今やAIやDXといった言葉を見ない日がないほど、デジタルイノベーションが進んでいます。その一方で、ITに精通していない人にとっては、まだまだ踏み込めない世界でもありますよね。そんな人たちに朗報なのが、〈STATION Ai〉の誕生のニュース。名古屋駅から電車で7分、歴史ある鶴舞公園に隣接した、日本最大級のオープンイノベーションの拠点です。
愛知県が進める「Aichi−Start up戦略」の中核として、ソフトバンクの子会社であるSTATION Ai株式会社が運営を手がけています。今回は、〈STATION Ai〉で体験できることを紹介していきます!
モノづくり王国・産業イノベーションの歴史を持つ愛知愛知県を中心とした東海圏は、産業イノベーションや伝統工芸の集積地であり、モノづくりにすぐれたエリア。名古屋の中心に、スタートアップを支援する拠点ができるのは、自治体の方向性ともマッチし、企業からも熱い視線を集めています。
なかでも、この施設がすばらしいのは一般に開放されていること。現在、各地に企業が運営するオープンイノベーションは増えていますが、B to Bが中心のため、一般の人が利用できる施設ではないのが現状です。
オープンな雰囲気を感じさせるエントランス。両側にはフリースペースで飲食もできる。
親子でも気軽に行ける飲食店やホテル、フリースペースが充実ここ〈STATION Ai〉は1階にはフードラウンジ、2階には展示室や、打ち合せスペース、カフェ、7階にはホテルが入っており、誰でも気軽に利用できます。フードラウンジでは、海外からの利用者も多いことから、丼にハンバーガー、ベトナム料理、インド料理、ベジタリアンと、バラエティ豊かな多国籍料理が並んでいます。
ベトナム料理〈OHAYO SAIGON 鶴舞店〉は朝8時半からモーニングが、〈丼物語〉は完全予約制で朝食が食べられるなど、朝活にも利用できる。
1階はフリースペースになっているため、ビジネスランチをしている会社員や、PCを開いて打ち合せしている起業家に混じって、ランチやティータイムを楽しめるのもこのスペースのおもしろいところ。また、イベントスペースでは、会員でなくても、学校やサークルの行事の発表や講座などを、リーズナブルな価格で利用できるのだとか。まさに開かれた施設といえそうです。
一般の人も利用できる1階のイベントスペース。
スロープをロボットが自主走行、壁面にはアートも吹き抜けとなっている広々とした雰囲気に加え、1階から7階まで長いスロープでつながっているスマートビルディングも特徴のひとつ。バリアフリー設計は人間のためだけでなく、ロボットが館内を自由に自主走行するためでもあるのだとか。
オープンスペースを象徴するような開放感が漂う。
館内にいると、荷物を運ぶロボットやサイネージを投影できるロボット、お掃除ロボットに遭遇でき、子どもたちにとっても身近にAIに触れられるきっかけとなっています。
子どもたちにとっても未来の仕事場を体験できる。
ゆるやかなスロープを歩けば、壁面にはカラフルなアートが展示されていてまるでギャラリーにいるようなムードも楽しめます。異彩作家とともに新しい文化を創造しているヘラルボニーが選出した47名、152の作品があちこちに飾られています。自由な発想で描かれるアート作品は、スタートアップの人たちに求められる今までにない発想への刺激にもなっているようです。
スロープの壁に描かれた全長 40メートル超のオリジナルアートはやまなみ工房の大路裕也氏による7つのテーマ(名古屋駅、喫茶店、名古屋城、車、名古屋テレビ塔、オアシス 21、リニア中央新幹線)を扱った作品。
世界に向けて、STATION Ai が目指すスタートアップとは「スタートアップが成長するとき重要なのは、地場産業がしっかり地元に根づいていること。ここ愛知県は、昔から自動車産業をはじめ、多くのイノベーション企業が集積しています。また日本を支える企業の創業者やノーベル賞受賞者を多数輩出しており、 これら地域の魅力を知ってもらえるのが2階にある〈あいち創業館〉です」と語ってくれるのは、ソフトバンクのインキュベーション事業統括部で STATION Ai 株式会社 経営企画部広報の大谷加玲(おおたにかれん)さん。
社会科見学にも使われる〈あいち創業館〉は、愛知の産業ヒストリーを紹介する映像や、歴史に名を残す創業者や企業家の歩みを知る書籍コーナー、テーブルをタッチすることで企業家の言葉や思いが現れるリレーションテーブルなど、インタラクティブに学べるスペースとなっています。小学生のお子さんたちも、遊び感覚で触れられるのがSTATION Aiのいいところ。
2階にある〈あいち創業館〉では、創業者たちの足跡や産業の歴史など映像やタッチパネルで見ることができる。
「日本の文化・風土や社会的背景から、いきなり起業家を目指すのは難しい面もあります。ここではアントレ教育として、小さいお子さんや中学生、高校生に対しても、学びのなかで『起業って楽しくて、おもしろい』や、『創造できる働き方も選択肢のひとつ』ということを自然に学んでくれたらと考えています」と大谷さん。
一般開放としたことで、近隣エリアの方がふらりと立ち寄ったり、目の前のサッカー場で練習する子どもに付き添った親が、2階のカフェで休みながら子どもたちを見守ったりと、さまざまな利用者が訪れています。気軽に最先端施設で、イノベーションへの接点を広げ、興味を持ってもらうことが重要だと考えているのです。
2階にあるフリーラウンジ。打ち合せや飲食も可能。
少し先の未来を体験し、その感動や思いを育てていく現在、STATION Aiに会員登録しているスタートアップは約500社、既存の企業が約230社と、700社以上。2024年10月にスタートしたとは思えない、破竹の勢いです。また、驚くことに、6割は愛知県外からということで、この施設の未知なる可能性に、東京を中心に参加企業が増えているのだとか。
ここでは、起業を目指す人たちや新規事業に取り組む人向けのコワーキングスペースも設けており、STATION Aiのメンバーであれば、コミュニティマネージャーがマッチングの提案を行ったり、さまざまな専門家に相談に乗ってもらうなどの支援を受けることができます。今後は、一般の人と会員を結びつけられるイベントなども企画していくそうです。
広々としたコワーキングスペースはインテリアも洗練されていて開放的。
起業を身近に感じることで、起業マインドを育てていく。「起業やスタートアップに関心のある学生向けに、1.5か月程の期間で、事業開発や仮説検証の講座、メンタリング、先輩起業家の講演、ピッチコンテストなどを提供し、学生起業家を育てることを目標とした〈STAPS〉というプログラムもあります。中学生でもこちらが驚くような発表をしてくれるなど、さまざまな可能性を感じられる場にもなっています」と大谷さん。
全国からの応募があるというSTAPSは、オンラインでの参加も可能な時代、場所を選ばずに学べるのは、選択視をさらに広げてくれるきっかけになります。
企業側は、これからの未来をつくる若い人たちにどうアプローチしていくのか、若い世代はどういう企業からイノベーションが誕生しているのかを知る機会にも。ここ〈STATION Ai〉がハブとなることで、さらにスタートアップやデジタルリテラシーが身近になっていきそうです。
information
STATION Ai
住所:愛知県名古屋市昭和区鶴舞1-2-32
TEL:050-1752-4535
営業時間:9:00〜17:00
休館日:土曜・日曜・祝日・年末年始
Web:STATION Ai
Web:STAPS
※現在、〈学生起業家育成プログラムSATPS-2025春-〉を受け付け中。2025年1月14日(火)締め切り
writer profile
Naomi Kuroda
黒田 直美
くろだ・なおみ●愛知県生まれ。東京で長年、編集ライターの仕事をしていたが、親の介護を機に愛知県へUターン。現在は東海圏を中心とした伝統工芸や食文化など、地方ならではの取り組みを取材している。食べること、つくることが好きで、現在は陶芸にもはまっている。