意外と奥が深かった「俺としかマッチしないアプリ」
「オンラインデートはあまりやったことがありませんでした」と話すロス・メイヤーズさん。メイヤーズさんは、ニューヨークのブルックリンに住むアプリ開発者で、これまでの恋人たちはみんな生活の中で直接出会ってお付き合いが始まった人ばかりでした。
しかし昨年の夏、当時の彼女に別れを告げられ、シングルとなったメイヤーズさんはついにオンラインデートに挑戦することにしました。
選んだアプリは「Hinge」。1か月間、友人からアドバイスを受けたり、プロフィール写真を変えてみたり、一日中一生懸命考えてメッセージを書いたり、さらにはプレミアムアカウントにするために課金してみたりもしました。
でも結局のところ、メイヤーズさんが見つけたのは恋人ではなく、失望。「アプリは自分には合わないと感じました」とメイヤーズさんは言います。そこでアプリ開発者のメイヤーズさんは、新しい解決策を思いついたのです。
メイヤーズさんによるメイヤーズさんだけのデートアプリ。そう、文字通り、メイヤーズさんしかいないデートアプリを作ったのです。
アプリの名前は「Flirt With Los」(ロスといちゃつく)。洗練されたアルゴリズムはありません。「スーパーライク」もありません。全員をスワイプしきって、課金すればもっと候補が出てくるってこともありません。
まず、スワイプすらないんです。選択肢はたった一人のプロフィールのみだから。
アプリを開いて、XかInstagramのユーザー名を入力すると、そこに表示される候補のプロフィールはメイヤーズさん。「いちゃいちゃ」か「パス」の2つの選択肢が表示されます。メイヤーズさんしかいないアプリ…。運命の相手を見つけるのはメイヤーズさんなのか、女性のほうなのか...。
多くの人にとって、生活を満たすアプリやデバイスは人間関係をつなげてくれる一方で、疎外感ももたらすものでもあります。デートアプリがその典型的な例です。
数百万人の見知らぬ独身がオンラインで愛を探していますが、多くの人が今まで以上に恋人を見つけるのが難しくなったと言います。
そんな中、Flirt With Losはこれまでとは全く異なる方向に進んでいるアプリです。だって他のアプリにはない、どストレートな一対一のアプリだからです。
さて、Flirt With Losに出てくるメイヤーズさんの写真はというと、自信に満ちた態度で鏡を見つめています。Tシャツを着て、ゴールドチェーンを身に着け、レザーの靴とスカートを履いている姿です。好みではない? なら「Pass」をタップです。すると、泣いているメイヤーズさん写真が表示されて、もう一度考えるように言われます。
それじゃあと「Flirt(いちゃつく)」をタップすると「Hey los、あなたのスタイル、いい感じ…。いつか連絡してね?」または「いい感じに輝いている。魔法が効いてるみたい」とメイヤーズさんへ送るコメントがいくつか準備されているので選びます。その提示されたコメントが自分らしくないなと思ったら、リフレッシュを押します。するとさらにコメント例が表示されます。
メイヤーズさんは、空白のテキストボックスに何かを書いて送らなきゃという恐怖心を取り除きたかったと話しています。
ただちょっといい感じのいちゃいちゃ度もあり、興味深いとも思うコメントを選んでほしかったんです。完璧な言葉を見つける必要はないんですよ。だってただ一瞬のつながりなんですから。
とメイヤーズさんは語ります。
2023年、メイヤーズさんは1年間、毎月新しいアプリをリリースするというチャレンジを自らに課しました。自分のコーディングスキルを向上させるためでしたが、同時にソフトウェア開発について全く新しい考え方を探求していたからです。
Screenshot: Flirt With Los自分の中に、CEOように何かを作り上げたいエネルギーの部分と、アートを作りたいラッパーのように感じる部分があります。このふたつを解決するのに多くの時間を費やしてきました。私は他の人がミックステープをリリースするように、アプリをリリースできるかどうかを試してみたかったんです。
と話しています。
多くのテック企業はビジネスを「つながり」を中心に構築していますが、メイヤーズさんはさらに一歩踏み込んでアプリをアートプロジェクトに変えているのです。メイヤーズさんは、このアプリがあなたとメイヤーズさんをつなげてくれたり、また彼のちょっと変わった個人表見とつながったらいいなと考えているそうです。
1年間毎月新しいアプリを作り続けた中で、成功したものもあれば、失敗したものもありました。
「Intentional」というリマインダーアプリは、やることリストを作ってそのタスクをユーザーがどう説明したかに基づいて、個別に励ましを表示するというもの。ユーザーはアプリからもらえる励ましの言葉に基づいて自分のタスクをどう表現したらいいか学んでいることをメイヤーズさんは知ったそうです。
そして、postypostというAIを使用してSNSの投稿を毎日違うテーマに沿って書き直してくれるアプリも作りました。かっこいい、賢いことを投稿しなきゃという心配をする必要がなく、自己表現することができるようになるという仕組みです。
でもやはり「Flirt With Los」は特別ですよね。ちょっとした冗談ぽい感じもありますが、ちゃんと真剣さもあるんです。
これは私が今までにやった中で最も個人的なものです。私が作ったアプリすべては私が経験した問題を基に作ったのですが、Flirt With Losは『これはが私です。これが私の顔であり、これが私が抱えている問題です。私は恋人が見つからないんです』と言っているんですから。
と話すメイヤーズさん。
実際、Flirt With Losは非常に個人的なものだったので、メイヤーズさんはリリースするのを迷っていたそうです。リリースする勇気を持つまで数週間も悩んだとのこと。
でもしばらくして明確な感覚が湧いてきました。つながりを見つけたいのなら、特にテクノロジーの障壁がある場合には、自身の100%を、すべての欠点を持って見せなければなりません。
と悟ったそうです。
メイヤーズさんは自身の仕事が、まさにアプリが何になることができるのかを試行錯誤している独立系アプリ開発者のムーブメントの一部だと話しています。
iPhoneがリリースされた初期の頃以来、こういった探究心は長い間出てこなかったように感じます。カメラロールの何百もの写真を一度に回転させるDrumrollや、インターネットの初期のようなAIMスタイルのライブテキストチャットを提供する@Meなどもいい例です。
Knockでは、Snapchatのようなビデオを友達に送ることができますが、創造的な表現をしてほしい思いから音声は送れません。
Soundmapは、Pokemon GoとBandcampをクロスオーバーさせ、アーティストが地図上に自分たちのシングルをドロップし、ユーザーはそれを歩いてそれを集めに出かけるというものです。
こうして、メイヤーズさんを含む数えきれない数のアプリ開発者が、ムードボード、日記、プレイリストビルダーなど、AIを活用したアプリをいろいろ作っているのです。
でもFlirt With Losはシンプルそのもの。アプリを開いて、「Flirt」を選んで、アプリを閉じて日常に戻ります。
メイヤーズさんは、ユーザーがアプリを閉じた後に魔法が始まると約束しています。つまり、偽のユーザー名を入力しない限り、ユーザーはソーシャルメディアアカウントをメイヤーズさんに渡したことになるからです。
なので、「Flirt」を選べば、メイヤーズさんはいつかDMを送ってくるわけですし、それで本当に恋が始まるかもしれないじゃないですか?
メイヤーズさんは
私は矢を放つ側の人間になりました。アプリをダウンロードすれば、あなたにその矢が飛んでくるかも?
とキュートに話してくれました。