私が住む北海道岩見沢市の美流渡(みると)地区からすぐ近くの毛陽町(もうようちょう)は、果樹園が広がる農村地帯。秋にはリンゴがたわわに実る。リンゴの品種は本当にさまざまあって、地元はもちろん遠方から買いに訪れるファンも多い。
そうした人たちが楽しみにしているお祭りが今年も10月13日に開催された。名前は『毛陽・万美紅葉祭り』。「万美(まんみ)」とは、毛陽の両隣にある万字と美流渡の頭文字を取ってつけられている。
8月下旬から10月にかけて直売所や交流センターなどでリンゴが販売される。
みる・とーぶで制作している地域マップ。リンゴ狩りが行える農園や直売所が並んでいる。
私が代表を務める地域PR団体「みる・とーぶプロジェクト」は、今年、このお祭りと同時開催で、会場から200メートルほど離れた屋内テニスコート施設〈毛陽コロシアム〉を借りてイベントを行った。春から初秋にかけて行ってきた『みる・とーぶとMAYA MAXX がやってきた!』というイベントの一環で、この地域で活動するつくり手の作品を集めた展示販売と、美流渡在住の画家・MAYA MAXXさんの作品展示とグッズ販売を行うというものだ。
毛陽にあるログホテルメープルロッジに併設された毛陽コロシアム。屋内テニスコートが2面ある、とても大きな施設。
特産のリンゴにちなみ、今回MAYAさんは新しい絵を描き下ろした。その名も「アップルちゃん」。この絵は、お祭りのポスターにも使われることとなり、同時にステッカーも制作した。さらにリンゴのオブジェがあったらいいのではないかと考え、アップルちゃんパネルも仲間とともにつくりあげた。
毛陽・万美紅葉祭りと同時開催の私たちのイベントを紹介したポスター。MAYAさんが描き下ろしたアップルちゃんが目印。
このイベントのために制作したアップルちゃんパネル。これまでMAYAさんは赤いクマをこの地域のトレードマークとして描いてきたが、そこにリンゴも加わった。
みる・とーぶメンバーで布小物を制作する〈へんぺこ〉が、MAYAさんのアップルちゃんをブローチに仕立てた。
リンゴの名前を知ってほしいと豆本を制作私もリンゴにちなんだ小さな本をつくった。この地に暮らし始めて、地元でつくっているリンゴの品種が30種類以上あると知り、できる限り多くの品種を食べてみようと思ったことがあった。甘味と酸味、食感、香りがそれぞれ違う。早生から晩生のものまであって、1週間もすると次々と新しい品種が現れてくる。例えば「ひめかみ」は「ふじ」と「紅玉」という品種をかけ合わせたもので、甘みと酸味が絶妙なバランスとなっている。
また、「りんごの詩」や「さんさ」、「あかね」など、つけられた名前を知っていくとさまざまなイメージが膨らむ。特におもしろいなと感じたのは「未希ライフ」。1986年放映のNHKの大河ドラマ『いのち』で三田佳子さんが演じた「高原未希」に由来するもので、「りんごの未来に希望を」という願いが込められたという。口の中で果汁がジュワッと広がって香り高い風味が感じられる。
写真は「ひめかみ」と「昂林(こうりん)」という品種。食べ比べると味の違いが際立つ。
こんなに種類がいっぱいあって、しかも名前がかわいいということを伝えてみたいと思い、2018年にリンゴの絵をスケッチして味についてメモをとるようになった。最初のうちはよかったが、だんだん数が増えてくると味の差を表現する語彙が自分のなかにそれほど多くないことに気づき途中で挫折(汗)。また、リンゴの描きわけも難しく(生産者さんによって同じ品種でもかたちが違う!!)お蔵入りになっていた。
今回、せっかく紅葉祭りとの同時開催でイベントを行うのであれば、これをなんとかかたちにしたいと思い、とりあえず完成している9種類をまずは本にしてみようと考えた。こうして『りんごの名前』と題したジャバラ状の豆本を印刷した。
手のひらサイズのジャバラ豆本『りんごの名前』。
9種類のリンゴとその名前を記した。
裏面にはリンゴの味わいについて書いた。
のんびりとおだやかなムードのなかで時間が過ぎてこのイベントでは、地域で活動する家具工房やガラスアクセサリー工房といったレギュラーメンバーに加え、岩見沢市街や近隣の市町村を拠点に活動するクリエイターたちも集まって15組が作品販売を行った。
『みる・とーぶとMAYA MAXXがやってきた!』会場風景。
作品販売とともにものづくり体験のワークショップも実施。そのうちのふたつはリンゴにちなんで行われた。
MAYAさんが行ったのはハンカチにリンゴの絵を描こうというワークショップ。「自分が描いたものが日常生活で使えるというのはすてきだなと思い」、ハンカチに描くことを思いついたという。また、月形町と岩見沢市の上志文を拠点に活動をする花のアトリエ〈日々の花糸〉は、落ち葉でリンゴの絵を描こうというワークショップを開いた。
ハンカチにリンゴを描くワークショップ。
落ち葉を使ってリンゴを描くワークショップ。
紅葉祭りの会場は、お目当てのリンゴを手に入れたいと、人々でごった返した。お祭りを楽しんだあとに、私たちの会場に足を延ばしてくれる人がたくさんいてありがたかった。このイベントで『みる・とーぶとMAYA MAXXがやってきた!』の今年の活動は終了。いよいよ長い長い雪の季節が到来する。
ともに活動をしているみる・とーぶメンバー。布小物制作をする〈へんぺこ〉。
上志文の〈すずかぜカフェ〉によるガラスアクセサリーのワークショップも定番となっている。
これまで私たちは近隣の閉校になった旧美流渡中学校を拠点に、イベントを開いてきたけれど、今年は校舎の改修問題が持ち上がり、不特定多数の人々をここに呼ぶことは叶わなかった。そのため、春はまちに出て阿弥陀寺というお寺を借りてイベントを開催。夏は岩見沢で行われる音楽フェス〈JOIN ALIVE〉に参加し、初秋はもうひとつの地元のお祭り『くりさわ農業祭』にも参加した。私たちのイベントが旧美流渡中学校で行えないことを残念に思う来場者もいたが、旅一座のようにさまざまな場所をめぐることで、新しい出会いや思いがけない展開があって刺激的な1年だった。
JOIN ALIVEとくりさわ農業祭ではクマの塔「ジョインくん」を立てた。
校舎の今後の活用については、これまで見通しが立っていなかったが、先日、岩見沢市がイベントの開催に必要な改修などを行う方針を明らかにし市議会に報告された。これにより、今年度、改修にかかる設計を行うこととなり、市の計画では2年後から校舎でのイベント実施を可能にしたいと考えているという。来年も旅一座のような取り組みを続けつつ、その先にはまた再び美流渡から笑顔を届けられる日がきっとくる。そんな希望を胸に活動を続けていきたい。
旧美流渡中学校のグラウンドに設置したMAYAさんによる鳥の塔「アイちゃん」。お祭りに合わせて久々に点灯した。
writer profile
Michiko Kurushima
來嶋路子
くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、『みづゑ』編集長、『美術手帖』副編集長など歴任。2011年に東日本大震災をきっかけに暮らしの拠点を北海道へ移しリモートワークを行う。2015年に独立。〈森の出版社ミチクル〉を立ち上げローカルな本づくりを模索中。岩見沢市の美流渡とその周辺地区の地域活動〈みる・とーぶプロジェクト〉の代表も務める。https://www.instagram.com/michikokurushima/
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