サイト内
ウェブ

空き家を「DIY可能物件」にして貸し出す不動産屋。omusubi不動産の挑戦

  • 2024年1月26日
  • コロカル
omusubi不動産 vol.1

はじめまして。おこめをつくるフドウサン屋〈omusubi不動産〉の殿塚建吾(とのづか けんご)と申します。

僕たちは「自給自足できるまちをつくろう」を合言葉に、毎年、手で植えて手で刈るアナログな田んぼを続けながら、空き家を使ったまちづくりを生業としています。

2023年の田植え。農家のきいちさん、オーガニックレストラン〈CAMOO〉さんとともに。(撮影:Hajime Kato)

2023年の田植え。農家のきいちさん、オーガニックレストラン〈CAMOO〉さんとともに。(撮影:Hajime Kato)

もともと、父方が不動産屋で母方が農家。でも僕はお笑いの裏方をやりたかった。

青年期にそんなモヤモヤを抱えながら立ち上げたのが、omusubi不動産でした。

得意だった不動産業を生業にしながら、憧れる農家のライフスタイルを目指し、一芸のある方が活躍できる場をつくる会社です。

本社は僕の出身地である千葉県松戸市にあり、東京都下北沢の〈BONUS TRACK〉という新しい商店街のなかにも支店があります。

事業部は4つあります。

1 賃貸(DIY賃貸)

2 売買(リノベ再販)

3 場の運営(シェアカフェ・シェアアトリエなど)

4 まちづくりの企画(芸術祭運営、クリエイティブな不動産開発)

地域でチャレンジする方に場を提供する不動産業やシェアスペースの運営のほか、イベントやフェスティバルなど地域の人が活動したり交流できたりする機会をつくる。そのサイクルがぐるぐる回るように心がけ、まちが良くなればいいなと日々奮闘しています。

メンバーは約20名です。不動産会社、まちづくりやデザイン会社の出身者をはじめ、画家、漫画家、靴職人さんのいる不動産チーム、元警察官の営業マンに、元バンドマンのコミュニティマネージャー、演劇の演出家をしているまちのコーディネーター、元DJの人事など、一緒に働くメンバーもバリエーションにあふれています。

田植えの準備として、スタッフみんなで畦(あぜ)を補修する日。極寒の作業後の集合写真!

田植えの準備として、スタッフみんなで畦(あぜ)を補修する日。極寒の作業後の集合写真!

とってもありがたいことに、私たちは2024年4月で10周年を迎えます。

この連載では、担当メンバーとともに各プロジェクトについて振り返りながら、めっちゃ大変だけどおもしろい「空き家×コミュニティづくり」のリアルをお伝えできたらなと思っています。

かつて僕は〈リノベのススメ〉に掲載されていた〈MAD City プロジェクト〉のメンバーでもありました。10年以上の時を経て、同じ連載に携われるのは本当に感慨深く、とってもとってもうれしく思います。

今回はこれから始まる連載のプロローグとして、僕らの活動全体をざっくりとご紹介させていただきます。

はじまりは、古いお部屋を「DIY可能」にするところから

まずは僕らの主な事業である不動産のオシゴトについて。一応、不動産屋ですので物件をお取り扱いしています。

といっても、僕らが扱うのはほかの不動産会社さんやオーナーさんが「これは難しいでしょ」と諦めかけている物件がほとんどです。

団地の一室、築40年以上の戸建て、30年以上空いていた社宅など。いずれも普通に貸し出すために改装すると採算が合わないため、しばらく寝かされていた物件たちです。

初期から募集させていただいている古民家。オーナーさんも入居者さんも長く大事にされています。

初期から募集させていただいている古民家。オーナーさんも入居者さんも長く大事にされています。

僕らはそうした空き家を「DIY可能物件」として生かしています。オーナーさんは工事代がかからずに貸し出せて、入居者さんは安く自由に借りられるというメリットがあります。

例えば昭和40年代のマンションの一部屋を入居者さんが自分でリノベーションして、こんなにすてきに使われている方もいます。

たとえばこんな感じの年季のあるお部屋が、

たとえばこんな感じの年季のあるお部屋が、

なんということでしょう。すてきな空間にDIYされています。すごい。

なんということでしょう。すてきな空間にDIYされています。すごい。

はじめは友だちのおばあちゃんが住んでいた団地や、知り合いの家族が保有するマンションの募集を担当させていただき、まだ誰も知らないomusubi不動産のサイトとSNSで精一杯発信。

ありがたいことに開業初日にお問い合わせを1件いただき、そのときは飛び跳ねるほどうれしかったことを覚えています。

入居希望の方は「自分で何かをやりたい方」が多いです。絵を描きたい、教室をやりたい、将来お店をやりたい、飽き症で引っ越しグセがあるからDIYで愛着を持てるか試したいなどなど。

彼らに提供できる空き家を発掘すべく、オープンから今まで空き家を探す日々が続いています(笑)。

最初の2年は掘り出された空き家を見つけては、改装可能な物件とさせていただき、クリエイティブな方々が入居されていく、という繰り返しでした。

地元のシャッター商店街にシェアカフェをつくる

うれしいことに、おもしろい方たちが松戸に増えてきたのですが、まちの風景に目立った変化はありませんでした。

変化を可視化するのは「路面」です。なので「まずは自分たちのオフィスを、人が来られる場にしよう」と1階に僕らのオフィスを構えることにしました。

ネットでは見つからなかったので、自転車でまちを走り、空き物件を探して直接アタックすることに。最初に日本の道百選に選ばれる〈さくら通り〉沿いの商店街を走ってみると、さっそくあるわあるわ、路面の空き店舗。自転車の旅は5秒で終わりました(笑)。

創業当初のomusubi不動産があった、八柱さくら通り。

創業当初のomusubi不動産があった、八柱さくら通り。

当初はシャッター商店街でした。

当初はシャッター商店街でした。

お借りしたのは元ブティックだった10坪くらいの店舗。ネットにまったく掲載されていない物件だったので、管理している不動産屋さんを探して申し込み、簡単なDIYをしてオフィスをつくりました。

ライト下の看板は、地元の提灯屋さんから出た古材を加工し、DIYが得意な文房具屋さんがつくってくれました。

ライト下の看板は、地元の提灯屋さんから出た古材を加工し、DIYが得意な文房具屋さんがつくってくれました。

改装中、前を通りがかる方に「どんなお店ができるの?」とキラキラした目で訊ねられては「……不動産屋なんです!(ごめんなさい)」「……ああ、ありがとね」と少しがっかりされることもしばしば。

まちにお店があることが、暮らす方の喜びと期待につながっていることをヒシヒシと感じながら、申し訳ない気持ちでオープンしたのを覚えています。

そこで管理会社さんにご相談し、並びの店舗募集のお手伝いをさせてもらうと、1年のうちに設計事務所、アンティークの工房、天ぷら屋さんが入居してくれました。

そして入居者の方々と「カフェがほしいね」という話になり、最後に残った1区画に自分たちでつくったのがシェアカフェ〈OneTable〉です。

事務所の隣にみんなでつくったシェアカフェ〈OneTable〉。

事務所の隣にみんなでつくったシェアカフェ〈OneTable〉。

OneTableは、曜日替わりで店主が変わるカフェ。僕らが物件をお借りして店舗空間をつくり、出店希望者の方々に場所を貸し出すというかたちで日々運営をしています。

カフェづくりにあたってはお金がないので、とにかく工夫をしました。

空室だらけだったテナントを満室にしたこともあり、大家さんに交渉して当面3年の賃料を下げていただくことができました。

設計は入居者であり設計事務所を営む大畠稜司(おおはた りょうじ)さんが手がけてくれることになり、改装費を抑えるために、閉店したレストランやカフェのキッチン設備や什器を活用したり、ふんだんにDIYをしたりしてつくりました。

DIYのワークショップをしながらつくっていきました。

DIYのワークショップをしながらつくっていきました。

2016年の運営開始から7年。今までに約30組の店主さんにご利用いただき、そのうち6組が松戸市内で独立してお店を構えたほか、都内やほかの地域で活動を広げた方もいます。こうして飛び立たれる方がいてうれしい限りです。

カフェとして日常的に地域の人に訪れてもらえる場所になり、かつてのシャッター商店街が僕たちの憩いの場となっていきました。

春の桜まつりでは、店主のみなさんが集まりオープンデーを開催。たくさんの人が訪れます。

春の桜まつりでは、店主のみなさんが集まりオープンデーを開催。たくさんの人が訪れます。

お店やクリエイターが集まるシェアアトリエが増える

空き家の活用を進めるうちに、ビル1棟や2世帯住宅など、規模が大きい物件のご相談が増えました。

そこで僕らが提案したのはシェアアトリエです。1棟のなかにあるお部屋を可能な限り分割して、1部屋ずつアトリエとしてお貸しします。

お部屋はもちろんDIY可能。水回りも最低限使えればOKとして、改装費を抑えるとともに賃料もなるべく抑えます。

そこにクリエイターの方が集まり、定期的にミーティングやイベントをすることで一緒にシェアアトリエを運営していきました。

各プロジェクトで最初にやることは、建物に名前をつけること。予算的に建物のリノベーションはできないので、雰囲気のリノベーションです(笑)。

松戸の〈8LAB〉や 〈レトロビル sAnkAku〉、市川市の〈123ビルヂング〉、東京浅草の〈KAMINARI〉など、名前をつけて、空っぽの空間でイベントをやり、雰囲気をつくりながら利用者さんを募っていくことを繰り返していきました。

左上:8LAB(松戸)、右上: レトロビル sAnkAku(松戸)、左下:123ビルヂング(市川)、右下:KAMINARI(浅草)

左上:8LAB(松戸)、右上: レトロビル sAnkAku(松戸)、左下:123ビルヂング(市川)、右下:KAMINARI(浅草)

なかでも松戸にある僕らのオフィスから15分のところにできた〈せんぱく工舎〉は、地域のイメージを変える拠点となりました。

せんぱく工舎は、昭和35年に建てられた船舶などの内装を手がける会社の社宅を改装したクリエイティブスペースです。1階は地域に開かれたショップやカフェ、2階はアーティストや作家さんのアトリエなどに使われています。

30年以上空き家になっていたところ、1年かけてオーナーさんと交渉し、僕たちが借りてサブリース(転貸)し運営しています。

シェアアトリエはひとつずつ思い出深く、試行錯誤の積み重ねだらけなので、連載のなかでゆっくりお伝えできたらと思っています。

いずれも、お店や表現活動をされたい方々がひとつの場に集まることでシナジーが生まれ、地域の拠点として育っていくことを目指しています。

せんぱく工舎に出合った頃の写真。この佇まいにひと目惚れしました。

せんぱく工舎に出合った頃の写真。この佇まいにひと目惚れしました。

入居者さんのちからで、人が集まる場へ。

入居者さんのちからで、人が集まる場へ。

入居者さんだけでなく、地域の人も参加して、コラボレーションが生まれる港のような場になっています。

入居者さんだけでなく、地域の人も参加して、コラボレーションが生まれる港のような場になっています。

入居されたアーティストさんのひとことから生まれた芸術祭のDIY

4年くらいかけてせんぱく工舎やOneTableが始まり、まちにお店が増え始めた頃、入居者でありアーティストの清水陽子さんから「松戸でアートフェスティバルをやりたい」とご相談を受けました。

清水さんは国内外を飛び回る気鋭の若手アーティスト。僕もこのまちのみんなとお祭りをやってみたいと思っていたところで、直感的に「楽しそう!」と感じ、お互いにメンバーを集めて企画会議をしました。

実現するかどうかもわからない芸術祭について、1年間くらいかけてアイデアを出し合い、清水さんがご自身のネットワークでアートディレクションを担い、僕が地域の人とのコミュニケーションをするという役割分担が見えてきました。

企画が見えてきた段階で市役所に行き、芸術祭のアイデアを提案しました。松戸市は「文化が薫るまち」を掲げてアート事業に力を入れていることもあり、担当の方にもご理解いただき、なんと文化庁の予算申請をしてくださることになりました。

こうして2018年から『科学と芸術の丘』というアートフェスティバルが始まりました。

『科学と芸術の丘』のメイン会場である〈戸定邸〉。重要文化財を会場にさせていただけているのは奇跡です。(撮影:Ayami_Kawashima)

『科学と芸術の丘』のメイン会場である〈戸定邸〉。重要文化財を会場にさせていただけているのは奇跡です。(撮影:Ayami_Kawashima)

舞台は、徳川家の別邸であり重要文化財に指定されている古民家〈戸定邸〉。この建物にアートを展示し、敷地内の広場ではマルシェを開催しています。徐々にまちに展開していき、去年は河川敷での音楽ライブも開催しました。

この芸術祭はまちのお店のみなさん、学生、シニア団体、興味がある方、企業の方など本当にたくさんの方と一緒につくっています。まさに“お祭りのDIY”という感覚です。

2023年の展示作品『Research on Wandering bodies』(作: 津野 青嵐、撮影: Ayami_Kawashima)

2023年の展示作品『Research on Wandering bodies』(作: 津野 青嵐、撮影: Ayami_Kawashima)

科学と芸術の丘と同時開催する丘のマルシェ。 (撮影: Hajime Kato)

科学と芸術の丘と同時開催する丘のマルシェ。 (撮影: Hajime Kato)

コロナと同時に、ふたつ目の拠点「下北沢」へ

芸術祭も始まり、少しずつ活動が広がってきた頃、友人からこんな連絡が入りました。

「下北沢に電鉄会社とクリエイティブな商店街をつくるから、不動産の部分を手伝ってもらえない?」

聞くと彼らが企画運営会社を立ち上げて、メディアのように場所を運営していくとのこと。「なんだかおもしろそう!」と参加したのが、2020年にオープンした〈BONUS TRACK〉です。

BONUS TRACKは小田急線の地下化によって生まれた「下北線路街」の一角に建つ、店舗兼用住宅が連なる商業施設。下北沢の家賃高騰によって、“シモキタらしさ”をつくってきたお店が消えつつある状況を変えたいという小田急電鉄さんの想いから生まれた場所です。

BONUS TRACK。この場に携わったことが大きな転機となりました。(写真提供:株式会社散歩社)

BONUS TRACK。この場に携わったことが大きな転機となりました。(写真提供:株式会社散歩社)

僕らはBONUS TRACK全体の施設管理を担いながらomusubi不動産の下北沢店としても入居し、店舗にはコワーキング・シェアキッチンもつくりました(大きな借金とともに……)。

松戸でやってきたことを振り返ると、クリエイティブな人が集まり、お店を始める練習ができる場をつくり、周りの空き家を舞台として使ってもらうことの連続。だからこの場所でもコワーキングやシェアキッチンを運営して、松戸のような流れを下北沢でもつくれたらと考えました。

「まるで小劇場を駆け上がり、〈本多劇場〉に立つみたいじゃん! 下北沢だけに!」

と勝手な夢を抱き、ドキドキと期待を胸に準備を進めました。

迎えたオープン当日の2020年4月7日。

新型コロナウイルスの蔓延により、緊急事態宣言が発令され、とりあえずほとんどのスタッフさんには感染リスクを回避するために自宅待機していただきました。

予定していた不動産の契約はすべてキャンセルになり、売上はないのにお金は出ていく毎日。運営もうまく行かず、チーム内がギスギスしたこともありました。

コロナウイルスの対応に右往左往しながらも、スタッフみんなが歯を食いしばってくれてなんとか続けているうちに、スペースを使ってくださる方も段々と増えていき、近隣のオーナーさんから不動産開発などについてご相談いただくなど、なんとか生き永らえることができました。

BONUS TRACKのキッチン。新しい人に出会ったり、試せたりする場所。

BONUS TRACKのキッチン。新しい人に出会ったり、試せたりする場所。

同時に、東京や地方から新しいご相談をいただけるようにもなりました。大手設計会社の社宅活用、東北や地方都市の空き家活用のアドバイスをするお仕事、そして学芸大学高架下のリニューアルプロジェクトなど。BONUS TRACKへの参加をきっかけに、新しいチャレンジをさせていただく機会が増えました。

きれいごとのように見えるが、順調ではない

うーん、まとめて書くとなんだかきれいに見えますね。ごめんなさい、ちょっとカッコつけてしまいました。正直なところ、スムーズに進んだことばかりではありません。

運営をしていくなかで、メンバー同士の考え方が変わり、別々に進むことになったプロジェクトもありました。物件に対する説明が足りずに、オーナーさんや近隣の方からお叱りをいただいたこともあります。コロナ禍は、思い出すと気持ちがギュッと苦しくなるようなこともたくさんありました。

それでも続けてしまうのは、きっとそれぞれの場所が自分たちの暮らしとつながっていて、切り離せないようになっているからかもしれません。

決してスマートではありませんが、僕らの日常をこれからご紹介させてください。松戸で展開してきたシェアカフェやクリエイティブスペース、芸術祭、そして東京でも生まれつつあるクリエイティブスペースなど、これからひとつずつプロジェクトを振り返っていきたいと思います。ご笑覧いただけると幸いです!

information

omusubi不動産

【松戸本店】

住所:千葉県松戸市稔台1-21-1 あかぎハイツ 112

TEL:047-710-0628

営業時間:10:00-18:00

定休日:水曜、日曜

Web:omusubi不動産

【下北沢 BONUS TRACK店】

住所:東京都世田谷区代田2-36-12

TEL:03-6805-5224

営業時間:10:00-18:00

定休日:水曜

omusubi不動産

おむすびふどうさん●「自給自足できるまちをつくろう」をコンセプトにまちの方々と田んぼや稲刈りをするフドウサン会社。築60年の社宅をリノベーションした「せんぱく工舎」をはじめとしたシェアアトリエを運営するほか、松戸市主催のアートフェスティバル「科学と芸術の丘」の実行委員として企画運営を行う。2020年4月下北沢のBONUS TRACKに参画。空き家をつかったまちづくりと田んぼをきっかけにした暮らしづくりに取り組んでいます。https://www.omusubi-estate.com/

credit

編集:中島彩

あわせて読みたい

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。

掲載情報の著作権は提供元企業等に帰属します。
Copyright © Magazine House, Ltd. All Rights Reserved.