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【動画】回る奇病で死ぬ希少ノコギリエイ、前例ない緊急事態に

  • 2024年4月9日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

【動画】回る奇病で死ぬ希少ノコギリエイ、前例ない緊急事態に

 米フロリダ半島の先に延びるキーズ諸島では、最近、急激に衰弱して死に至る謎の病気が発生している。絶滅の危機にあるノコギリエイ科のスモールトゥース・ソーフィッシュにも被害が出ているため、米国の科学者たちは4月から米国史上初の試みとして、緊急の取り組みを開始した。

 4月上旬時点ですでに30匹のソーフィッシュが死んでおり、そのすべてが体長2メートルから4メートルの成魚か成魚に近い幼魚だった。大西洋全域での乱獲と生息地の喪失により、野生のスモールトゥース・ソーフィッシュの群れは2つしか残っていない。そのうちの1つであるフロリダの群れには、繁殖可能なメスは650匹ほどしかいないようだ。

「絶滅の危機に瀕している種にこれほど致命的な影響が及ぶことは過去に例がありません。そのため、前例のない対応が必要になります」と、米海洋漁業局のソーフィッシュ回復コーディネーターのアダム・ブレイム氏は言う。海洋漁業局は、民間の水族館や非営利団体のネットワークと協力して、ソーフィッシュの捕獲と飼育に取り組んでいる政府機関の1つだ。

 エイの一種であるスモールトゥース・ソーフィッシュ(Pristis pectinata)は、大きな歯のついたノコギリのような吻(ふん)と、エイのような平べったい胴と、サメのような尾をもっている。ソーフィッシュは、このノコギリ状の吻を左右に振り回し、海底の砂の中に隠れた獲物を掘り起こしたり、魚を気絶させたり、サメなどの捕食者から自分の身を守ったりしている。

「ヘッジトリマー(生垣バリカン)とエイとサメを魔女の大鍋に放り込むと、ソーフィッシュができるのです」とブレイム氏は冗談を言う。

 30年生きることもあるこの魚は、2003年に米国絶滅危惧種法(ESA)の下で連邦政府の保護を受けることになった最初の海水魚だ。保護活動の甲斐あって、ソーフィッシュの数は徐々に回復していた……これまでは。

「米国のソーフィッシュの数は、フロリダの群れに大きく依存しています」と、フロリダ国際大学の海洋生物学者でサメの専門家であるヤニス・パパスタマティウ氏は説明する。なお、氏は今回の救出活動には参加していない。

 だからこそ、今回のような緊急の対応が肝要なのだと彼は言う。「フロリダの群れが突然失われでもしたら、種全体が壊滅的な打撃を受けるおそれがあり、数十年にわたる保護活動を後退させるおそれがあるのです」

 2023年11月以来、フロリダでは合計57種の魚でぐるぐると回転する行動が確認されており、その原因については調査中だ。

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救出の具体的な方法

 ソーフィッシュを救出するため、回復チームはホットラインを設置して市民からの目撃情報を受け付けている。ソーフィッシュは沿岸の浅い海域に生息しているため、病気の個体や苦しんでいる個体がいれば市民の目につく可能性は高い。

 通報があれば、チームはボートでソーフィッシュを探しに行き、捕獲が可能かどうかを判断する。ソーフィッシュの捜索と捕獲は難しい。空気呼吸をするウミガメや海洋哺乳類とは違い、ソーフィッシュは常に水中にいる必要があるからだ。

 ソーフィッシュの居場所を特定できたら、計測をして血液サンプルを採取し、タグを付ける。魚が生きのびた場合に、後で発見できるようにするためだ。

 ソーフィッシュを捕獲できると判断した場合には、ボートの上か、ボートで曳航している水をはった容器に収容してフロリダ・キーズの水槽まで運び、状態を観察する。

 魚が安定しているようなら、モート海洋研究所・水族館を含む3つの提携施設のいずれかに移送する。移送には、容積100立方メートルの移動水槽になっている専用トラックを使用する。

 施設に到着したら、魚が回復するまでスタッフが観察とリハビリを行う。海での異常事態が収束して安全と判断されれば、魚は野生に戻される。

終息時期も不明、「ただ待っているのは無責任」

 魚がぐるぐる回り続けて死んでしまう原因は、現時点では不明だ。高水温、低酸素、寄生虫、赤潮の可能性は否定されているが、科学者たちは、微細な藻類が作り出すある種の毒素の濃度が高くなっていることを発見している。

 ブレイム氏によれば、魚たちが死んでしまう原因が分からず、この異常な事態が終息する時期も不明であることが、ソーフィッシュの救出活動の動機になっているという。

「絶滅危惧種が死ぬのをただ待っているのは無責任です」と彼は言う。「これまでにない取り組みなので、どういう結果になるかは分かりません。けれども、私たちが前向きに歩むかぎり、この取り組みは続くでしょう」

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