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役割を終えた?最後の「ゆるキャラGP」が本日決定、“日本列島総アイコン化”を促した9年の歩み

  • 2020年10月4日
  • Walkerplus

全国各地のご当地キャラクターや企業のマスコットキャラクターなどが人気を競う「ゆるキャラグランプリ」が、10月3日から4日にかけて岩手県滝沢市の岩手産業文化センターアピオで開催されている。約9年の歴史に幕を閉じる同イベントは、「くまモン」ブレイクの舞台となったことからゆるキャラの登竜門としての地位を確立したが、近年はエントリー数の減少や過熱した投票競争が取り沙汰されることも。そこで今回、ウォーカープラス編集部では、“最後”となるグランプリ発表を前に、同イベントとともにあった2010年代のゆるキャラブームの栄枯盛衰と、“日本列島総アイコン化”の歩みを振り返る。

■売上累計8100億円の「くまモン」をスターダムに押し上げたゆるキャラGP

2000年代後半にはじまったゆるキャラブーム。火付け役となったのは、2007年に開催された「国宝・彦根城築城400年祭」のイメージキャラクター「ひこにゃん」だ。どこか気の抜けたかわいらしさが全国的に話題を呼び、イベント終了後も滋賀県彦根市のキャラクターとして定着。全国の地方自治体がご当地キャラ・ゆるキャラの可能性に注目するきっかけとなった。

2008年以降、ゆるキャラをテーマにしたイベントが各地で開催されるなか、「ゆるキャラグランプリ2011」の開催と、同グランプリを獲得した熊本県のキャラクター「くまモン」の存在はゆるキャラブームを決定づけるものだった。

グランプリ受賞を契機に全国的な知名度を獲得したくまモンは、関連商品の売上高が2011年の25億円から翌2012年には293億円に急増。2019年には1579億円を記録し、累計では8100億円を超える大ヒットキャラクターとなった。また、くまモンの成功により、ゆるキャラグランプリはご当地キャラを地域振興の起爆剤に押し上げる登竜門としての地位を確立。くまモン以降、同グランプリの歴代受賞キャラクターには愛媛県今治市の「バリィさん」、栃木県佐野市の「さのまる」など、地域にとどまらず人気を得たゆるキャラが顔を並べる。

地域の名物や名所、特徴をデザインに落とし込んでPRできるゆるキャラならではの強み、賛否両論のデザインから人気を獲得した奈良県のマスコットキャラクター「せんとくん」のような裾野の広さもあり、地域PRの方法を模索する自治体から生まれた膨大な数のゆるキャラ。ゆるキャラグランプリはそうしたキャラクターたちの目標の1つとして、2010年代のブームの一翼を担ってきた。

■参加数1700体超のゆるキャラ戦国時代、競争の過熱で不正投票疑惑も

ゆるキャラグランプリは初開催以降、参加数・投票数ともに右肩上がりの盛り上がりを見せた。2013年からはご当地部門に加え企業・その他部門が設けられたこともあり、2011年には349体だったエントリー数は、2015年には1727体と、4年間で約5倍に膨れ上がった。

いわば“ゆるキャラ戦国時代”と言えるようなこの時期には、もはやゆるキャラというだけではインパクトが弱く、多数のキャラの中に埋もれてしまう状況が生まれつつあった。千葉県船橋市の非公認キャラクター「ふなっしー」のブレイクはそうした背景を象徴するような出来事だ。

キャラクター自らが甲高い声で話し、ジャンプや激しい動きを見せるふなっしーは、これまでのゆるキャラのイメージをくつがえす型破りなものであり、タレント性の高さからテレビ出演をはじめ各メディアで引っ張りだこの存在となった。ご当地キャラにも強い個性が求められるようになり、他のキャラと差別化をはかるため自治体のPRもさらに激化が進むこととなった。

その一方で、2016年以降はエントリー数が減少傾向に転じた。2019年の参加キャラクター数はピーク時の半分以下の789体に留まり、ブームが下火になったことを如実に物語っている。2018年には自治体がフリーメールアドレスを大量取得しグランプリに不正投票を行ったとの疑惑が持ち上がり、組織票も含め行き過ぎた競争に批判が集まったことも、グランプリへの注目度が急降下する要因の1つだったと言えるだろう。

■ゆるキャラに代わり「自治体VTuber」も登場、PRは“バズ”の時代に

ゆるキャラブームの退潮と前後するように、各自治体がPRに取り入れるようになったのがウェブで発信するオリジナルのPR動画だ。拡散力のあるSNSとYouTubeをはじめとする動画サイトの普及で参入の敷居が下がり、北九州市と下関市が共同で制作し再生数が1億5000万回を超えた関門海峡のPR動画「COME ON!関門!~海峡怪獣~」のように反響を呼んだ動画も少なくない。

キャラクターという点では、仮想のキャラクターとしてネット上で活動をするバーチャルYouTuber(VTuber)が近年新たなブームになっていることも見逃せない。2019年のゆるキャラグランプリでは、VTuberの「オシャレになりたい!ピーナッツくん」が企業部門のグランプリを受賞。VTuberの人気や注目度の高さをうかがわせた。

企業や団体がPRのためVTuberに参入するケースも増加しており、2018年には自治体初の茨城県公認VTuber「茨ひより」が登場。観光地レポートや「歌ってみた」動画の配信、2019年のいきいき茨城ゆめ国体で国体史上初のeスポーツ大会にMCとして参加するなど幅広い活躍を見せる。2018年8月から2020年3月までの広告換算額は約3億5000万円と好調な滑り出しだ。2020年3月には岩手県の公認VTuber「岩手さちこ」がデビューし、自治体にもVTuberの波が確実に広がりつつある。

■ゆるキャラGPの終了を決めたのは2013年?「復興五輪の直後が相応しいと思った」

ゆるキャラ(R)グランプリ実行委員会会長の西秀一郎さんは、今回のグランプリ終了について「イベントとして一定の役割を終えたと感じた」と話す。

「ゆるキャラグランプリの終了を決意したのは東京五輪が決まった際です(2013年)。東日本大震災が起こった2011年にはじまり、復興五輪の直後に終わるのがゆるキャラグランプリの最後に相応しいと思いました」(西さん)

2011年の第1回ゆるキャラグランプリは、震災による被害やインバウンド客の激減といった苦境のなか、キャラクターによる癒やしや地方の経済活性化を後押しした。その後は、ありとあらゆる自治体、風土、商品などがキャラ化したことで、一見突拍子もないキャラクターでも受け入れられる“日本列島総アイコン化”の土台を作り上げることにもなった。地方自治体によるPR動画の制作やVTuberへの参入は、こうした「ゆるい」PR手法の系譜とみなせるだろう。

また、ブームの終息でゆるキャラが「お役御免」になったわけではない。熊本地震以降、観光PRにとどまらず復興の旗振り役としても活躍するくまモンをはじめ、図柄入りご当地ナンバープレートの申込数が全地域中3位になった愛媛県のイメージアップキャラクター「みきゃん」のように、地域のシンボルとして根付き支持され続けるキャラクターは多い。

ゆるキャラやそこから派生した文化が定着し、目新しいご当地キャラクターが人気を競う時代から、各自治体が既存のキャラクターをどう活用していくかの時代に移り変わる節目を迎えたことで、ゆるキャラグランプリはその役割をまっとうしたと言える。

今回のイベント会場は東日本大震災当時、東北の物流を支える拠点になっていた場所。「だから最後のイベント会場としてこの場所を選びました」と教えてくれた西さん。続けて、「今回は東北の地元キャラたちが頑張っている。最終日となる今日、その子たちを応援しにきてください。まだまだ東北の復興は道半ばですが、我々の活動がすこしでも町興しになればと思います」と語ってくれた。

マスコットには元来、「幸運をもたらすもの」という意味がある。新型コロナウイルス感染症という波乱に見舞われた今年、ブームの中で生まれ育ったゆるキャラたちが、苦境の中だからこそ“ゆるくおもしろく”活躍する姿を期待したい。

取材協力:ゆるキャラ(R)グランプリ実行委員会

※新型コロナウイルス(COVID-19)感染症拡大防止にご配慮のうえおでかけください。マスク着用、3密(密閉、密集、密接)回避、ソーシャルディスタンスの確保、咳エチケットの遵守を心がけましょう。

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