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Apple Vision Proは、記憶のレコードを再生してくれる

  • 2024年3月20日
  • Gizmodo Japan

Apple Vision Proは、記憶のレコードを再生してくれる
Photo: ヤマダユウス型

「思い出」って最強コンテンツだもんな。

Appleがリリースした空間コンピューティングデバイス(VRとは違うのだよ)、Apple Vision Pro。発売のインパクトもだんだんと落ち着いてきましたが、今年6月には日本向けの発売も期待されています。諭吉50人分かぁ…。

編集部に届いた実機を僕も体験してきたのですが、皆がこのデバイスに対してクエスチョンマークを抱く気持ちが少しわかりました。これ、類似体験がありそうでないもんだから言語化も難しいし「使い方これであってます?」感も拭えないしで、とにかく新しすぎる。

そんな中で、僕的にApple Vision Proのキラーコンテンツだと感じたのは、空間ビデオでした。これは次世代の記録方法になりえそうですし、もっとも進んだ思い出の外部アーカイブ手段だと思います、現段階では。

最新の思い出保存スタイル

空間ビデオの感想についても色々と出ていますが、僕は「写真や動画よりも当時の思い出を強く想起させてくれる」と感じたのです。

iPhone 15 Proで撮影

例えばこの映像。ビルの広々とした空間が奥行き感たっぷりに投影されており、この場所に来た理由やその時の自分の感情なども思い出せました(20分早く待ち合わせ場所についてしまって座れるところを探してウロウロしてた)。

ちなみに空間ビデオの撮影は、iPhone 15 ProとiPhone 15 Pro Max、それからApple Vision Proで可能。

こちらはコブシのつぼみの奥にムクドリが見えたところを空間ビデオとして撮影。

このスクショだと何がなんだかって感じですが、空間ビデオは立体感を強く記録できます。花の奥行きやムクドリまでの距離感、鳴き声なども感じられて、スクショで見るだけではわからない臨場感がある。

写真、映像の次のステージか

人類の何がすごいって、先人たちの経験を外部に保存する方法を編み出したことです。かつては口伝によって子孫に伝えられてきた経験値は、文字あるいは絵の発明によって石碑や書物のかたちで残されるようになりました。ヘロドトスや司馬遷がいなかったら、過去への解像度はいかほどのものか。

やがて、より克明に現実を記録する手段として写真が発明されます。さらには写真に時間軸を追加した、映像という記録方法も生まれます。映像は現代の記録方法としては最新のメディアで、特別なイベントは文字よりも写真よりも映像で残すのが人類のトレンドです。

空間ビデオは、言ってしまえば映像の次のアーカイブ形態なのではないか、と。

映像が立体的に記録されてることに加えて、音も撮影時の定位感をそのまま記録した「空間オーディオ」として再生されます。視覚と聴覚の両方を、空間情報をふくめて体験させることにより、2次元の映像よりも強く強く思い出を想起させることができている。

文字が思い出アーカイブのバージョン1、写真がバージョン2、映像がバージョン3とするなら、空間ビデオはバージョン3.5くらいに位置するんじゃないかな。なんなら立体音響技術はエンタメよりもアーカイブ方面に有用な気がしますね。映画館の存在からもわかるように、音響は映像に対する印象を大きく左右しますし。

バージョン4になるには?

バージョン4じゃなくてバージョン3.5とした理由は、フレーム(枠)の存在です。ゴーグルまで装着して視聴する空間ビデオといえど、見えている映像の上下左右には終わりがあります。これじゃあ没入してるとは言えません。あくまで、視聴してるだけ。

とはいえ、写真や映像のような平面物にはない要素として、立体感があります。ディスプレイに映る平面の動画は、手前を見るときと奥を見る時で目のピントが変わることはありません。が、空間ビデオやVR映像はピントが変わる体験があります。これがかなり現実っぽさを感じる原因になっているように思います。

空間ビデオの場合、上下左右のフレームをやんわりぼかすことで「枠内を見てる感」を減らす工夫されていますが(さすがのUI設計)、それでも視界たっぷりに映像が映るわけではない。ここは現在のVRモノ全般のボトルネックともいえそうです。

真の意味での没入を目指すなら、フレームのない360度全天球映像+深度センサーによる立体感+立体音響みたいなものが必要かもしれませんね。さらにリアリティや自由度を求めていくと、いずれは『トータル・リコール』みたいな記憶販売レベルの没入感になるかも?

記憶のレコードを再生するように

思い出を想起させるメディアとしての空間ビデオは極めて優秀ですが、それは同時に、他人が撮影した空間ビデオを見てもしっくり来ないともいえます。実際に他の人が撮影した空間ビデオも視聴しましたが、自分で撮影したときとは感じ入るものが全く異なりました。そりゃそうです、想起させる原体験がないんだもの。

そういった意味では、Apple Vision Proが個人利用を重視している設計になっているのもプロダクトの思想として合致してるなとも思いますし、むしろパーソナルに特化させることで他のVRコンテンツと一線を画しているところもあるかも。

「Apple Vision Proのどこがすごかった?」と聞かれたら、僕は「記憶を蘇らせてくれた」と答えます。

その想起を体験できるのが撮影者だけってところも、昨今のシェア至上主義への贅沢なカウンターになっていてカッコいい。

いくら繋がりを求めても、思い出という究極の個人コンテンツには敵わない…のかも?

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