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1日1万歩でなくても健康に効果、座る時間が長めでもOK、研究

  • 2024年4月10日
  • ナショナル ジオグラフィック日本版

1日1万歩でなくても健康に効果、座る時間が長めでもOK、研究

 1日9000〜1万歩歩くことにより、死亡リスクは30%以上減り、心血管疾患のリスクは少なくとも20%減少する。だが、それより少ない歩数でも効果を得られることが、英国の7万2000人以上を対象とした新たな研究により示された。研究結果は3月5日付けで学術誌「British Journal of Sports Medicine」に発表された。

「何らかの活動をすれば必ず有益になります。われわれは、(1万歩程度までなら)1日あたりの歩数が多いほど、死亡リスクと心血管疾患のリスクが低下することを発見しました」とオーストラリア、シドニー大学の疫学者で、同研究の著者の一人であるマシュー・アーマディ氏は言う。

「1日1万歩は大きな目標ではありますが、そこまでいかなくとも、1日の歩数を増やすために少しでも活動することは、健康を改善し、病気のリスクを下げることに大いに役立ちます」

 この研究は、歩くことが心血管リスクと死亡率を下げるという既知の証拠をさらに強化するものだと、米ファインスタイン医学研究所の運動科学者アシュリー・グッドウィン氏は述べている。

 氏が特に興味深いと指摘するのは、歩数を増やすことによって受けられる恩恵が、座っている時間が長い人と短い人の間でほとんど変わらないという点だ。

「実にすばらしいことです。この研究結果を見れば、普段どんな生活を送っていようとも、いつもより少し多めに歩くだけで健康上の利益があるということを、多くの人が納得できるでしょう」

 これまでの研究では、歩数が多いほど心臓の健康と長寿につながることが証明されていた。それとは別に、1日の中で座っている時間が長いほど心血管疾患のリスクと死亡率が高まることが示されていた。今回の研究では、座っている時間が長い人であっても、1日の歩数を増やせばそのリスクを打ち消せるかどうかが検証された。

 アーマディ氏のチームは、座っている時間が長い人と短い人の境目を、1日10.5時間と定めた。座っている時間が1日に10.5時間を超えると、リスクが急激に増えることがデータで示されたからだ。今回の研究では、1日の歩数が2200歩の人たち(歩数が最も少ない人から数えて5%の位置)を基準にして、歩数がさまざまに異なる人々の心血管疾患および死亡のリスクを比較した。

歩数を増やすほどリスク低減

 その結果、座る時間が長い人も短い人も、歩数を増やすと、リスクが統計的に同じ程度減ることがわかった。さらに、1日1万歩程度までは、歩数が多いほど心血管疾患や死亡のリスクが大きく減るという関係が見られた。たとえば、座る時間が長い人の場合、死亡は1日9000歩、心血管疾患は9700歩でリスクが最小となった。

次ページ:1日4300歩程度から心臓に有益

 心血管疾患リスクを下げる効果は、座る時間がどちらのグループも1日4300歩程度から確認されるようになり、座る時間が長い人たちでは10%低下した。歩数が1日9700歩では、その効果も21%に倍増した。

 死亡のリスクも同様に、座る時間が長い人たちでは1日4100歩歩くと20%下がった。歩数が1日9000歩では、リスク低下率は39%とほぼ倍増した。1日6000歩ほど歩くと、座る時間の長い人たちの死亡リスクは、短い人たちと同じ程度にまで下がった。

 米ニューヨーク市のモンテフィオーレ医療センターの心臓科医マリオ・ガルシア氏によると、平均的な米国人の歩数は1日4000歩ほどだという。つまり、健康増進の余地はたっぷりあるということだ(編注:厚生労働省が行った2019年の国民健康・栄養調査によると、日本の成人男性の平均歩数は1日6793歩、成人女性は1日5832歩)。

「(新型コロナウイルスの)パンデミック後にあたる現在は特にリモートワークが増えて家で過ごす時間が長くなっているため、体を動かしていない時間を意識して、ウォーキングのようなシンプルな運動でその分を補うことが重要です」とガルシア氏は言う。

 氏によると、最も大きな恩恵を受けるのは60歳以上の人々だという。これは、加齢に伴う体力の衰えが高齢になるほど加速するためだと考えられる。

1日1000歩増やすのは難しくない

 今回の研究から得られる重要な知見は、座る時間を減らせない人でも、1日の歩数を増やすことで恩恵を受けられる点だとアーマディ氏は言う。

「最近はウェアラブルデバイスの普及が進んでいるため、1日の歩数を手軽に測って記録できるようになりました」

 しかし、歩数を2000歩から一気に1万歩に増やす必要はないと、グッドウィン氏は言う。実際、氏が行っている研究では、参加者に1日の平均歩数を1000歩増やすよう勧めている。2020年6月に学術誌「International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity」に発表された、17件の研究を対象としたレビュー論文では、1日に1000歩増やすことにより、その後4〜6年にわたり心血管疾患および死亡のリスクが減ることがわかっている。

 ウォーキングが好きになれない人は、別の方法で歩数を増やすのがよいと、グッドウィン氏は言う。

 たとえば、1日のどこかで少しずつ歩数を稼ぐために、駐車場の中の遠い位置に車を停めたり、数階分だけエレベーターの代わりに階段を使ったり、電車やバスを少し早めに降りて残りを歩いたりするのもいいだろう。1日に1000歩増やすのは、ほんの10分ほど歩くだけで達成できるため、歩ける人ならほぼ誰でも1日のどこかで行えるだろうと、グッドウィン氏は指摘する。

 歩数を増やすもうひとつの方法は、1日の歩数ではなく週ごとの歩数に注目することだ。米バンダービルト大学医療センターの心臓科医イバン・ブリテン氏によると、今回の研究と同じ対象集団から得られた別のデータからは、「週末だけ運動をする人たちも、毎日継続して体を動かしている人と基本的に同じ程度」の効果を得られることが示されているという。

次ページ:「勇気づけられる結果」

 ただし、着実に続けることが重要だと、氏は指摘する。特に気をつけたいのは、歩数を測る機器を使い始めたときの新鮮な気持ちが薄れてきた後だ。なぜなら、人は自分が観察されていると意識すると、最初のうちは行動を変える場合が多いからだ。数年にわたって人々の活動を追跡した、未発表の研究からは、週末に運動する習慣を始めた人のうち、数週間後に高い活動レベルを維持できていたのは、約半数にとどまっていたことがわかっている。

 ブリテン氏はまた、1人あたりの観察期間が1週間だった今回の研究によって、歩数を増やせば座りっぱなしの習慣による影響を相殺できるかどうかの議論に決着が着くとは考えていない。

「3〜7日間のモニタリングが、数週間、数カ月、数年にわたるその人の典型的な行動を反映していると考えるのには無理があります」ブリテン氏は言う。「一部の人たちではそうかもしれませんが、それが全員に当てはまるとは思えません」

「勇気づけられる結果」

 今回の研究では、英国で現在進行中の大規模研究に参加している10万人以上の成人に、精度の高い加速度計(精密な歩数計のようなもの)を配布し、1日24時間、1週間にわたって手首に装着してもらった。そのうち、加速度計を週末の1日を含めた最低3日間、1日16時間以上(睡眠中を含む)着用した参加者7万2174人のデータを分析した。分析した参加者の平均年齢は61歳。研究者らは平均7年間にわたり、心血管疾患および死亡の状況を追跡した。

 分析では、年齢、性別、民族、教育レベル、喫煙の有無、飲酒量、1日あたりの果物と野菜の摂取量、心血管疾患やがんの家族歴、1日あたりの睡眠時間、(糖尿病用の)インスリンや高コレステロール・高血圧治療薬の使用など、参加者間の違いを考慮に入れて調整した。

「より多くの身体活動をしている人がよりよい結果を出した場合、それが活動が多いせいなのか、それとも心血管疾患のリスクを高める糖尿病、高コレステロール、高血圧などの危険因子が少ないせいなのか、判断が難しいこともあります」とガルシア氏は言う。しかし、この研究ではそうした要素も考慮に入れられている。

 アーメディ氏によると、参加者が数年後に活動レベルを大きく変えた可能性については、考慮に入れられなかったという。ただし、研究チームでは2〜4年後に一部の参加者に再び歩数計を着けてもらい、データを検証している。それによると、人々の活動レベルは以前と変わっていなかったという。

 ブリテン氏は、これは全員の活動レベルが一貫して変わらなかったことを意味するものではないと指摘する。しかし、この研究から得られる最も重要なメッセージについては、アーマディ氏と同じ意見だ。

「この研究の主な教訓は、歩数が多いほどよいということ、また、(効果が望める歩数の)下限は、多くの人が考えているよりも低いということです」とブリテン氏は言う。「これは勇気づけられる結果ではないでしょうか」

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