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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第37回 食卓から見た生物多様性

  • 2007年2月15日

このコンテンツは、「グローバルネット」から転載して情報をお送りしています。

特集/食の持続可能性〜持続可能な原材料調達連続セミナーより 食卓から見た生物多様性
(財)地球・人間環境フォーラム客員研究員、(株)CSR経営研究所、(株)レスポンスアビリティ 足立 直樹さん

無断転載禁じます

生物多様性とは、読んで字のごとく、いろいろな生き物がいることです。もう少し正確な定義を言えば種と遺伝子と生態系の三つの階層における多様性のことで、これらすべてが守られて初めて生物多様性が維持されます。今、失われている生物多様性の99%以上は人間活動が原因となっていると考えられています。

生物多様性に依存する食卓

 私たちの食べるものは、生物多様性に非常に大きく依存しています。それは、私たちが食べるものはすべて多種多様な生き物だからです。世界で食べられている植物は8万種類に及ぶそうです。例えば私たちはいろいろな品種のコーヒーを楽しんでいます。私たちがさまざまな食品や嗜好品を楽しめるのは、まさに生物多様性があるからこそです。

 ご存じのように、日本は非常に多くの食料を海外から輸入しています。例えば、日本を代表する加工食品のカップラーメン一つとっても、世界中から原料を運んできて、作っているのです。つまり、日本人は世界中の生物多様性に依存して、食の多様性を享受しているのです。

 ちなみに、1kgの肉を作るためには何倍もの穀物が必要になります。鶏肉1kgを作るためには4kg、豚肉の場合7kg、牛肉になると11kgの穀物が必要になるのです。ですから、中国で肉を食べる人が増えると、当然大豆をたくさん輸入せざるを得ない状況になります。ハンバーガーを1個作るのに、約5平方メートルの森林が必要という研究結果があります。また、1960年代以降、中米では熱帯雨林の25%が放牧のために切り倒されたそうです。

 ハンバーガーは一例に過ぎません。大豆やパーム油、ココア、コーヒーなどを生産する農地はどんどん増えてきている。これは先進国が買うからです。この30年間に途上国では農地面積が5,000万haから1億haへ倍増したという統計もあるそうです。これまで30年間は農地を拡大することで生産量を増やせましたが、この先はどうなるかわかりません。

食が生物多様性に与える影響

アフリカで初のラムサールCOPの様子
アフリカで初のラムサールCOPの様子
食が生物多様性に与える影響を整理してみます(図)。一番影響が大きいのが原材料調達です。食料を生産するプロセスは、生物多様性を喪失させる五つの原因のほとんどに関わっています。

 そしてこれがビジネスにどう影響を与えるかですが、 Earth WatchとIUCN(国際自然保護連盟)、WBCSD(持続可能な発展のための世界経済人会議)がまとめた『ビジネスと生物多様性』に、生物多様性への取り組みに失敗すると一般的に企業にどういうリスクがあるかがリストアップされています(囲み)。例えば、乱獲や開発の仕方がまずいと、操業許可を失ってしまうことになる。これはもうビジネスができなくなってしまうわけです。あるいは自社でなくてもサプライチェーンの中で同様のことが起きても、事業は停止してしまう。他の産業でもそうですが、とくに食品産業の場合には、原材料調達の部分の影響が大きいと思います。

生物多様性への取り組みの失敗が企業にもたらすリスク
  • 操業許可の喪失
  • サプライチェーンの分断
  • ブランドイメージの悪化
  • 消費者や環境NGOによる不買運動
  • 環境破壊による罰金や市民からの責任の追及
  • 金融市場での低い格付け
  • 従業員の士気や生産性の低下
『ビジネスと生物多様性』(Earthwatch(Europe), IUCN, WBCSD

食と生物多様性の課題

 それでは私たちはどうすればいいのでしょうか。食料は人間に必要なものですから、安定的に持続的に確保しなければならない。食料の安全保障は大きな課題となるでしょう。さらに食の安全性ということで農薬や化学肥料、遺伝子組換作物(GMO)の影響も考えなければならないでしょう。そのために、トレーサビリティも必要になっています。さらに、安定確保のためにも、生物多様性・生態系への影響を最小化する努力は常に必要です。

 先進国は実はいずれの国もかなり食料自給率が高く、農業国のフランスやアメリカは100%を越え、ドイツやイギリスも戦後一貫して高くしてきました。ところが唯一日本と韓国が低く、日本はカロリーベースで40%を切っています。

 生産地での環境社会問題に対する消費者や企業の責任も問われ始めています。これを解決するのに一番重要なのは、原材料調達における配慮です。その方法として最近、フェアトレードが注目されています。現地の生態系や人びとに配慮しながら持続可能な形で食物が生産できるようにしていく方法です。例えばコーヒーやバナナなど比較的嗜好性の強い食品で取り組まれています。

 似たような取り組みで、持続可能なパームオイルについての円卓会議(RSPO:Roundtable on Sustainable Palm Oil)や、持続可能な漁業をするためのMSC(海洋管理協議会)の認証システムもあります。

 個別の企業の事例では、レストランのチェーン「びっくりドンキー」を経営しているアレフは、トマト農家に対して受粉用にセイヨウオオマルハナバチという外来種ではなく、日本産マルハナバチを使うよう働きかけ、生物多様性を保全する農業を支援しています。

企業に求められるアプローチ

 それでは食と生物多様性という観点で、企業は何ができるのでしょうか。

 まず、自分たちのビジネスがどこでどれだけ影響を与えているのかを把握するところから始める必要があります。その中で一番重要な過程が原材料調達、とくに天然資源の開発に関わる部分だと思います。そこで適切な配慮を行い、説明責任を果たすためには、ガイドラインが有効でしょう。とくに、パーム油の場合のように、1社だけではなく、業界団体あるいはNGOや研究者などとも協力しながらガイドラインを作ると効果的です。外部のステークホルダーとの「協働」がキーワードです。

 これと同時に、企業以外のNGOや消費者にぜひお願いしたいことは、企業をきちんと評価するということです。すでに一歩二歩進んでガイドラインなどを作りながら原材料調達にがんばっている企業は、その点を正当に評価しましょう。そして駄目なところはきちんと指摘して、もっとがんばるようエールを送るといいと思います。そうした姿勢が、がんばる企業を育てるからです。

(2006年5月30日東京都内にて)

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