなにか変わったことがあったのでしょうか?

【藤原】僕としては、心境の変化はまったくないです。確かに私生活では結婚をして子供が生まれて、という大きな出来事はありましたけどね。子供の成長は、もう爆発しそうなくらいうれしくて、おもしろくて、仕事に影響がないとは言い切れないです。俳優としては、家庭に収まりすぎてもなぁ…と思いますが。稽古中には「腰が痛い」と言いながら、帰ったら平気で高い高いをしてしまいますし(笑)。この映画は1カ月間富山で撮影していたのですが、スキを見ては新幹線に飛び乗って、子供に会うために何度も帰っていました。

――富山から東京だと、かなり時間がかかってしまうのでは?

【藤原竜也】片道3時間くらいありますからね。東京に帰る時は、富山駅の1階の食品売り場でおいしい白エビ丼やお寿司を家族に買っていくのが楽しみでした。何度も通っているうちに売り場のみなさんともなじみになって、時間が遅いと「藤原くん、急いで!」なんて言いながら渡してくれて。缶ビール片手に、雪が降る富山駅をあとにして、立山連峰の雪がかった山々を眺めながら、長い岐路についていたのが懐かしいです。毎回ちょっとした旅で、ものすごく寒かったですけど、地元の人があったかくて、いいところでしたね。

■知られざる「カイドウ」シリーズ誕生秘話
――「カイドウ」シリーズ(テレビ東京ほか)など、30代を迎えてから意図的に素の姿を見せてくださっているように思いますが、そんな藤原さんだからこそ、地元の人たちと和気あいあいとする姿が想像できます。

【藤原】あのシリーズはね、実は意図的じゃないんですよ…。毎年末に放送されている「中村屋ファミリー」(フジテレビ)のように、僕自身も歴史を撮り収められたらといいなと思ったのがきっかけなんです。誰かに会った、いい芝居ができた、こういう仕事があって挫折した…そういう紆余曲折を撮っておいて、いいドキュメンタリーになればと思って、いつ何時でもカメラを回してくれとスタッフに頼んでいて。だから酒を飲んでいる現場にもカメラを連れて行ったんですけど、酔っ払ってゲラゲラ笑っているのがおもしろいと撮影チームが言い出して、いつのまにか変な編集をし始めたんですよ!

――まさか意外にも真面目な始まりだったとは…。

【藤原】想像できないですよね?CSチャンネルで放送していたふざけた映像がテレビ東京さんの目に止まって、民放でも放送してもらうことになって…といういきさつなもので、あんなふうに素の姿を見せるというアプローチとはちょっと違うんです。中村屋ファミリーのように仕上げてほしかったのに、スタッフがうまく編集してお笑いに持っていっちゃった。真面目な名目のために「人生の節目もすべて撮って」ってお願いしていたのに、今やワケがわからないお笑いになって、事務所の偉い人には「あんなものやめなさい」なんて言われる始末です。予定とは違うんです(笑)!

――意外すぎる裏話でした…。ちなみに「カイドウ」シリーズでは俳優仲間がたくさん出演されていますが、刺激を受ける人はいますか?

【藤原】ハリウッドデビューした小栗旬も尊敬しますし、「藤原竜也の三回道」に出演してくれた中村勘九郎さんも、歌舞伎を見るたびに圧巻だなぁと感動します。いい世代に生まれて、揉まれているなと感じますね。そういう仲間たちを見ていると、僕もまだまだ挑戦したいことがたくさんあるなと思います。

――そういった多くの経験をしている藤原竜也がいるからこそ、『鳩の撃退法』の演技にも繋がった、ということですよね。

【藤原】共演陣も含めて、いい大人達に見守っていただきながら、監督の手法で自由に演じさせてもらって、環境に恵まれましたね。優れた映画ができたと確信をもって言えます。


ヘアメイク=赤塚修二(メーキャップルーム)
スタイリスト=小林新 (UM)
撮影=小山志麻
取材・文=イワイユウ

あわせて読みたい

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
Copyright (c) 2024 KADOKAWA. All Rights Reserved.