半数が空きテナントだった小さなショッピングモールが、賑やかさを取り戻すまで

  • 2025年1月29日
  • コロカル
omusubi不動産 vol.8

こんにちは。おこめをつくるフドウサン屋〈omusubi不動産〉の高橋隆幸(たかはし たかゆき)と申します。

私たちomusubi不動産は「自給自足できるまちをつくろう」を合言葉に、毎年、手で植えて手で刈るアナログな田んぼを続けながら、空き家を使ったまちづくりを生業としています。

この連載では、omusubi不動産の個性豊かなメンバーが代わる代わる書き手となり、思い入れの深い物件とその物語をご紹介します。

今回は、千葉県市川市の小さなショッピングモール〈アークタウン〉の再生プロジェクトについて紹介します。

賑やかなアークタウンを取り戻すために

omusubi不動産の拠点となる千葉県松戸市に隣接する市川市。アークタウンは北総線北国分駅から徒歩1分に位置する、ヨーロッパの雰囲気がある小さなショッピングモールです。建物の構成はテナント区画が13室、ワンルーム住居室が6室となります(2024年11月現在)。

外観はヨーロッパのプラザ(人が多く集まる広場)をイメージしてつくられました。先代のオーナー様が設計士さんにイメージを伝え、一緒にアイデアを膨らませながら設計していったとのこと。その想いが実り、1999年の開業当時はレストラン、カフェ、フラワーショップ、海外の駄菓子屋さんなど小さなお店がたくさん入居し、多くの人で賑わっていたそうです。

omusubi不動産での管理をきっかけに作成されたアークタウンのイメージ図。

omusubi不動産での管理をきっかけに作成されたアークタウンのイメージ図。

そして開業から約20年。共通の知人を通じてオーナーさまと出会い、こんな相談を受けました。

「もう一度、アークタウンを日常的に人が集まる場所にできないだろうか」

開業当時は多くのお客様で賑わっていたものの、年数の経過とともに店舗の入れ替えが進み、学習塾などの非来店型のテナントが増えたことも影響して、だんだんと開業時の賑わいはなくなっていきました。

弊社にご相談があった2020年8月の段階で、室内は古く、店舗の半数は空室の状態。外からの視認性が良く、来客が見込める条件のいい道路沿いの店舗も空室になっていました。

しかし、ヨーロピアンな外観と店舗空間の広すぎず狭すぎずのちょうど良いサイズ感に物件としてのポテンシャルを感じ、スタートアップを行うお店にはおすすめできると思いこのご依頼を受けさせていただくことにしました。

空室が目立つ頃のアークタウン。

空室が目立つ頃のアークタウン。

入居審査のステップを考える

当初は、弊社が全空室を一括で借り上げて入居者へ転貸するサブリースの形態をご提案しました。ところが、サブリースにした場合、オーナーさまが入居審査に関わることがなくなってしまいます。

オーナーさまには「開業当初の賑やかなアークタウンを取り戻したい」という強い想いがあったので、話し合いの末、入居審査にはオーナーさまも積極的に関わっていただくほうがよいと判断し、弊社が管理をして、入居者募集を担当させていただくことになりました。

そして、omusubi不動産の物件ではおなじみの「入居者によるDIY改装OK」として募集をする提案をしました。

当時についてオーナーさまはこのように振り返ります。

「一般的な不動産屋に依頼しても『空室よりは契約したほうがいい』という考えで、こちらの希望に添わないテナントさんが入ってしまいます。空室が増えたとしても、良いテナントさんが入ってくれることをじっと我慢して待っていました。そんなときにomusubi不動産と出会いました。室内は古くなっていましたが、現状のままで貸し出しできるということ、そして募集していく店舗の業種などについても助言いただき、心強く感じました」

さらに「多くの方に来店いただけるお店を増やしたい」というオーナーさまの想いを実現すべく、以下のように審査のステップを整えました。

1 応募可能条件として、不特定多数の来店型店舗に限定(事務所や塾などはNG)

2 既にアークタウンで営業されている業種と重複する業種はNG

 (ただし、飲食店はメインが重複しなければOK)

3 どのような店舗や営業を行うのかという企画審査を実施

4 企画審査通過者は、オーナーさまとの面談を実施

5 オーナーさまの面談通過者が晴れて契約可能!

一般的な募集方法とは異なりハードルが高くなりますが、それでもアークタウンならきっと大丈夫だと信じて、募集の準備を進めていきました。

認知度アップを目指したイベント開催〈エドロック in アークタウン〉

募集条件を整えるのに並行して、2020年11月3日、アークタウンの認知度を上げるべく〈エドロック in アークタウン〉というイベントを開催しました。

エドロックは市川市の江戸川河川敷を会場にして行われるフェスでしたが、新型コロナウィルスの影響で人の密集を避けるために、市内のさまざまな場所に会場が分散。弊社スタッフの日比野が、当時、市川市在住でエドロックの実行委員であったことから、オーナーさまにご相談してアークタウンを会場のひとつとさせていただきました。

当日は空きテナントをアート作品の展示やYouTube配信、マルシェで販売される飲食物のイートスペースなどに活用したところ、多くの来場者があり、アークタウンという場所の認知度をアップさせることができました。

エドロックの様子。

エドロックの様子。

 

入居づけの苦戦を乗り越える

エドロックを終えて募集を開始しました。ところが、問い合わせの多くは事務所利用やネットショップの商品撮影場所などの非来店型や、美容系のサロンなど、オーナーさまが求める以外の用途ばかり。お問い合わせの段階で、お断りさせていただくものがほとんどでした。

コロナ禍の影響で、飲食店関係の申し込みも非常に少なく、内見されたお客さまでも当時の空室の多いアークタウンを見て、この場所で営業していけるのか不安に思う方が多かったと思います。

募集開始から少し経った頃、入居づけの苦戦を打破するために、中庭側の2店舗に限り、当初はNGとしていたスタジオやショールームの利用も可能とすることに。間口を広げたことも影響して、反響が増え、フォトスタジオのご入居につながり、中庭側の店舗にはガーデニング用品のショールーム、路面店舗には文具・雑貨店が相次いでオープンしました。

テナント同士が交流する「店長会議」

物件に動きが出たことが呼び水となったのか、テナントの内見数が増加し、一般の来客数も増え、イタリアン、フレンチ、クレープ店がオープン。弊社で募集を開始してから約1年半で、とうとう満室になりました!

満室になるまでの各店舗の募集のステップはすべて私が立ち会ってきたので、個人的にも感慨深いものがありました。一般的な募集方法ではないアークタウンに熱意を持ってご応募いただいた各テナントさんにも本当に感謝しています。

無事、満室になったアークタウンですが、その後、店舗間のコミュニケーションをとる一環として、オーナーさま主導で毎月1回「店長会議」を開催することになりました。新旧のテナントが入り混じって対話することで、「こうしたほうがアークタウンはもっと良くなる」「こういうイベントを開催してはどうか」などの意見交換が活発になっています。2023年10月には、アークタウン全店協力のもとイベントが開催されました。

「アークタウン・シーズン2」新テナントや店舗同士コラボも

2023年にはアークタウンの開業当初から長く営業されていた店舗の移転や閉店が相次ぎ、「アークタウン・シーズン2」と題した新たな募集活動がスタートしました。

初回募集と同様に少し時間はかかりましたが、アークタウンを気に入っていただけるお客さまと巡り合うことができ、かき氷店、フラワーショップ、犬のお洋服&フォトスタジオがオープンしました。2025年2月中には、焼き菓子をメインとしたカフェも新規オープン予定です。

店長会議が定着したこともあり、現在では店舗同士のコミュニケーションも活発になっています。イタリアンレストランとフラワーショップの店舗間コラボレーション営業が生まれたり、それぞれがアイデアを出したり、各店舗がアークタウン全体を盛り上げる意識を持ちながら営業が行われています。

 

入居者によるDIYリノベーション

ここでひとつ、店内内装のビフォーアフターをご紹介させていただきます。シーズン2にてご入居いただいたフラワーショップですが、業者さんに依頼した工事のほかに、店主さんが部分的にDIYで改装をしており、すてきな店舗へと生まれ変わりました。

店主さんにお話をうかがったところ、このようにお話いただきました。

「内装は、旅行先のパリで見たお店を参考にしました。アーチの棚はどうしても取り入れたかったので、実現できて満足しています。いろんなお花の色に合うように、壁には複数の色を取り入れました。お花を引き立たせるために、店内のライトも多くしています」

アークタウンにさらなる彩りを与えてくれ、オーナーさまも弊社スタッフ一同も大喜びでした。

内装に手を入れる前の室内。

内装に手を入れる前の室内。

 

店主さんの思いを反映させ、生まれ変わった店内。

店主さんの思いを反映させ、生まれ変わった店内。

 

2020年からのアークタウンの変化について、オーナーさまにも率直な想いをうかがってみました。

「正直、驚きでしかありません。十分すぎるほどすてきなテナントさんたちにご入居いただき、空室の多かった当時の状況から考えたら今のアークタウンは雲泥の差です。私たちが想定していないようなテナントさんからの応募もあり、うれしく思っています」

こうしたお喜びの言葉をいただき、長く担当してきた私も一安心。うれしい限りです。

再び、人が集まる場所へ

2024年3月には〈HAVE A good DAY ARKTOWN SPRING FAIR(春のマルシェ)〉というイベントを開催。外部からの出店者を招いて中庭でマルシェをしたり、吹奏楽のコンサートやライブ演奏を実施したりして、大盛況でした。オーナーさまが企画とコーディネートを行いながら、テナントさんにも限定サービスをご用意いただき、アークタウン全体でイベントをつくりあげていきました。

HAVE A good DAY ARKTOWNの様子。

HAVE A good DAY ARKTOWNの様子。

2024年11月の〈HAVE A good DAY ARKTOWN AUTUMN FAIR(秋のマルシェ)〉でもマルシェやライブイベントを開催し、大盛況に終わりました。少しずつですが、アークタウンの認知が広がっていることを実感しています。

とはいえ、オープン当初の「日常的に人が集まる場所」へまではまだ道半ば。再びその光景が戻るまで、引き続き取り組んでまいります!

information

アークタウン

住所:千葉県市川市堀之内3-17-24

Web:アークタウン

omusubi不動産

おむすびふどうさん●「自給自足できるまちをつくろう」をコンセプトにまちの方々と田んぼや稲刈りをするフドウサン会社。築60年の社宅をリノベーションした「せんぱく工舎」をはじめとしたシェアアトリエを運営するほか、松戸市主催のアートフェスティバル「科学と芸術の丘」の実行委員として企画運営を行う。2020年4月下北沢のBONUS TRACKに参画。空き家をつかったまちづくりと田んぼをきっかけにした暮らしづくりに取り組んでいます。https://www.omusubi-estate.com/

credit

編集:中島彩

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