ハイキングコース3周できそうな勢い。
今年のCESでも注目されていた、アウトドア用エクソスケルトン(強化外骨格)のHypershell。米GizmodoのKyle Barr記者がハイキングで実際使って試してみました。その威力は…以下どうぞ!
ハイキングって、心安らぐ場であるべきです。でも今回は、小川の流れる音、木々を渡る風の音とともに、ウィーン…という音が聞こえてきます。その音源は僕自身、いや厳密には、エクソスケルトン・Hypershell Pro Xです。
Hypershell Pro Xは、風変わりなガジェットにしては珍しく、「歩行やランニング、サイクリング、ハイキングを補助する」という謳い文句通りのことほぼすべてをきっちりやってくれます。きっちりしすぎて、僕はハイキングしたわりに運動にならないし、ハイキングによる心の平安も半減でしたが。
僕は1,000ドル(約15万円)のHypershell Pro Xを着けて3時間のルートをハイキングしたんですが、終わったあとも同じコースを2周できそうなくらい元気でした。『オール・ユー・ニード・イズ・キル』に出てくる、パワードスーツを着せられたような感覚です。なのでHypershellを脱いだときは、軽くなったはずなのに、むしろ自ら足を傷つけたみたいに重だるく感じました。
Hypershell Pro X
これは何?:アウトドア向けエクソスケルトン。
価格:999ドル(約15万円)。
好きなところ:軽めで丈夫で着け心地がよい、数段階から選べるトルク設定、長時間持つバッテリー。
好きじゃないところ:座りにくい、サイボーグみたいな外見、たまに使うだけでは高すぎる。
今回のハイキングは友人二人と行ったのですが、僕はハイキング中ずっとからかわれてました。僕の動きがゲームのチュートリアルNPCみたいに妙に速いので、ちょいちょい立ち止まって友人たちを待たなきゃいけませんでした。一歩ごとにウィーンウィーン聞こえるし、機械に足を運ばれる感覚なので、自然のなかにいるリラックス感が薄れてきます。すれ違う人たちも、僕をチラチラじろじろ見てきます。
そんなわけで僕にとっては、ムダに恥ずかしいハイキングでした。遠出してハイキングなんて機会はめったにないので、せっかくならもっと風景を楽しんだり、心地よい疲れを味わったりしたかったんです。
でも、このデバイスの恩恵を受けられる人はたくさんいます。高い山に登りたいけど体力に自身がない人には、Hypershellが役に立つはずです。
外骨格を装着するということは、最初思っていたよりも負担感がありました。バッテリーと腰のサポートをウエストに巻き付けてから、レッグバンドを腿に装着します。きつめに締めないとデバイスが服の上から腿にあたって、靴擦れならぬ外骨格擦れになります。ある程度いろんなウェストサイズに合わせられるゆとりはありますが、どんな体型でも大丈夫ってほどではなさそうです。
Hypershell Pro Xはセンサーを通じて足の動きを検知し、125Wのモーターによる最大32ニュートンメートルのトルクで前進をアシストします。普通の使い方では常時Max設定にしないはずですが、足を自分で全部コントロールできない感覚で、慣れるにはちょっと時間がかかります。トルク設定を上げると、ちょっと足を動かしただけでもすごい勢いで飛び出します。足を下ろすときも、勢いがつきます。山登りより平地でのほうが違和感が強く、トルク最小の設定にしても、一歩ごとに足の動きが強調されます。
僕たちはマンハッタンから車で北に1時間くらいの、アンソニーズ・ノーズというハイキングコースに行きました。3時間のハイキングで、高度は全部で888フィート(約270m)上るコースです。僕はこの近くのもっときついコースも2回登ったことがあり、アンソニーズ・ノーズは比較的楽なほうです。
GIF: Kyle Barr - Gizmodo USトルクの強度変更は、ボタンを押すだけなので簡単です。コースのなかでも一番急な登りを10分近く登り続けたとき、僕は腿が全然つらくないことに気づきました。どちらかというとふくらはぎに負担を感じたんですが、それもだんだん薄れていきました。Hypershellの着け心地は終始快適で、腰とわきのパッドのおかげで擦れることもありませんでした。
唯一問題だったのは、山頂に着いて座りやすい体勢を取ろうとしたときです。バッテリーパックが突き出していて、座ると尾骨に当たって背骨を圧迫してきます。座るときは、両脇のパックも傷むかもしれません。
また僕は坂道を上るときは足を広げて、重心を前方に置くようにするんですが、Hypershell装着時は普通の歩き方しかできませんでした。あとは池を眺めようと腰を下ろして座ったところ、何か異音がしました。見ると、Hypershellの電源インジケーターのライトが赤く点滅していたんです。でも立ち上がってバッテリーを付け直したら問題は収まり、その後はつつがなく過ごせました。
Hypershellのレイテンシーは最小限で、動作速度にはすぐ慣れました。一番驚いたのは、バッテリー持ちのよさです。3時間のハイキングでモーターによるアシストを常時使っていても、バッテリーは(残量表示ライトから察するに)フルから30〜40%減った程度でした。僕は72Whrのバッテリーも予備で持ってきてましたが、それは余分でしたね。
ただ今回は気温が15度くらいだったんですが、もっと暑いときや寒いときにどうなるかはわかりません。Hypershellでは、動作気温は摂氏マイナス20度〜60度としていますが、極寒のなかではバッテリーに影響すると思います。
Hypershellいわく、Hypershell Pro Xは30kgの負荷を支えられるそうです。本体の重さは2kg弱で、モーターのアシストが本体と人間の重さを支えています。ハイキングのときはなるべく余計な荷物を減らしたいので、バッテリー持ちがよいのは助かります。
Hypershellには3バージョンあり、ここまで紹介したHypershell Pro Xは出力が800W、バッテリー持ちは17.5km分です。800ドル(約12万円)の若干手ごろなHypershell Go Xは、出力が400W、バッテリー持ち15km分です。もうひとつのモデルは1,500ドル(約22万円)のHypershell Carbon Xで、これはPro Xのカーボンファイバーポリマーのフレームを3Dチタン合金にしたものです。Pro XとCarbon Xは、登山やサイクリングなど、アシストできる動作がより幅広くなっています。
どちらにしても、ハイキング用外骨格としては安めです。Arc'teryxがデザインした外骨格パンツ・Mo/Goは一番安いのが5,000ドル(約75万円)もします。1,200ドル(約18万円)のDnsys X1もありますが、これは2024年にプレビューされたものの、なかなか出荷されていません。
HypershellのWebサイトなどを見ると、小金持ちの若年層がターゲットのようにも見えます。実際のところHypershellは、障害やけが、高齢などで、アウトドアに出られない人向けにできてます。
でもHypershellは、どんな人でも使えるわけじゃありません。足を延ばさないと使えないので、ある種のひざのけがをした人には使えないかもしれません。あとは腰にバッテリーパックを巻いて使うので、腰で支える大きめのバックパックは使えなくなります。
でも、体に何らかの問題があってアウトドア活動ができない人には、Hypershellはきっと役立ってくれます。僕自身が今使うことはなさそうですが、最近年取ってきた僕の両親だったら、Hypershellを使って自然のなかで上質な時間が持てればすごくいいんじゃないかと思います。
書籍(Kindle版もあります)