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「もし、自分を何か動物に例えるなら」から着想。札幌でMAYA MAXXの個展を開催中。

  • 2024年2月14日
  • コロカル
どうしても書くことができなかった展覧会リポート

ついに立春! 北海道でもほんの少しだけ、空の青さに春の気配が感じられるようになった。コロカルの連載が200回となって記念座談会の記事がアップされたので、私自身が書くのは、これが今年初。昨年からずっと書こう書こうと思っていていたのに、どうしてもかたちにできなかったことを今回語ってみようと思う。

美流渡はまだたっぷりの雪に覆われている。近隣の旧美流渡中学校に設置されたMAYA MAXXの鳥の塔も雪景色の中。

美流渡はまだたっぷりの雪に覆われている。近隣の旧美流渡中学校に設置されたMAYA MAXXの鳥の塔も雪景色の中。

それは、美流渡在住の画家・MAYA MAXXさんが描いた白い象の絵について。キャンバスの幅が3〜4メートルにもなる大作で、2023年9月に近隣の閉校した旧美流渡中学校で開催した『みんなとMAYA MAXX展』に、新作として2点展示されたもの。実は、この展覧会が開催される少し前から約50日、MAYAさんは体調不良で入院をしていて、期間中に会場を訪れることはできなかった。入院前、この象の絵についてMAYAさんから話は聞いていたけれど、あと一歩、つかみ切れない部分があるように感じられた。また病状がどう変化していくのかわからない状態が続いていたことも重なって、展覧会のリポート記事がまとめられなかった。

旧美流渡中学校で毎年開催している『みんなとMAYA MAXX展』。2023年秋に展示された「林の中の象のように」。

旧美流渡中学校で毎年開催している『みんなとMAYA MAXX展』。2023年秋に展示された「林の中の象のように」。

横向きの姿と少しこちらに体を向けている姿の2枚が描かれた。

横向きの姿と少しこちらに体を向けている姿の2枚が描かれた。

MAYAさんは退院後、療養しながら少しずつ体力回復に努めている。入院中に少しお休みをしていた岩見沢のコミュニティラジオのトーク番組を1月から再開した。ラジオでは病気のことについて本人の口から語られ、私も少しずつ状況を客観的に捉えられるようになった。

エフエムはまなすで毎週金曜夜9時から放送中の『MAYA MAXXのplaypray』。新年第1弾で入院中の様子が語られた。

ブッダの言葉の一節がタイトルとなった

2月最初のラジオ収録のとき、象の絵について語ってほしいとMAYAさんにお願いした。この絵のタイトルは「林の中の象のように」。ブッタの教えを集めた本『ブッタの真理のことば、感興のことば』の一節からとられたもので、なぜそのタイトルをつけたのかをよく知りたいと思ったからだ。

もしも思慮深く聡明でまじめな生活をしている人を伴侶として共に歩むことができるのならば、あらゆる危険困難に打ち克って、こころ喜び、念いをおちつけて、ともに歩め。しかし、もしも思慮深く聡明でまじめな生活をしている人を伴侶として共に歩むことができないならば、国を捨てた国王のように、また林の中の象のように、ひとり歩め。愚かな者を道伴れとするな。独りで行くほうがよい。孤独で歩め。悪いことをするな。求めるところは少なくあれ。ーーー林の中にいる象のように。

『ブッタの真理のことば、感興のことば』(中村元・訳、岩波文庫)

1月20日から札幌にある茶廊法邑で『みんなとMAYA MAXX展』が始まった。美流渡で昨春に発表した「勇気を持つために」シリーズ。

1月20日から札幌にある茶廊法邑で『みんなとMAYA MAXX展』が始まった。美流渡で昨春に発表した「勇気を持つために」シリーズ。

「勇気を持つために」シリーズとともに白い象も展示された。

「勇気を持つために」シリーズとともに白い象も展示された。

タイトルはブッタの教えからとられているが、そもそも象というイメージには、さまざまな思いが重ねられているという。

「もし、自分を何か動物に例えるのであれば象なのではないかと思います」

子どもの頃、アメリカのテレビ番組で『巨象マヤ』というドラマ(行方不明になった父を探してアメリカからインドへやってきた少年が、現地の少年と象と旅をする物語)が放映されていたそうで、それを見た友だちから「巨象マヤ」とMAYAさんは呼ばれたことがあった。からかい半分の言葉だったが「ぜんぜん嫌な気持ちがしなかった」と振り返る。

「子どもの頃から象が好き。賢くて温和で柔和で、何もかもわかってじっとこちらを見つめる目に、子ども心にすごく惹きつけられました。象にしかない神聖な感じがあって、私のなかでは特別な動物なんです」

大人になったとき、普賢菩薩が白い象に乗って現れることを知ったという。仏教美術のなかには、仏と白い象とが描かれている絵画が多くある。けれどMAYAさんは、仏そのものを描く度量は自分にはないという思いがあるそうで「せめてその乗り物であるところの象であれば描くことができるんじゃないか」と考えたそうだ。

茶廊法邑ではエゾリスやエゾシカなど、身近に見られる動物たちの作品も展示された。

茶廊法邑ではエゾリスやエゾシカなど、身近に見られる動物たちの作品も展示された。

では、その白い象とはいったいどのような姿なのだろう。

「『林の中の象のように、ひとり歩め』というブッダの言葉から、インドにある、あまり森が密ではなく、パラパラと木が生えている場所にゆったりと象が“ひとり”歩いていくという光景が目に浮かびました」

MAYAさんによると「林の中の象のように」という言葉の前段に「愚かな者を道伴れとするな。独りで行くほうがよい。孤独で歩め。悪いことをするな。求めるところは少なくあれ」という教えがあるが、そこを絵でとりあげたいわけではなかったのだという。

「自分は愚かな者であるし、ひとりで歩くよりは誰かが一緒にいる方がいいと思っています。ただ、こうした言葉を経たうえでイメージする林の中の象を描きたいと思いました。また『真理のことば』やブッタの教え全体を読んで、そこにあるフレーズが砂時計のようにサラサラと落ちていって、下に溜まったその塊が白い象なんじゃないかと思うんです。そんな絵が描けるのであれば描いてみたかった」

茶廊法邑の展示風景を動画で紹介

白い象の絵が展示された会場に観客が入るとき、「ファー」と声をあげる様子に私は何度か遭遇した。ある観客は「ずっとここにいたい。椅子を置いて一日じゅう浸っていたい」と夢心地の表情で語ってくれた。

深い緑の空間に、まるでやわらなか光を発しているかのように白い象がたたずんでいる。白い面にぽっかりと小さな穴のようにも見える目にじっと焦点を絞ると、そのはるか向こうには宇宙があるような、そんな神秘的な感覚が湧き上がってくる。

白い象のアップ。

白い象のアップ。

MAYAさんは、象の絵について話したラジオの回(第82回)の最後をこう締めくくった。

「最終的に一番大事なのは、林の中の象がどういう目をしているのかです。今回は、それが描けたような気がします。この世を超越するようなものを描きたいと思って象を描き、結局、それがほかの誰でもないブッタなんじゃないかとも思っています」

いま、この絵は札幌の茶廊法邑で開催中の『みんなとMAYA MAXX展』で展示されている。空間を包み込むように大きなこの絵をぜひ間近で見てほしい。

今回は療養中ということもありギャラリートークなどのイベントは控えた。その代わりに、木のキューブに犬を描いた作品をひとりひとつ持って帰ってもらえたらとMAYAさん。初日は机にぎっしりと置かれていたが日に日に少なくなっている。

今回は療養中ということもありギャラリートークなどのイベントは控えた。その代わりに、木のキューブに犬を描いた作品をひとりひとつ持って帰ってもらえたらとMAYAさん。初日は机にぎっしりと置かれていたが日に日に少なくなっている。

information

みんなとMAYA MAXX展

会場:カフェ&ギャラリー茶廊法邑

会期:2024年1月20日(土)〜2月25日(日)

開館時間:10:00〜18:00(最終日〜16:00)

休館日:火曜休

Web:札幌国際芸術祭2024 公募プロジェクト

みんなとMAYA MAXX展

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、『みづゑ』編集長、『美術手帖』副編集長など歴任。2011年に東日本大震災をきっかけに暮らしの拠点を北海道へ移しリモートワークを行う。2015年に独立。〈森の出版社ミチクル〉を立ち上げローカルな本づくりを模索中。岩見沢市の美流渡とその周辺地区の地域活動〈みる・とーぶプロジェクト〉の代表も務める。https://www.instagram.com/michikokurushima/

https://www.facebook.com/michikuru

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