音楽好きコロンボとカルロスがリスニングバーを探す巡礼の旅、次なるディストネーションは島根県松江市。
音楽の道は深くて険しいと、それとなく気づかせてくれた夜コロンボ(以下コロ): まあ、音楽の世界は広いね。まだまだ知らないことばっかりだよ。
カルロス(以下カル): どうしたの? なんかギャフンとさせられちゃったの。
コロ: いや、松江の〈PUENTE〉ってカフェで、マスターの角田潤さんにいろいろかけてもらったら、まあ、幅が広いわけ。フォークにエレクトロにニュージャズに北欧って感じで。自分の狭さを痛感しちゃった。
カル: 音楽の道って、深くて険しいから、知っているつもりでも1%も知らないもの。まあ、そんな発見があるから、楽しいんじゃない。そもそも、その松江のお店、どんな経緯で見つけたの?
陽の高さにかかわらず、しっとりと音楽でまったりさせてくれるカフェ。
コロ: 去年、山下達郎さんのライブが島根県民会館であったんだけど、翌日に知り合いに薦められて、ちらっと寄ってみたんだ。
カル: 行った自慢?(笑)。地方のライブに東京の人が行っちゃ迷惑だよ。楽しみにしている地元のファンが見られなくなっちゃうから。
コロ: お店でも行かれなかったお客さんにそう言われた(笑)。でね、特に達郎さんアピールをしたいわけじゃないんだけど、お店でかけてくれたのが、弾き語りでライブに乗せた「シャンプー」だったの。
カル: 達郎さんがアン・ルイスに書いた曲のセルフカバーね。
コロ: 久しぶりに生で聴いてリフレインしていた曲が、見透かされたようにかかって、うれしかったんだよ。
カル: ライブ帰りにお客さんにサービスするつもりなら、もっとわかりやすいキラーチューンがあるよな。
ボブ・ディランのいたって感傷的で内省的な作品ともいえる『OH MERCY』。アートワークはトロツキーのストリートアート。
最近、堀っているという和ジャズの神レーベル〈スリー・ブラインド・マイス〉から鈴木勲トリオ/クワルテットの『ブロー・アップ』。
コロ: そうなのよ。控えめにひねったところにセンスが漂う。ディランにしても『OH MERCY』をピックアップしたり。
カル: ダニエル・ラノアと組んだ霧のようなサウンドのアルバムだ。裏最高傑作ともいわれているけどな。
コロ: そこからつないだのがロバート・グラスパーの『DOUBLE BOOKDED』。
カル: 意外性に満ちたいいつなぎ。なかなか思いつかないかも。
コロ: でしょ。ニュージャズも詳しいけど、去年から和ジャズにもハマりはじめて、和ジャズの専門レーベル〈スリー・ブラインド・マイス〉を中心に掘り出したんだって。
カル: あくなきディガー精神。
コロ: マスターがいうには、都会のお店と違うのはかけるだけで終わらないことで、大切なのはそのあとの会話なんだそう。
カル: たしかにね。独りよがりにならないように、説明したり、掘ったり、薦めたりとね。客層はどんな感じなの?
コロ: 20代から80代。地元の人から観光客と全方位。最高齢は90代前半らしい。
マスターの角田さんの意外性に満ちた選曲の流れに感心。それでいてマニアックにならないところが不思議。
カル: 最高齢の方にはなにをかけるのかな?
コロ: 越路吹雪だってさ。14時から営業しているから、早い時間は年配の方も多いらしいく、ほかにも岡林信康、高田渡といったフォーク関連も基礎教養として必要らしい。
カル: 松江ってフォークの土壌もしっかりとありそうだね。そういえば浜田真理子って、松江の出身だよね。
コロ: 「彼方へ」をかけてくれた。松江大橋の夜景を見ながら聴いたから、おセンチな気分になっちゃった。
カル: この曲の入っている久保田真琴プロデュースによる『Town Girl Blue』ってアルバム、キョンキョンが帯にコメントを寄せているよね。《久保田さんが連れてきた夕焼けを真理子さんの声が青い夜の色に染めてゆく。このアルバムを聴くことは大人の嗜みのような気がした》だって。たしかに大人の嗜み。
コロ: キミも掘るねー。脱帽。お店のロケーションも松江大橋のたもとだから、夕焼けから薄暮のマジックアワーに聴くにはピッタリ。
カル: 松江大橋っていえば、松江でいちばん古い橋なんでしょ。
コロ: らしいよ。窓面も大橋川の水面に沿って切ってあって、天気のいいときには遠く大山も見えるってさ。音もよければ景色もいい。
松江大橋のたもとに佇むお店からは大橋川、天気がよければ大山も望むことができる。
松江出身のシンガーソングライター浜田真理子『Town Girl Blue』。帯にはキョンキョンのコメントが。
カル: 音がいいのは当たり前だけど、景色がいいレコードバーっていうのは、なかなか希少かも。基本、ロケーションは穴ぐらのアジト感が多いからね。そりゃ、お酒もうまくなりそう。
コロ: たいがい揃っていて、カクテルもなかなかのもんだよ。グラスもピカピカだし。
カル: グラスがピカピカ大事。リスニングバーって得てして、グラスとかお酒とかにこだわりなかったりするから。ほかに目から鱗の選曲とかはあったりした?
コロ: これまた浜田真理子からつないでくれたジュディ・シルかな。しばらく忘れていたよ。〈アサイラム〉ディガーとしては不覚の極み。
カル: それはまずいじゃん。〈アサイラム〉レーベル初のアーティストなのに。
コロ: なんか、松江のあの感じにやたら重なるんだよ。浜田真理子といい、ジュディ・シルといい、この土地は妙に女性ヴォーカルに心動かされる。
カル: ご当地といえば竹内まりやさんもね。松江というか出雲だけど。
コロ: まあ、とにかく楽しかったなー。いろいろ知ったし、いろいろ思い出させてくれた。そうそう、デンマークのスヴェインボゥグ・カーディーブっていうエレクトロ・ジャズデュオ知っていた? ひんやりしたエレピな感じのサウンドなんだけど。
カル: いやー、北欧まで守備範囲ですか! 北欧はABBAくらいかな。そりゃ、勉強になったね。
コロ: これで、いよいよロックおじさん返上かも。
カル: 甘い甘い! まだまだ音楽の道は深くて険しいはず。
選曲もよければ、眺めも秀逸。おまけにお酒も絶品とくればいうことなし。
デンマークのエレクトロ・ジャズデュオ、スヴェインボゥグ・カーディーブの『Superkilen』。
information
Cafe PUENTE
住所:島根県松江市末次本町36 E.A.D.ビル1F
TEL:0852-69-2977
営業時間:14:00〜24:00
定休日:日曜、祝日
Web:Cafe PUENTE
【SOUND SYSTEM】
Speaker:B&W 685
Turn Table:Technics SL-1200 MK3
Power Amplifer:Marantz PM-12
Mixer:E&S DJR200
旅人
コロンボ
音楽は最高のつまみだと、レコードバーに足しげく通うロックおやじ。レイト60’sをギリギリのところで逃し、青春のど真ん中がAORと、ちとチャラい音楽嗜好だが継続は力なりと聴き続ける。
旅人
カルロス
現場としての〈GOLD〉には間に合わなかった世代だが、それなりの時間を〈YELLOW〉で過ごした音楽現場主義者。音楽を最高の共感&社交ツールとして、最近ではミュージックバーをディグる日々。
writer profile
Akihiro Furuya
古谷昭弘
フルヤ・アキヒロ●編集者『BRUTUS』『Casa BRUTUS』など雑誌を中心に活動。5年前にまわりにそそのかされて真空管アンプを手に入れて以来、レコードの熱が再燃。リマスターブームにも踊らされ、音楽マーケットではいいカモといえる。
credit
photographer:深水敬介
illustrator:横山寛多