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1位獲得で売上40倍?『このマンガがすごい!』の強みは“選者と投票結果の透明性”

  • 2020年12月29日
  • Walkerplus

マンガ界における年に一度の恒例行事となっている、マンガガイド『このマンガがすごい!』(宝島社)のランキング発表。今年の12月10日には、『このマンガがすごい! 2021』オトコ編第1位に『チェンソーマン』(著:藤本タツキ/集英社)、オンナ編第1位に『女の園の星』(著:和山やま/祥伝社)が選ばれたことが明らかになった。発表後すぐにネットで話題となり、全国の書店でフェアが展開。1位に輝いたマンガの売上が約40倍に跳ね上がる(※)など、大きな影響力を持つ『このマンガがすごい!』編集部の土岐光沙子さんにインタビューし、その制作の舞台裏と、昨今のマンガ事情について聞いた。

※ほんのひきだし「『このマンガがすごい!2016』が発表 「このマン」の影響でコミックは売れるのか?」より、日販 オープンネットワークWIN調べ

■ぶっちぎりで1位の『チェンソーマン』『女の園の星』、ベスト20は掲載媒体が多様化

『このマンガがすごい!』は、土岐さんを中心に、普段はマンガ編集やマンガ情報サイト「このマンガがすごい!WEB」の運営に携わる4~5人の編集スタッフによって制作されている。

まずは土岐さんに、今回のランキング結果への所感を訊ねた。「オトコ編1位の『チェンソーマン』と、オンナ編1位の『女の園の星』は、ともに老若男女問わずぶっちぎりの票を集めました。ベスト10は、前年度のオトコ編でも4位に入っている『チェンソーマン』をはじめ、『水は海に向かって流れる』など、昨年からの連続ランクインが目立つ結果に。いずれも巻数が少ないことが特徴で、『序盤からがっつりと心をつかみ、一度ついたファンが離れない』という作品が多かったのかなと思います」

一方で、ベスト20まで視野を広げると、“掲載媒体の多様化”という傾向が強く感じられたという。「週刊少年ジャンプ」(以下、「ジャンプ」)「モーニング」といった抜群の知名度を誇る雑誌や、「アフタヌーン」「FEEL YOUNG(フィール・ヤング)」といったマンガ読みに好まれる雑誌だけでなく、「トーチWeb」「マトグロッソ」などのWeb媒体や、「レタスクラブ」のようなマンガ業界にとって異色の媒体の作品もランクインした。

「SNSが発達して、作品を知るための間口が広がり、純粋な “作品の力”でランクインしてくるマンガがさらに増えた印象です。Webで無料で試し読みできることが当たり前になり、購入までのハードルが下がったのも大きいですね。オンナ編4位の『マイ・ブロークン・マリコ』も、Twitterで話題を呼んだ作品でした」(土岐さん)

また、『このマンガがすごい!』を通して“今年のマンガの総決算”を行いたいという思いから新たに生まれたのが、「完結名作マンガ特集」だ。『鬼滅の刃』(著:吾峠呼世晴/集英社)をはじめ、『ハイキュー!!』『七つの大罪』『五等分の花嫁』など、長期連載作品の完結が相次いだ今年にぴったりの企画といえる。

「ランキングの上位はどうしても新作が多くなりがちなので、取り上げる機会の少ない長編名作マンガに焦点を当てたいとは常々考えていました。今年は人気作の完結が続き、『やるなら今しかない』ということで企画しました」(土岐さん)

そのほか、土岐さんが「ぜひ読んで」とおすすめしてくれたコーナーが、ランキングの対象期間終了後に第1巻が発売された、最新の注目マンガを紹介する「この新作がすごい!」。今年は、『怪獣8号』『私のジャンルに「神」がいます』といった作品が掲載。マンガの“青田買い”がしたいという人はぜひのぞいてみよう。

■マンガ賞乱立のなかで最大の強みは、選者と投票結果を100%公開していること

『このマンガがすごい!』が、ブックガイド『このミステリーがすごい!』(宝島社)のマンガ版として、年度ごとに発行されるようになったのは、2005年。その存在はマンガ関係者や読者にどのように受け止められたのだろう。

「前年の2004年に『このライトノベルがすごい!』が立ち上がり、話題になっていたこともあって、『宝島社がいよいよマンガランキングの年度版を出してきたか』という雰囲気だったそうです。また、『オトコ版』と『オンナ版』の2冊同時発売だったことも評判になりました」

「毎年、ランキング上位作品が話題になって売上を伸ばしていくことに加え、編集部のコツコツとした地道な活動の積み重ねで、『このマンガがすごい!』の認知も徐々に広がり、反響が得られるようになったかなと思います。特に、ランクインした作品がTwitterトレンド入りしたときには影響力の強さを感じました」(土岐さん)

その後、「全国書店員が選んだおすすめコミック」(2006~)、「マンガ大賞」(2008~)、「次にくるマンガ大賞」(2014~)など、さまざまなマンガ賞が創設されたなかで、『このマンガがすごい!』の最大の強みといえるのが、“選者と投票結果の透明性”だ。

『このマンガがすごい! 2021』のランキングは、期間中(2019年10月~2020年9月)に単行本が発売した作品を対象とした、選者の投票の集計によって決定。選者はマンガ好き著名人(10名)、書店員(19店舗)、雑誌編集部(5誌)、ライター、ブロガー、フリー編集者、マンガ研究者などの各界マンガ好き(94名)で構成されており、そこに専門学校生などのマンガ家のタマゴたちによる投票が加わる。マンガ家のタマゴ以外の選者の個人名・団体名と、それぞれが投票した作品の顔ぶれは、書籍上ですべて公開されているという徹底ぶりだ。

「選者は毎年入れ替えがあり、編集部員のリサーチをもとにして、お仕事や好きなマンガのジャンルのバランスを見ながら決めています。『このマンガがすごい!』はマンガ賞ではなく、あくまでマンガガイドなので、『この人がこんなマンガを読んでいるんだ』という発見があったり、自分と感性の合いそうな人のおすすめを読んでみたりと、いろいろな楽しみ方ができるのが魅力です」(土岐さん)

『このマンガがすごい! 2021』では、オトコ編・オンナ編それぞれの上位50位作品を総レビュー。まさに、マンガ好きが“次に読みたいマンガ”を探すのにうってつけの本といえる。

一方で、今後も考え続けなくてはいけないテーマは、「オトコ編」「オンナ編」という区分のあり方だ。女性が少年・青年マンガ誌の作品を読むのが当たり前になっていることはもちろん、少女マンガ誌を主戦場としていた作家が青年マンガ誌で連載を持ったり、そもそも男性向け・女性向けの定義のないWeb媒体が誕生したりと、現代のマンガを「オトコ」「オンナ」の2つに区切ることの難しさは年々増している。しかし、それでもこの形式を続けるのにはワケがあるという。

「例えば、少女マンガの読者数は、少年マンガに比べて圧倒的に少ないんです。そのため、ひとくくりにしてランキング化すると、どうしても読者数の多いジャンルの作品が上位を占めてしまいます。難しいところではあるのですが、『面白い少女マンガをみなさんに知っていただく』という目的が最も重要と考え、今年もこの区分を継続することを選びました。あくまでもマンガの文脈としての区分であって、読者対象をこちらで決めているとは考えないでほしいです」(土岐さん)

■2020年は『鬼滅の刃』大ヒット&Webマンガの飛躍で“マンガの売れ方”が二極化

さて、2020年はマンガ界にとってどんな年になったのか。はじめに、世界を席巻した新型コロナウイルスの影響について聞いてみると、「外出しないぶん、アプリでマンガが読まれる機会がさらに増えたり、電子書籍の売上が上がったりと、チャンスの年になったと思います」と、前向きな答えが。各マンガアプリで大規模な無料公開キャンペーンが行われるなど、Webマンガにとっては勝負をかけた年であり、さらなる飛躍の年になったといえる。

そしてなんといっても、今年のマンガ界最大のトピックは、『鬼滅の刃』の空前の大ヒット。「『鬼滅の刃』のヒットはすごかったですね。ああやって大々的にメディア展開がなされ、一般に広く人気を持つようになる作品がある一方で、Webでものすごく熱量のある少数のファンに支えられるマンガもある。今年はこれまで以上に、“マンガの売れ方”が二極化しているのを感じました」と土岐さん。

「昔は『ジャンプ』などの人気のマンガ雑誌に掲載されることが、マンガ家が売れるための王道としてあったと思うのですが、今はSNSやアプリで実際に読んで『面白い』と感じたマンガが選ばれる時代。今年のランキング結果に表れているように、さまざまな媒体の作品に注目されるチャンスがありますし、オンナ編1位・5位を獲得した和山やま先生を筆頭に、Twitterやpixiv、同人イベントでの活動が編集者の目にとまって単行本化され、脚光を浴びる例も数多く、“マンガの売れ方”のパターンが多様化しているなと感じています」

そんななか、『チェンソーマン』のように、10年近くにおよぶ作家と編集者の二人三脚から生まれる大ヒット作も。「マンガ家にとって、いろいろな選択肢が生まれて、自分に合ったやり方を選べるようになってきたのはいいことだと思います」と土岐さんは語った。

最後に土岐さんに、『このマンガがすごい!』の読者に向けたメッセージを聞いた。「『このマンガがすごい!』にのっているマンガを読んでほしい。それに尽きます。『このマンガがすごい!』が目指すのは、媒体や出版社の垣根なく最前線の作品を紹介する“マンガ界のハブ空港”で、ここにある作品はすべて、私たちが自信を持っておすすめする作品です。世の中にはほかにも『すごい』マンガがたくさんありますが、まずはここにのっているマンガを読んで、新しいお気に入りを見つけていただけたらうれしいです」

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