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築200年の古民家をセルフリノベーションした夫婦が、一番つらかった作業は?

  • 2023年8月21日
  • コロカル
移住者のつくる小さなお店 したたむ vol.3

静岡県掛川市の山間での暮らしを始めて4年目、料理人の夫と陶芸家の妻による、ごはん屋さんと陶芸工房〈したたむ〉。

完全予約制のランチ営業のみで、Instagramで1か月分の予約を開始するとすぐに埋まってしまい、キャンセル待ちができるほどの人気店です。車でしか行けない山奥にあり、決して利便性の良い立地ではないものの、ここまでの人気店に成長したのはなぜなのか、本連載を通してひも解いていきます。

うつわを妻が、料理を夫が担当。

うつわを妻が、料理を夫が担当。

うつわを妻が、料理を夫が担当。

 

前回まで、飲食店を開こうと考えたきっかけや、お店を出すための土地探し、資金調達について書いてくれました。

今回は、料理人の夫・奥田夏樹(おくだ なつき)さんが、セルフリノベーションの計画について振り返ります。

陶芸家の妻・哲子さんと、料理人の夫・夏樹さん。

陶芸家の妻・哲子さんと、料理人の夫・夏樹さん。

大まかな時系列を整理

かくして都会住まいの私たちが掛川の山奥で小銭を握りしめ歩き出したわけですがここでざっくりと、これまでどんな流れだったのかを書き出してみました。

2016年2月…仕事の休暇を利用して物件探しを開始

2017年5月…認定NPO法人ふるさと回帰支援センターへ登録

2018年8月…建築設計事務所〈E4 inc.〉の金子さんから物件紹介の連絡をもらう

2018年9月…物件の初内見

2018年11月…物件契約、大工仕事(土間打ち、躯体に関わる作業の施行)

2019年7月…引越し、セルフリノベスタート

2020年6月…したたむ OPEN

物件の契約後から、物件を紹介してくださった〈E4 inc.〉の金子さんとリフォームについての打ち合わせを重ねていくことになります。最初に金子さんに言われたのは、こんなことでした。「家に関係していなくてもいいので、いいなと思うもの、気になるものの画像をとにかくたくさん集めて、それをすべて見せてほしい」

なるほどな、と思ったのをよく覚えています。私たちの「好き」という感覚的なものが金子さんとの間で共有されることで、精度の高いプランやアイデアを提案できるようになる、合理的な手法だと感じました。

また、「できる限り自分たちでリノベーションしたい」というこちらの要望を踏まえて金子さんと打ち合わせを重ねるなかで、イメージを具体的にしていき、現実的な落としどころを見つけてもらいました。

上が提案してもらった改修案の平面図です。この物件、先住者の方がすでに大がかりなリフォームをしており、最初の古民家のかたちからだいぶ改造された状態で引き渡されました。

引き渡し時の物件の状態は?

図面から最初の古民家のかたちを想像するに、日本で多くみられる土間部分と居室部分のふたつの空間からなる田の字づくりの間取りだったと思われます。

引き渡された状態の間取り図がないので、先住者の方が行ったリフォーム内容を挙げて、私たちに引き渡された直後の状態を思い出してみることにします。

・玄関から入って正面にあるキッチンの増築

・土間だったところを床張りへ変更

・土間だったところにトイレや洗面所、風呂場などの水回りを設置

・物件南側に縁側を増築

・部屋の角に押入れを増設

・一部が畳だった部屋を板の間に変更

・敷居や鴨居を新設し、ふすまや障子、扉などを増設

・屋根や外壁をガルバリウムに変更

玄関からキッチンを見る。

土間にトイレも設置されていた。

全体的にガルバリウムを使用した外観。

 

もともと民家として老夫婦が住まわれていた場所なので、店舗として利用するにあたり、ギャップが出てくるのは当たり前です。ただ、住みやすいかもしれないけれど、せっかくの古民家の良いところがなくなっていしまっている印象を受けました。

リノベーション計画

現状のままで住める状態の物件ではあったので、生かしていくところと、もとの古民家へ戻すところ、新設するところ、これらを考えることから始めました。

初めにここへ内見に来たときから、南側の二間を店舗スペースにして、北側の二間を住居スペースにするというのは、ふたりで共有できたイメージでした。それを軸にリノベーション計画を立てていくことになります。

リノベーション前の玄関ホール。

リノベーション前の玄関ホール。

私たちの大まかな希望として、

・この物件の良さを最大限に生かしながらも、“ザ・古民家”にはしたくない

・かつて土間だったところを土間に戻す

・汲み取り式トイレを水洗へ変更する

・南側の窓と玄関をアルミサッシからかっこいいものに変える

・壁は漆喰にする

こんな感じだったと思いますが、これを金子さんに伝えて、いくつかの提案のなかから上の改修案に辿り着きました。

このような経緯でリノベーション計画が立ち、私たちが引っ越してくるまでにプロにお願いする仕事が全て終わるスケジュールで調整いただき、改修工事が始まりました。

セルフリノベーション開始

照りつける夏の日差しがジリジリと音を立てている7月のある日、引っ越しで運び入れた段ボールたちが、がらんどうの部屋を埋め尽くしていました。

引っ越し後の大荷物。

引っ越し後の大荷物。

いよいよセルフリノベーション開始となるわけですが、やってきたことをすべて書き出すと聖書の長さになりそうなので(笑)、トピックになりそうなことを、やった順にリストにしてみました。

・畳床下のコンパネ貼り

・天井、梁の掃除

・室内の壁の漆喰塗り

・塗装

・床貼り

・外壁の漆喰塗り

畳床下のコンパネ貼り

北側にある畳部屋の畳の表替えをするため、畳屋さんに来てもらい畳を上げたらびっくり! なんと一面カビだらけ。しかも部分的にプカプカと床が凹むことが判明しました。

畳を上げてみたらカビだらけ!

畳を上げてみたらカビだらけ!

物件のすぐ裏、2メートル弱のところに山の斜面が迫ってきており、雨が降ると、家との間に数日間水溜まりが残るほど湿気が多い場所のため、その湿気で床下コンパネ板が腐りかけていたのです。

急遽大工さんに来てもらい、床下の基礎の部分を確認してもらったところ最悪な状態ではないとのこと。2人日(人数×日数で、ひとりで2日かかる仕事量)の大工仕事で何とかなりそうとの見積もりをもらいました。僕らでもできる改修案を検討してもらったところ、今あるコンパネ板をきれいに掃除して、その上に新たに厚めのコンパネ板を重ねて、床下のコンパネ板を二重にするという方法を導いてくれたので、自分たちでやらせてもらうことになりました。

素人で危なっかしい私たちに見兼ねて「こういう工具が売っているから使うといいよ」とか「ここはこうするのがプロの仕事だから同じようにやってみな」などさまざまなアドバイスをもらいながら完成に至りました。大工の天野さんには、このあとも大変お世話になるのでした。

具体的な作業内容としては、以下。

・カビ掃除

・コンパネ板に防腐塗料を塗る

・乾燥したコンパネ板を床に釘を使って貼る

コンパネ板が貼れました。

コンパネ板が貼れました。

畳をはめたら完成!

畳をはめたら完成!

金銭感覚の麻痺に陥る

家を買う場合などは特に、多くの方が“金銭感覚の麻痺”という現象に陥るといいます。日常生活のなかで5万円の買い物は、安易に決断することができない大きな買い物ですが、なぜか家づくりをしているときには、食後に頼むドリンクよりもあっさり決断してしまう……そんな金銭感覚の麻痺は、ご多分に漏れず私たちも体感することになります。

先ほどの畳を上げて初めてわかった基礎部の問題。2人日程度と見積もられ、「ま、基礎の部分だししょうがないか」となってしまいそうでしたが、数字に出して冷静に考えるとまぁまぁな金額になります。ピンキリなのでいろいろなケースがあると思うのですが、今回の場合だと、大工さん1日2万円計算で、2日で4万円。プラス材料費もろもろで5万円くらいとなります。

なんとか自分たちでやることに。

なんとか自分たちでやることに。

スーパーで2種類並んだ198円と148円のナス。だいたい同じ品質で、たった50円の差なのに、時間をかけ真剣に吟味する私。なのにどうでしょう。畳の下の基礎のことなら簡単に5万円を払う覚悟ができてしまったのです。“金銭感覚の麻痺”、恐るべし。

ただし、ひとつ申し上げておきたいのは、金子さんたちはお金のない私たちのことを理解してくださって、「自分たちでできないか?」という、何の特にもならない要望に対し、親身に相談にのっていただいたおかげで、可能になったセルフリノベーションなのでした。たくさんわがままを聞いていただいたわけで。感謝しかありません。

ススだらけの天井と梁を掃除する

わが家の天井の構造は、天井はなく、そのまま梁があり、その奥に茅葺屋根の裏側が見えています。

また、仮に2階があったとしたら、その床に当たるであろう位置に、一面、格子状に組まれた竹が敷かれていて、その上に交換用の茅がたくさん積まれていました。断熱を兼ねた茅置き場になっていたようです。

格子状に敷かれた竹。

格子状に敷かれた竹。

組まれた竹は梁と同じくとても良い感じに燻されていたので、茅だけ捨て、竹は生かしていくことにしました。

茅葺屋根の裏側が内側に残された状態のわが家は、強風が吹くなど家が振動すると、パラパラとススだらけの茅が落ちてきます。梁や竹の上面は、ススで真っ黒の茅や埃などが長年かけて積もり、多いところで2センチ以上の高さになっていました。それらをガンガン下へ落としていき雑巾で拭いていきます。

服ももちろん黒くなる。

服ももちろん黒くなる。

また格子に組まれた竹は麻ひもで結わいてあるのですが、その麻ひもも劣化していて、触ると砂のように崩れ落ちていく状態だったので、麻ひもをとっていき、竹を磨き、新しい麻ひもですべての交点を結わいていきました。

脚立をハシゴ状にし、梁に立てかけての高所作業。しかも不安定な足場に立って、ずっと上を向いての作業となります。自分でやることの大変さを思い知らされました。

頭にタオルを巻き、粉塵マスクにゴーグルをつけて作業をしていましたが、1日の終わりに浴びるシャワーの一発目は真っ黒の泥水。風呂あがりに鼻をかむと、黒い鼻水が……。こんな日々を7日間ちょっと続けた、というとどれくらいつらかったかが伝わるでしょうか。

セルフリノベーションでいろいろなことをやりましたが、ダントツでこの「天井、梁の掃除」がキツくて大変な作業でした。

しかし、このあと壁塗りや床板張りなど、まだまだ作業は続きます。それはまた次回に。

information

したたむ

住所:静岡県掛川市初馬4394

TEL:0537-25-6263

営業時間:12:00〜14:30

定休日:水〜金曜

Web:したたむ

したたむ

料理人の夫・奥田夏樹と陶芸家の妻・吉永哲子によるご飯屋と陶芸工房。完全予約制でランチのみ営業中。予約はInstagramより。https://www.instagram.com/_sitatamu_/

credit

編集:栗本千尋

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