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エゾシカが一列に連なり駆けていく美しい森。その食痕から共生を考える

  • 2024年2月27日
  • コロカル
「今日の森にはどんな発見があるだろう?」

北海道の東側、阿寒摩周国立公園の中にある、弟子屈町・川湯温泉。温泉街の入り口には、いまなお噴煙を上げ続ける硫黄山があり、その麓には、アカエゾマツの森が広がっている。

標高508メートル。弟子屈町の「特定自然観光資源」に指定されている硫黄山。

標高508メートル。弟子屈町の「特定自然観光資源」に指定されている硫黄山。

北海道を代表する木、アカエゾマツは、火山灰が降り積もった酸性の土壌でも生育できる樹種。

国立公園の中にあるこの地では、樹齢約200年にもなるアカエゾマツの純林が、「アカエゾマツの森」として保護されている。

川湯ビジターセンターの裏には「アカエゾマツの森散策路」がある。マップ中、赤いラインがロングコース(約2.2キロ)、緑のラインが今日歩くショートコース。

川湯ビジターセンターの裏には「アカエゾマツの森散策路」がある。マップ中、赤いラインがロングコース(約2.2キロ)、緑のラインが今日歩くショートコース。

2月中旬の雪に包まれたアカエゾマツの森。午前9時30分、現在の気温はマイナス10度。約0.8キロのショートコース、通称「ゴゼンタチバナコース」を往く。

今シーズンは12月中旬にどっさり雪が降り、その後も何度か重なって、積雪は20センチを超えるだろうか。

最初の標識まできたら、ここでまず深呼吸。今日の森には、どんな発見があるだろう?

森の入り口には、アカエゾマツの丸太を利用した手づくりの標識がある。

森の入り口には、アカエゾマツの丸太を利用した手づくりの標識がある。

最初の直線コースは、名付けて「稚樹(ちじゅ)ロード」

長い年月をかけて高さ30〜40メートルにもなるアカエゾマツだが、ここには高さ1メートルにも満たない木が並んでいる。それでも樹齢15年ほど。人間にたとえれば中高生くらいだろうか。

「アカエゾマツの森」の中で、いちばん日当たりのいい場所が「稚樹ロード」。

「アカエゾマツの森」の中で、いちばん日当たりのいい場所が「稚樹ロード」。

手が届く高さに葉っぱがあるので、ここを通るときはその先をつまんで擦って、アカエゾマツの香りを楽しむことにしている。

ほっとする木の香り。

ところどころにトドマツの稚樹もあるので、嗅ぎ比べてみる。

トドマツは、もう少し爽やかな印象。

1枚目の写真がアカエゾマツの葉。長さ1センチ程度で触るとチクチク痛いのが特徴。2枚目はトドマツの葉。長さは約2センチでやわらかい。

1枚目の写真がアカエゾマツの葉。長さ1センチ程度で触るとチクチク痛いのが特徴。2枚目はトドマツの葉。長さは約2センチでやわらかい。

1枚目の写真がアカエゾマツの葉。長さ1センチ程度で触るとチクチク痛いのが特徴。2枚目はトドマツの葉。長さは約2センチでやわらかい。

1枚目の写真がアカエゾマツの葉。長さ1センチ程度で触るとチクチク痛いのが特徴。2枚目はトドマツの葉。長さは約2センチでやわらかい。

 

針葉樹の森ならではの冬の風景

10分ほど歩くと、コースは森の中へ。幅50センチくらいの散策路が、深い森へと導いてくれる。

奥に入るほど増えるのが、エゾシカの足跡。何本もの踏み跡が、雪の上を縦横無尽に走っている。

この森では四季を問わず、エゾシカ数頭が一列になって、目の前を走り抜けていくこともある。

雪が積もっていると、その痕跡がより明らかになる。

雪の森を歩くときの楽しみは、動物の足跡観察。たくさんのエゾシカが往来しているのがわかる。

雪の森を歩くときの楽しみは、動物の足跡観察。たくさんのエゾシカが往来しているのがわかる。

冬の「アカエゾマツの森」で目につくのは、ハクサンシャクナゲの木。あちらこちらに群生があり、初夏には淡いピンクの花を咲かせる。

いまは葉っぱが丸まっているけれど、2月末には広がって、いち早く春の訪れを教えるという役割も持っている。

厳しい寒さのなか、芽を膨らませて春を待っている、ハクサンシャクナゲ。

厳しい寒さのなか、芽を膨らませて春を待っている、ハクサンシャクナゲ。

しんと静まり返った針葉樹の森の中。

冬でも枝葉を屋根のように広げて、その上にたくさんの雪を載せても凛としているアカエゾマツ。この森には、寒さや風雪を遮り、包み込んでくれるような心地よさがある。

そしてあたり一面に、エゾシカが餌を求めて、雪を掘り起こした跡が広がっている。

ほかの場所に比べて積雪が少ない針葉樹の森では、エゾシカは、雪の下にあるササなどを食べて、厳しい冬を乗り越えているのだ。

これはエゾシカの食べ跡。雪の下に埋もれているササなどを掘り起こしているそう。

これはエゾシカの食べ跡。雪の下に埋もれているササなどを掘り起こしているそう。

これはエゾシカの食べ跡。雪の下に埋もれているササなどを掘り起こしているそう。

これはエゾシカの食べ跡。雪の下に埋もれているササなどを掘り起こしているそう。

 

「ゴゼンタチバナコース」の出口に近づき、広葉樹が増えてくると、反比例するように、掘り起こした跡は減ってくる。

「アカエゾマツの森」は、エゾシカたち野生動物にとっても、シェルターのような存在なのだろう。

広葉樹の森でエゾシカの暮らしを想像する

数日後、「エゾシカによる食害の調査方法を学ぼう」というイベントに参加した。フィールドは、アカエゾマツの森から車で約10分、屈斜路湖畔に位置する「仁伏(にぶし)の森」。

「摩周・屈斜路トレイル」のコースにもなっている、仁伏半島自然散策路は約3キロ。

「摩周・屈斜路トレイル」のコースにもなっている、仁伏半島自然散策路は約3キロ。

こちらの森は広葉樹が中心で、カツラの巨木をはじめ、ハリギリ、オヒョウ、カエデなどさまざまな樹種が生育している。

葉を落とした広葉樹の森は、「アカエゾマツの森」とは対照的に明るく、見晴らしがよく、野鳥観察にも適している。

冬の仁伏半島自然散策路では、森の中から屈斜路湖を望むことも。

冬の仁伏半島自然散策路では、森の中から屈斜路湖を望むことも。

冬の仁伏半島自然散策路では、森の中から屈斜路湖を望むことも。

冬の仁伏半島自然散策路では、森の中から屈斜路湖を望むことも。

 

雪面にはエゾシカだけでなく、キツネ、ウサギ、ネズミ、エゾクロテン、etc.いろんな動物の足跡を見つけることができる。

こちらはクマゲラの食痕。穴の深さを測ってみたら、60センチ以上にも!

こちらはクマゲラの食痕。穴の深さを測ってみたら、60センチ以上にも!

「アカエゾマツの森」と異なるのは、ここでエゾシカは、雪の下にある草木だけではなく、樹木の皮も食べていること。

森の中では、至る所で樹皮が剥がされた食痕が見られた。多くはハルニレで、これがエゾシカの大好物だそう。

樹皮を剥がされた表面に残っている傷痕で、犯人がネズミなのかエゾシカなのか診断。

樹皮を剥がされた表面に残っている傷痕で、犯人がネズミなのかエゾシカなのか診断。

樹皮を剥がされた表面に残っている傷痕で、犯人がネズミなのかエゾシカなのか診断。

樹皮を剥がされた表面に残っている傷痕で、犯人がネズミなのかエゾシカなのか診断。

 

「またハルニレだね……」「サルナシも食べられてるよ」「フッキソウまで食べちゃうの?」

樹皮剥ぎや掘り起こし跡を観察しながら、エゾシカの冬の暮らしを想像しつつ歩いた。

この日のテーマであった調査方法とは、区画を決めて(この日は10メートル×30メートル)、食害が見られる樹木の種類や胸高直径を測り、写真に撮り、記録していくというもの。

継続して食害の増減を調査し、森を守るための方法を探っていかなければ、と思う。

樹木の美しさを眺めるだけでなく、野生動物との共生について考える。

真冬の森は、そんなきっかけも与えてくれるのだ。

information

アカエゾマツの森

住所:北海道川上郡弟子屈町川湯温泉2-2-6 川湯ビジターセンター 裏

tel:015-483-4100(川湯ビジターセンター)

Web:アカエゾマツの森

※冬季は川湯ビジターセンターにてスノーシューの貸出も行なっている(ひとり500円)。

*価格はすべて税込です。

writer profile

Chigusa Ide

井出千種

いで・ちぐさ●弟子屈町地域おこし協力隊。神奈川県出身。女性ファッション誌の編集歴、約30年。2018年に念願の北海道移住を実現。帯広市の印刷会社で雑誌編集を経験したのち、2021年に弟子屈町へ。現在は、アカエゾマツの森に囲まれた〈川湯ビジターセンター〉に勤務しながら、森の恵みを追究中。

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