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益田発祥の「うどん」の謎を解く美食旅

  • 2017年9月13日
  • タベアルキスト

「島根県西部の益田市にちょっと変わったうどん文化がある」という情報を聞きつけ調査に向かった我々タベアルキスト。

実際に食べてみたら、そこにあったのは、ちょっとどころじゃない、唯一無二のうどん。
そして、町に根付くまでの人とうどんが紡ぐ壮大なヒストリー。
埋もれていたご当地グルメが発掘される、まさにその瞬間。

本稿はその一部始終をまとめたものである。


どうみても、さぬきうどんじゃない


萬栄_店主
我々がまず向かったのは、島根県益田市の駅からほど近い距離にある、「うどんの萬栄(まんえい)」。創業40年ほどになる、地元密着型のうどん屋である。
お店を営まれる、現在2代目の広瀬夫妻とのご挨拶もそこそこに、早速うどんを頂いてみることにした。


萬栄_うどん1
運ばれてきたうどんは、見た目からして非常に個性的。
肉、お揚げ、ネギ、鳴門、そして生卵。これに卓上に配された揚げ玉をお好みでトッピングしていただくスタイルとなっている。

出汁はやや甘口で、肉から出た脂でコクの加わった、しっかりめの関東風仕立て。
すき焼き風の肉玉うどん+お揚げといった出で立ちである。

最大の特徴は、やはり麺。ウェーブのかかった、幅広で薄めの麺は他に類を見ない独特の食感。コシはあるのだが、讃岐うどんのようなエッジの立ったツルッとした感じではなく、もう少し角の取れた、もっちりとした粘りコシで、柔らかさが印象的。

ほろほろのお肉と、厚めのお揚げがしっかり含んだ味を、しなやかな麵が受け止める非常に美味しい一杯。


萬栄_うどん2
この独特の麺を存分に味わうなら、釜揚げうどんがおすすめ。
独特の食感と麺の味わいをストレートに味わうことができる。

このようなうどんが、益田市~浜田市にかけて何店か見られるのだが、店舗名は全て異なり、そこの背景や関連性が分からない。

今回の旅で、その謎の一端でも解明できれば良いのだが…

唯一無二の製法


萬栄_店外の表記
これだけ個性的なうどんを提供しながら、店外の表記は「さぬきうどん」である。
いや、どう見てもさぬきじゃないよ…。というツッコミはさておき、独特の麺を生み出す背景を教えていただくことにした。
(さぬきと表する理由はきちんとあるのだが、後段に譲る)


萬栄_うどん生地
まずは生地。1バットあたり9kgほどを仕込み、丸1日寝かせてから仕上げる。
生地をこねる際に、「うどんの素」という秘伝の液体を加えるのだが、中身は秘中の秘。初代のみしか知らず、現在も「うどんの素」だけは初代から仕入れているとのこと。
粉の配合については、もともと初代から引き継がれたレシピがあるが、現在は息子さんが独自に改良を加えているという。


萬栄_うどん製麺機1
続いて製麺。他に類を見ない独特の製麺機は、麺を伸ばすローラー部と、カットを行う刃の部分で構成された電動式。似たような構造の手回し型の製麺機は、以前に見たことがあるのだが、電動式は初めてだ。


萬栄_うどん製麺機2
三つのギアが印象的な正面図。スイッチを入れると、ガラガラガラ…という小気味良いビートを刻みながら機械が動き始めた。ローラー部で一度麺を伸ばし、再度ローラー部に通した後、そのまま刃の部分へと生地が落ち、カットされる。

カットされた麺は、そのまま茹で麺機にダイレクトに投下され、茹で上げられる。この直接湯の中に麺がダイブするのも特徴の一つと言えそうだ。
伸ばしとカットをスムーズにするため、生地はたっぷりの打ち粉をさせてから機械にかける。そのため、茹で湯には打ち粉が溶け出し、時と共にトロトロになっていく。
そのため、朝一と閉店間際では、味が異なるそうだ。

製麺機の挙動については、動画を参照されたし。


【益田のうどん製麺機】
  島根県の益田・浜田エリアに根付く、一風変わったうどん。
  その最も特徴的な製麺の風景


紐解かれる歴史

これほどまでに、独特なうどんがどのようにして生まれたのか、お話を伺ってみた。
話を整理すると、以下のようになった。

① 初代が四国の人から製法を習い、島根にて萬栄を約40年前に創業する。製麺機も四国の人と共同開発をした。
② 2代目は平成2年に初代から店を引き継いだ。初代は福岡に移り、現在でも現役。
③ 萬栄については、「うどんの素」は現在も初代から買っている。(他の店については分からない)
④ 製麺機のメンテナンスについては、地元の業者にお願いをしている。
⑤ さぬきうどんの表記は初代がつけたものをそのまま使用している。
⑥ 初代萬栄で修業した人が独立をし、各地で店を開業した。その範囲は出雲~下関あたりにまで広がったらしいが、開店・閉店などもあり、その全貌はハッキリとしない。
⑦ 独立にあたって、店舗名は自由にして良いことにしていた。

なるほど。ヒントが見えてきた。

「ちょっと変わったうどん文化」は、おそらく萬栄とそこで修業した弟子のお店が一枚かんでいるのは間違いなさそうだ。
きっと、同じようなうどんを提供しているお店を辿れば、さらに深いところが分かるに違いない。

系譜をたどる うどん旅 其の1


陽気な狩人_風景
益田のちょっと変わったうどん文化を紐解くべく、我々は益田市のとなり浜田市へと車を走らせた。
浜田市には「うどんの今田」という店があり、現在は閉店してしまったが、萬栄のうどんとよく似たうどんを提供していたそうだ。
うどんの今田は店名を変えて、浜田市の郊外で再びその味を提供しているとのこと。


陽気な狩人_外観
その店が、こちら「陽気な狩人」である。その名の通り、うどんだけでなく、猪肉をはじめとした、ジビエ料理も提供している。
敷地内には肉の処理施設があり、レストランと併設されているケースは他に例が無いという。


陽気な狩人_しし肉のさっと炒め
なかでもしし肉のさっと炒めは、こちらの看板料理の一つ。
併設の処理場でさばいた、イノシシ肉と自家農園で取れた玉ねぎを炒め合わせた、シンプルながらも奥深い味わいの料理。
しし肉の力強い弾力と脂の旨み、玉ねぎの甘さとシャキシャキとした歯ごたえが楽しめる。


陽気な狩人_ポスター
ご主人の今田氏は非常にユニークなお方。
自らを遊びの達人と称し、様々なことに挑戦し続ける御仁。その魅力は紙面ではお伝えしきれないので、ぜひ一度会いに行っていただきたい。
人生の示唆を頂けること間違いなし。


陽気な狩人_うどん
さて、肝心のうどんである。
鳴門が蒲鉾に、ワカメが載っているなど、微妙に違うが、肉・お揚げ・生卵・ネギの組み合わせ、特製うどんという名称は萬栄と同じ。
味は、萬栄よりもコシのある感じだが、エッジの丸さや、ややウェーブのかかった平薄麺、甘みのあるつゆは、やはり同じ系譜を感じさせる味わい。


陽気な狩人_製麺機
そして気になる製麺機。厨房を覗かせていただくと、やはりあった。
正面のギアは2つにへり、洗練された感じになっているが、挙動は同じ。ガラガラとビートを刻みながら、麺を伸ばし、そのままカットからお湯へダイブ。
萬栄の機械とまさに同じであった。
話を伺うと、やはりうどんの今田は、萬栄の初代の時代に修業をし、独立をした店であった。現在、陽気な狩人で供するレシピは、すでにご主人のオリジナルの領域まで昇華されているが、その大本にあるのは、初代萬栄の味であった。

うどんの今田閉店の際は、店の外に大行列ができ、もともと陽気な狩人では出す予定がなかったうどんも、お客様の熱いリクエストで出すようになったそうだ。
この独特のうどんが、町の人のソウルフードとして根付いていることを教えてもらい、我々は陽気な狩人を後にした。

もう一軒、つながりがありそうなうどん屋の情報を得ていた我々は、再び益田市へと向かった。

系譜をたどるうどん旅 其の2

亀甲屋_外観
手打ちうどんの亀甲屋は、5年ほど前にオープンした比較的新しいお店だが、提供しているうどんには萬栄のエッセンスが感じられるらしい。
萬栄、陽気な狩人で、そこに至る系譜のヒントはつかんでいるので、それが確認できれば、ほぼ間違いないだろう。


亀甲屋_うどん
人気No1 亀甲屋うどんとして登場したのがこちら。
萬栄、陽気な狩人につながる、特色は確かにある。肉、お揚げ、蒲鉾、ネギは共通。オリジナルの点として、とり天がついていること、卵に火がやや入っているところが異なる。
麺の特徴である、幅広で薄い点、エッジが丸く、やや乱れのある点、そして、もちっとした食感はかなり近く、甘めの汁も同じ。


亀甲屋_製麺機
厨房を覗かせていただくと、やはりあった!独特の形状をした製麺機。
新型機なのか、かなり洗練されている。益田市内の工場で作ってもらったそうだ。
製麺の流れも萬栄に近く、生地は一晩寝かせるほか、うどんの素を入れているらしい。

店長の篠原氏によると、系列店で焼鳥屋を展開しているため、とり天を使っているとのこと。うどんは、社長がうどんの今田で修業をして開業したそうだ。

これで線が一本につながった!
萬栄 → 陽気な狩人(うどんの今田)→ 亀甲屋 とつながり、亀甲屋は萬栄から見て孫世代のポジションにあたる。

店舗名にまったく関連性が無いので一見わかりづらいが、すべては初代萬栄に連なる系譜にあり、エッセンスは引き継ぎながら、店舗の独自性を加えて地域の名店として根付き、この地域独特のうどん文化を形成していったのだ。

まさかの自販機文化

うどん自販機1
話はちょっとそれるが、益田エリアのもう一つのうどん文化を紹介したい。
益田エリアの道の駅や、自販機の固まった休憩所的なエリアには、ちょっと変わった商品が置かれている。


うどん自販機2
今では見かけることの少なくなった、うどんの自動販売機。
これが結構な頻度で見かけるのだ。ノスタルジーあふれる佇まい。いつか無くなってしまいそうな昭和の残り香。
これも一つのうどん文化として、ぜひ体験してほしい。


自販機うどん
これがデラックスうどんである。お分かりいただけるだろうか。
肉、お揚げ、蒲鉾、ネギ。そう、萬栄の系譜につながる具のラインナップなのである。生卵こそ入っていないが、明らかにそれを意識したと思われる柚子皮。
麺はソフト麵で懐かしい味わい。350円としては十分なコストパフォーマンスである。

今回の旅では、萬栄とのつながりは解明できなかったが、機会があれば紐解きたいものだ。

ご当地グルメはこうして見出される


「益田・浜田エリアに広がるちょっと変わったうどん文化」は萬栄から始まった独特のうどんが、独立した弟子たちによって進化し根付いて行ったことで形成されたことが今回の美食旅で分かった。

萬栄_うどん1
よくあるご当地グルメのいわれに、『昭和のころから地域で親しまれ、ソウルフードとして愛されてきた』というくだりがあるが、このうどんはまさにそれに合致する。
どんなご当地グルメも、最初に開発した人なり店があり、それを普及させた人やお店がある。
萬栄は最初に開発したお店で、弟子達はそれを進化させ普及した店なのだ。

ここで、このうどんの特徴を再度まとめたい

① 基本の具は、甘辛く煮た肉、お揚げ、鳴門(蒲鉾)、ネギ、生卵
② 基本の具に加えて、独自でトッピングを加えても良い
③ 生地は、秘伝の素を加えて一晩以上寝かせる
④ 製麺は専用の製麺機を使い、そのまま茹で麺機へ投入する
⑤ 麺は幅広で薄く、ややウェーブがかかり、もっちりとした食感
⑥ 汁はやや甘め、色は濃い

このうどんについては、提供店舗がどのように広まっているのか、整理された情報が無い。もし、お近くのうどん屋さんで、上記の条件を満たすうどんが提供されていたら、ぜひ情報をお寄せいただきたい。
この地域独特の美味しいうどんが、より多くの人に知られることを願ってやまない。

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