暑くならない未来、ください…。
石炭、石油、ガス。これまで社会を支えてきた、いまもまだメインを張っているこれらのエネルギー源が、地球のあちこちに深い傷跡を残しています。温室効果ガス排出による気候変動だけではありません。呼吸を苦しめる大気汚染、公平さを損なう政策、絶滅する生き物たち、そして地球のあらゆる場所に広がるプラスチック汚染。その根っこには、化石燃料の存在があると科学者たちが声をそろえています。
査読付き学術誌、Oxford Open Climate Changeに発表されたレビュー論文には、これらの問題がすべて科学的な根拠とともに総合的にまとめられています。証拠はそろっています。
では、何が起きていて、何を変えられるのでしょうか。
科学は、化石燃料が私たちを殺しているということをこれ以上なく明確に示しています。
そう語るのは、このレビュー論文の主執筆者であり、生物多様性センター(Center for Biological Diversity)で気候科学ディレクターを務めるShaye Wolf氏。
同氏はさらにこう続けます。
石油・ガス・石炭を使い続けることは、死亡数の増加、野生動物の絶滅、極端な気象災害を招き続けることになります。汚れた化石燃料を過去のものにしない限り、私たちは苦しみ続けるのです。クリーンで再生可能なエネルギーはすでに存在しており、手頃な価格で経済の中心に据えることで、数百万人の命を救い、数兆ドルのコストを削減できます。
石炭や石油、ガスを燃やすことで発生する大気汚染は、世界中で毎年数百万人の命を奪っているとされています。アメリカ国内だけでも、その数は年間数十万人にのぼるといいます。
健康被害も、肺や呼吸器系の病気にとどまりません。気候変動の影響を受けた自然災害の激化や感染症の拡大、食料や水の不安定化など、目に見えにくい形で、身体的・精神的な健康被害をもたらしています。
カリフォルニア大学バークレー校の公衆衛生学部環境健康科学科に所属するDavid J.X. González氏は、次のように述べています。
化石燃料による汚染は、早産から小児白血病、重度のうつ病に至るまで、人生のあらゆる段階で健康に影響を及ぼします。
誰にとっても健康や気候の問題は深刻ですが、なかでも、低所得者層や有色人種が多く暮らす地域において、その影響が特に顕著です。
モンタナ大学のRobin Saha氏は、構造的な差別によって弱い立場の人々が受けている悪影響について、次のように説明します。
レッドライニング(差別的な住宅政策)など、数十年にわたる差別的な政策が、化石燃料の開発を黒人、ラテン系、先住民、そして貧困層の白人が多く暮らす地域に集中させてきました。その結果は壊滅的なものでした。
こうしたフェンスライン・コミュニティー(環境汚染発生源に隣接する地域社会)は、あまりにも長い間、強欲で冷淡な産業界によって搾取されてきました。汚染が深刻な地域社会は、クリーンエネルギーへの投資と、汚れた化石燃料インフラの排除と浄化において優先されるべきです。
化石燃料がもたらす影響は、人間だけにとどまりません。科学者たちは、このまま化石燃料に依存し続ければ、今後50年以内に地球上の動植物の約3分の1が絶滅する可能性があると警告しています。
論文では、生物多様性を保護するために、再生可能エネルギー施設はすでに開発されている地域に設置して、炭素を吸収する役割を果たしている森林や湿地のような生態系を保護することが重要だと提案しています。
石油やガスは、プラスチック製品の原料でもあります。なんと、プラスチックの99%が化石燃料由来だと考えられています。
私たちが生きるために欠かせない空気や水、土壌、食べ物、そして私たちの体の中にまで、マイクロプラスチックが入り込んでいるのは、よく知られているとおりです。
ウミガメから人間の精巣や胎盤でまでプラスチックが見つかるようになったのは、決して偶然ではありません。
また、化石燃料から作られる農薬や化学肥料は、農地や水系を汚染し、健康リスクを高めているといいます。レビューでは、こうした問題に対処するために、プラスチックの生産削減、有害化学物質の廃止、持続可能な農業への転換を提案しています。
ここまで問題が明らかになっているのに、なぜ社会は化石燃料から脱却できないのでしょうか? その背景にあるのは、化石燃料業界による長年の「偽情報キャンペーン」だと科学者たちは指摘します。
化石燃料産業と政界による気候変動対策遅延キャンペーンを長年研究してきたハーバード大学のNaomi Oreskes氏は、「化石燃料産業は、製品の危険性について私たちを何十年も欺き、実効性のある気候変動対策を阻んできました」と話します。
そしてさらに、「皮肉なことに、各国政府は現在もこの有害な産業に年間数千億ドルの補助金を出し続けているのです。それをやめるべき時は、とうに過ぎています」と強調しています。
レビューは、未来を守るためのメッセージを明確に伝えています。新たな採掘をやめて、既存の化石燃料インフラを段階的に廃止し、もっとも被害を受けてきた人々にクリーンエネルギーの恩恵がいち早く届くようにすること。そして、炭素を蓄える森林や湿地に実効性のある保護対策を講じること。
化石燃料がもたらす問題の深刻さも、その代わりになるものを私たちがすでに持っていることも、ずいぶん前からわかっています。
気候や人々の健康、生態系に悪影響を及ぼし、戦争や政治情勢、為替レートなどに価格が左右されるエネルギー源から、気候や健康、生態系への影響がはるかに小さく、原料のコストが無料の太陽や風、水や地熱などを基盤にしたエネルギーを未来の基盤にすることは可能です。
世界平均気温は2年連続で観測史上最高を記録しています。2年続いた日本のとんでもなく暑い夏は、今年も情け容赦なく日本で生活する人たちを直撃すると予想されています。数十年先の夏の暑さを想像しただけで熱中症になりそうです。
解決策はあります。あとは、私たちがどんな未来を選択をするかにかかっています。
Source: Phys.org, Boston University, Earth.com
Reference: Wolf et al. / Oxford Open Climate Change