日本の成長戦略の柱である「観光」。近年はインバウンド需要の高まりが著しく、街中で外国人ツーリストを見かける機会が増えるなど、その影響を肌で実感することができます。反面、観光地の混雑やマナー違反をはじめ、オーバーツーリズムに起因する課題が浮き彫りになってきたのも事実で、その対策として観光庁が旗振り役となり、「持続可能な観光(観光SDGs)」への取り組みが始まっています。「持続可能な観光」とは何か? そして、国内外の旅行者を受け入れる各旅館・ホテルはどんな取り組みを行っているのか? 2025年2月に開催された、日本各地の宿や観光の魅力を発信するイベント「宿フェス2025」に出展していた4軒の旅館・ホテルへのインタビュー取材を通して、ひも解いていきましょう。
観光庁が打ち出した、「持続可能な観光(観光SDGs)」。ひと言で言うと、「住んでよし、訪れてよしの地域づくり」を目指すもので、オーバーツーリズムの未然防止や、自然環境、文化など地域資源の保全・再生、また、補助金に頼った一過性の取り組みではなく、関係者が連携して継続的に自立・自走できる地域づくりを柱に据えています。
「GSTC(グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会)基準」は、「持続可能な観光」についての国際的な基準を定めたもので、観光庁は、この「GSTC」に準拠した「JSTC-D(日本版持続可能な観光ガイドライン」を策定。「持続可能な観光」の実現のために「何を行うべきか」を示しています。ではこうしたガイドラインに則り、各旅館・ホテルは具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか? 4軒の旅館・ホテルに話を聞きました。
名湯・城崎温泉の温泉街の中心に佇む、情緒溢れる小粋な温泉宿。土壁・古木・和紙・竹などの自然素材でデザインされた館内は、シックでモダン、ほかでは味わえない非日常の空間が演出されています。デザインの異なる3つの貸切風呂、夕食・朝食ともに部屋食、100種類近くある色浴衣のレンタルサービスなどが好評で、記念日旅行で利用されることも多いのが特徴。多くのリピーターで賑わっています。
●「持続可能な観光」についての課題と取り組み
人材不足の問題はかなり深刻です。人手不足対策として、AIの導入をはじめ、セルフレジ、ロボットによる接客や配膳、自動精算機などがあり、それらを活用することも大切ですが、旅館のおもてなしの最大の魅力は「人」であると考えており、人にしかできない接客・サービスをどのように続けていくのか、という点が最大の課題です。
「持続可能な観光」という大きなテーマで言うと、やはり旅行者(ツーリスト)」の意識を変える努力も必要であると考えています。旅先のルールやマナーを守っていただくのはもちろんですが、訪れた地や宿に「お邪魔をする」「お借りする」という意識に変えていく必要があると感じています。国民全体で意識を変えていかなければ、日本中の魅力ある観光地や宿泊施設が疲弊していき、観光立国の実現も難しくなってしまうのではないかと。観光立国を目指すためにも、時代に合ったトラベルマナーを広めていきたいです。
城崎温泉は、「町全体が一つのお宿」というコンセプトが昔からありますので、自治体はもちろん、地元住民との連携も強く、「共存共栄」が共通の理念になっているのも強みだと思います。ただし、地域住民あっての観光地ということを忘れてはなりません。観光客ファーストではなく、地域住民と観光客が共存するためにどのような町づくりをするべきか、その点は今後も検討していく必要があると思います。
当館には、スイートルームや客室露天風呂付きのような贅沢なお部屋はありませんし、温泉街の中心に位置しているので、オーシャンビューや夜景などをお楽しみいただく眺望の良いお部屋もありません。しかしながら、夕食・朝食のお部屋提供や、3つの貸切風呂、そして遊び心たっぷりの空間などを用意しており、「大切な人との距離がぐっと縮まる」宿として、多くのリピーターにお越しいただいております。記念日などでのご旅行の際は、ぜひ当館を候補地の一つとしてご検討いただければ幸いです。スタッフ一同、精一杯のおもてなしをご用意してお待ちしております。
世界自然遺産、北海道・知床に宿を構える「北こぶし知床 ホテル&リゾート」。ロビーやラウンジ、テラス、客室、温泉・サウナ、レストランなど、館内のいたるところから雄大なオホーツク海を一望でき、例年2月ころには、海を覆いつくす流氷を楽しむこともできます。自慢のサウナは、「流氷を見渡せるサウナ」として、「全国のサウナランキング(SAUNACHELIN/サウナシュラン)」で3度のランクインを果たし、殿堂入り。「じゃらんニュース【全国】行ってみたい絶景サウナランキング」では1位に輝いています。
●「持続可能な観光」についての課題と取り組み
「知床を、つづけていく。」をコンセプトにさまざまな取り組みを行っていますが、ヒグマとの共存を目指す「クマ活」はその最たる例と言えます。創業60周年を迎えた2020年に、「知床への恩返しをしよう」と考え、地域の自然保全を担当する「公益財団法人 知床財団」と連携しスタートしました。世界自然遺産/国立公園でもある知床は、その雄大な自然から「世界有数のヒグマの高密度生息地」としても有名で、トレッキングやドライブ中にヒグマに遭遇することもあります。ヒグマを見るために訪れるお客様がいる反面、餌をあげてしまったり、写真を撮るために過剰に近づいてしまったりと、人とヒグマの距離が近くなりすぎてしまい、いつ事故が起こってもおかしくない状況です。
このような問題に対するアクション、たとえば、ヒグマが街に入ってこないための草刈り、ヒグマが人に興味を持たないためのゴミ拾いなどを、当ホテルスタッフ、地域住民だけではなく、当ホテルのお客様やステークホルダー企業、高校生・大学生など、多様な参加者にご協力いただきながら実施しています。また、「クマ活」で集めた協力金やオリジナルグッズの売上の一部などから、地域のクマ対策への寄付なども行っています。多様な方々を交えて活動を広げ、お客様に対する普及啓発も積極的に行い、人とクマが⼼地よく過ごせる場所になるよう、活動を継続していきたいです。
知床は、世界自然遺産に登録された、日本でも特別な場所です。雄大にそびえる知床の山々、ふもとに広がる森、秋には鮭が遡上する川、海を覆う流氷、そして、この自然の中で暮らす野生動物たち。この美しい自然は、いつまでも当たり前にあるわけではなく、温暖化や人の影響で、少しずつ変わりつつあります。だからこそ、私たちはこの自然を未来に残すために、環境を守る取り組みを続けています。知床の大自然を楽しみながら、その大切さを感じてもらえたらうれしいです。ぜひ、大自然を満喫しに来てください!
石和温泉の老舗旅館。明治12年に割烹料理屋として創業し、地元食材を使用した遊び心ある創作料理「感動の朝食」、明治時代から受け継がれる伝統の味と料理長の追求する新しい日本料理を融合させた、心のこもった夕食で人気を博しています。敷地内から湧く自家源泉100%の美肌の湯を、豊富な湯処で思う存分楽しめます。
●「持続可能な観光」についての課題と取り組み
地元の富士山エリアはオーバーツーリズムが顕著ですが、全国にはさまざまな温泉地や観光地があり、多くの人に地方の魅力を知ってもらいうまく分散していければと考えています。
石和温泉旅館組合では首都圏を代表するバリアフリー温泉地を目指しており、この目標を達成するために笛吹市や地元医師会、大学などと連携しています。石和温泉は、首都圏から車、電車で90分とアクセスが良い街中にある温泉地です。石和温泉エリアには7つの大きな病院もあり、連携協定を結んでからは、バリアフリー研修の実施や、それぞれの宿のバリアフリーの確認などが進んでいます。
昭和36年に石和温泉が湧出して、日本で初めてクアハウスや温泉病院ができるなど、地域の特徴がようやく見直されました。石和温泉旅館組合中心に、観光地にも連携を広げ、地域全体ですべてのお客様にやさしいバリアフリー観光地を提供していきたいです。
石和温泉は、温泉だけでなく恵まれた自然の中で生まれた桃、ぶどうなどの特産品もあります。山梨のちょうど中心に位置しているため、観光の拠点としてぜひ泊まりがけでいらっしゃってください!
嘉永元年(1848年)創業、種子島唯一の源泉掛け流し温泉「赤尾木の湯」を有する、鹿児島県内一の老舗宿「あらきホテル」。泉質はナトリウム-炭酸水素塩温泉で、古い角質を落としてすべすべの肌にする特徴があるほか、オーシャンビューのレストランからは東シナ海に沈む夕日の絶景が眺められます。
●「持続可能な観光」についての課題と取り組み
多くの観光地では、特定の事業者や地元観光協会などの観光関係団体だけで取り組んでおり、地域全体では取り組めていません。観光関係者だけが「持続可能な観光」に向けた取り組みを行うのではなく、その地域の自治会や地元住民に対しても、「観光との共存」に対しての理解を得ることが重要だと考えています。自治会や地元住民が、観光客から恩恵を受けられる仕組み作りまで考えていかなければなりません。
「JSTS-D」の推進に向けては、エコ清掃、リサイクル、アメニティバー、植物性由来のアメニティ、節水、消費電力モニタリング、地域の伝統文化の継承など、さまざまな取り組みを行っています。今後、種子島が一体となって「JSTS-D」を推進していくためにも、地域住民やステークホルダーに対して、積極的に働きかけていきたいと考えています。また、隣の屋久島は世界遺産ということもあり、欧米を中心に一定のインバウンド需要が見込めるため、種子島だけではなく、屋久島とも連携を図り、種子島&屋久島が持続可能な観光地として世界から選ばれるよう、魅力を高めて行きたいです。
古の鉄砲伝来から最先端のロケット打ち上げまで、小さな島の中にたくさんの魅力が詰まった種子島へ、おじゃり申せ!(いらっしゃいませ!)。