5千年の時を経て明かされるミステリー。
私たちが死んだあと、残った歯は未来の遺伝学者にどんな物語を伝えるのでしょうか。その物語が、5千年以上前に現在のデンマークで頭蓋骨を砕かれたヴィットラップ人(Vitrup Man)の物語よりも明るいものであればいいのですが…。
ある研究チームが先日、ヴィットラップ人の歯に閉じ込められていた同位体を精査し、幼少期から死に至るまでの人生をたどることに成功しました。その男性はスカンジナビア沿岸部の出身で、デンマークの農場に移り住んだのち、晩年は儀式的暴力行為(神への生贄として殺された?)で命を奪われることになったようです。この研究成果は、最新の科学誌PLOS Oneに掲載されました。
ヨーテボリ大学の考古学者で、論文の主執筆者であるアンダース・フィッシャー氏は米ギズモードに対し、
我々の研究が始まる前は、これは単なる年代不明の人骨でした。現在、我々は彼が生きた年代やルーツだけでなく、その健康状態、地理的および食生活の生活史について多くのことがわかっています。
と述べています。
Illustration: Anders Fischer (contents) and Niels Bach (drawing) via Gizmodo US ヴィットラップ人の最期を可愛くユーモラスに描いたイラスト。粉々になった頭蓋骨と数本の骨が発見されたのは、1915年のこと。デンマークの泥炭湿原で広葉樹製のこん棒と一緒に見つかりました。湿原は嫌気性(空気が遮断される)なので、自然にミイラ化するには絶好の場所です。
ユトランド半島では儀式の生け贄として殺されたと思われるトルンド人の遺体が発見されており、それを最近分析したところ、2,400年前の胃の中から最後の食事の残骸が見つかりました。実は、ヨーロッパの湿地帯にはいたるところに遺体があり、その多くは儀式的目的またはその他の暴力によって殺害され、最終的に泥炭の中に保存されています。
Photo: Wikimedia Commons via Gizmodo US デンマークの泥炭地、ユトランド。今回調査対象となったヴィットラップ人の死亡推定年齢は30歳から40歳。DNA分析と歯に含まれる同位体レベルの研究、歯石の塩基配列の解読を組み合わせることで、この男性が沼地にたどり着くまでの道のりを初解明することができたのです。
研究者チームは、このヴィットラップ人が10代の頃までは主に海洋哺乳類と魚を食べていたことを発見し、彼が海岸に住んでいたらしいことがわかりました。しかし、18歳になる頃にはデンマークに移り住み、食生活はヤギやヒツジなどの農耕食へと変わっていったようです。遺伝学的に、ヴィットラップ人は現在のノルウェーやスウェーデンに暮らしていたコミュニティと密接な関係があり、彼の食生活が示す沿岸部の環境を裏付けています。デンマークに移住したヴィットラップ人の彼の肌は、おそらく周囲の人々よりも色が濃かったと思われます。
ヨーテボリ大学の発表文の中でフィッシャー氏は、
科学者たちが、これほど詳細に、これほど遠い過去の北ヨーロッパ人の生涯をマッピングできたのは初めてのことです
と述べています。
研究チームは、彼のそばにあった広葉樹のこん棒が、彼の命を奪った凶器かもしれないと考えています。ヨーテボリ大学の研究者で共著者のクリスティアン・クリスチャンセン氏は、
おそらく彼は過酷な肉体労働に耐えられなくなり、神々の生贄にされた奴隷であったと理解すべきでしょう
と発表の中で解説しています。
ヴィットラップ人男性は少なくとも8回頭を殴られ、頭蓋骨が割れてしまいました。彼が死に至った経緯は明らかにはなっていませんが、彼がどこから来て、どのように生きていたかはだいぶわかってきました。フィッシャー氏は米ギズモードに対し、研究チームは現在、同様に残された別の遺体の生活史を解読する作業を行なっている、と語っています。