ロサンゼルスのダウンタウンから車で約45分。太平洋沿いのパシフィック・コースト・ハイウェイ、通称PCHのドライブはゴキゲンです。目指すはセレブひしめく(⁉)、マリブビーチ!
サンタモニカとベンチュラ、2つのサーフシティの間、約50キロの海岸線が続くマリブビーチ。
もともとここには先住民のチュマシュ族の村がありました。それが1891年、海の近くで農場を開きたいというビジョンを持ったロサンゼルスの実業家フレデリック・H・リンジが1万3,000エーカー(約52平方キロメートル)を購入。
マリブビーチのランドマークになっている桟橋マリブ・ピアも、リンジの農場で栽培された穀物や果物などの農産物を、船で出荷するために1905年に建造されたものです。
今では、海岸線にロックスターやムービースター、花形アスリートなどがセカンドハウスを構え、“ビリオネア(億万長者)の隠れ家”と呼ばれるマリブビーチ。
海沿いにあるレストラン「ノブ・マリブ」ではカニエ・ウェストとコートニー・コックスが談笑していたとか、ジャスティン&ヘイリー・ビーバーがバレンタインデーにランチをしていたとか、ウワサのレベルもちょっと違います。
セレブはなぜ、この地を選ぶのでしょう?
ロサンゼルス国際空港から車で45分と近く、プライベートジェットのための空港があるサンフェルナンドバレーにも近い立地。海外へ出かけるのに便利なロケーションにあります。
加えて観光地特有の浮ついた騒がしさがなく、落ち着いた空気感、そしてやはり太平洋が広がる、美しい海の眺望があるからでしょうか。
住民たちのマリブビーチへの思い入れは強く、2015年にはビーチが浸食されるのを危惧し、未来に海岸線を残すために結集。砂を補充するプロジェクトのために、該当する121区画のオーナーは10年間で3,100万ドルを支払う約束をしたそう。その先頭に立っていたのは、ダスティン・ホフマンやレイ・ロマーノだったとか。
マリブビーチの海岸線は住宅地のせいか、パブリックアクセスができない場所も多いそうです。たとえばPCHからエスコンディードビーチに抜けるパブリックアクセスも、昨年ようやく住宅のオーナーが承諾したとか(係争期間はなんと40年)。
そうした住民たちの思いや働きのせいか、ここにはゆったりとした空気感と特有のエクスクルーシブ感が漂っています。
そんなマリブビーチで、フルサービスを受けることができ、プライベートビーチを持っている唯一のオーシャンサイドのラグジュアリーホテルが、「マリブ ビーチ イン」。
ホテルから階段を下りるだけ、わずか34歩で波打ち際です。ちなみに、ホテル前の砂浜はビリオネアビーチと呼ばれています。
「マリブ ビーチ イン」が開業したのは1980年代のこと。ビリオネアのデヴィッド・ゲフィンが、自分と友人の海辺の隠れ家として建てたのがはじまり。太平洋に面して南側を向き、東にサンライズ、西にサンセットの両方が望めるロケーションです。
47の客室はすべて光あふれる海が目の前に! そしてその一角にはマリブ・ピア!
ウッドを多用した室内は、太陽光の反射を意識して、ブルーグレーやダークブルー、ベージュなどの上品なカラースキームでまとめられています。フローリングにラグを敷いた床は素足に心地よく、置いてあるアメニティはどれも厳選されたものばかり。
全室に暖炉が用意されており、テラスで潮風を受けながらも、室内に目を向ければ揺れる炎も眺められるレイアウト。一日中潮騒に包まれ、打ち寄せる波を眺めていると、インスピレーションが湧くのか、ステイケーションしに来る作家もいるそうです。
「マリブ ビーチ イン」のすぐ西側、マリブ・ピアを境にしたサーフライダービーチは、「セーブ・ザ・ウェーブ」が世界ではじめて認定した“世界サーフィン保護区”。
カリフォルニアの中でも指折りのサーフスポットで、ゆったりした波にのんびり乗っているサーファーや波待ちをしているサーファーたちの姿が見られます。
サーフィンにまつわる歴史をさかのぼると、マリブ農場があった頃から敷地に不法侵入して波乗りの練習をする輩がいたそう。あのマリリン・モンローもここで波乗りを楽しんだとか。
そんなマリブビーチがカリフォルニアのサーフカルチャーの中心だったのは1950〜60年代。その最重要人物といえるのが、キャシー・コーナーでしょう。
“Girl(女の子)”と“Midget(小さな人)”を組み合わせた“ギジェット”の愛称で呼ばれた彼女は、いわば健康的な小悪魔といった感じ。マリブビーチで波乗りをする少年たちの楽しそうな様子とサーフィンに興味津々で、ピーナッツバターのサンドイッチと交換に、レッスンをしてくれないかと提案したそう。
自分のカラダの2倍はあるロングボードを抱えたギジェットを囲んでいたのは、ミッキー・ドラやミッキー・ムニョス、トム・モーリーなど、その後のサーフカルチャーに多大な影響を与えた、今ではレジェンド中のレジェンドになった男たちでした。
脚本家だったギジェットの父は、彼らの様子やサーフカルチャーを小説に描き、その本は瞬く間にベストセラーに。映画化もされ、これがハリウッドで最初のサーフィン映画となりました。さらに、テレビドラマ化も!
マリブのサーフカルチャーを表舞台に引き上げた彼女。今もマリブ・ピアで髪に花をつけた元気なおばあちゃんを見かけることがあるとか。もしかしたら、ギジェットかもしれませんね。
マリブビーチ
●アクセス ロサンゼルス国際空港から車で約45分
●おすすめステイ先 マリブ ビーチ イン
https://jp.lhw.com/hotel/Malibu-Beach-Inn-Malibu-CA
取材協力
Visit California https://www.visitcalifornia.com/jp/
古関千恵子(こせき ちえこ)
リゾートやダイビング、エコなど海にまつわる出来事にフォーカスしたビーチライター。“仕事でビーチへ、締め切り明けもビーチへ”をループすること30年あまり。
●オフィシャルサイト https://www.chieko-koseki.com/
文・撮影=古関千恵子