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北海道の廃校で夏フェスを開催。入場者数や物販の売り上げじゃない、イベントの本質は

  • 2023年8月9日
  • コロカル
フードや作品販売からライブ、ワークショップまで盛りだくさん

7月28、29、30日、私が代表を務める地域PR団体が主催となって『みる・とーぶフェスティバル』を旧美流渡中学校で開催した。北海道もほかのエリアと同様に猛暑となっており、開催には不安もあったが、無事に終了することができた。

駐車場スペースにテントを設置。お祭りらしいにぎやかなムード。

駐車場スペースにテントを設置。お祭りらしいにぎやかなムード。

今回、新しい出会いがあった。屋外のテントエリアには、フードや作品、雑貨など17組のお店が並んだ。そのうち12組は旧美流渡中学校のイベント初参加だったけれど、なぜだか以前からずっと友だちだったような、そんな気持ちのするすてきなメンバーだった。おそらく旧美流渡中学校という場に魅力を感じてくれていたことや、作品制作をしたり、こだわりの品を販売したりと、互いに共感できる部分があったからだろうと思う。そしてもうひとつ、準備期間中に顔を合わせる機会があったことも大きかったかもしれない。

札幌から参加したイラストレーター・モントペペリさん。

中古レコードの販売を行う〈リストアップレコード〉。

栗山町から参加した大麻を素材にしたアクセサリーとカードリーディングのお店〈アトリエNAO〉。

オーガニックな素材を生かしたこだわりのジャムのお店〈ichitowa jam〉。

レギュラーメンバーも出展。ハーブブレンドのお店〈麻の実堂〉。

美流渡在住の陶芸家・こむろしずかさん。

 

このフェスティバルで出展者を募集するにあたって、みなさんにお願いしたことがあった。開催の1週間前に行う校舎の清掃や、前日にテントを張る作業への参加だ。さらに3日間、テントを立てたり畳んだりという作業を、みんなで協力してやってほしいと呼びかけた。運営スタッフの人数が少ないための協力のお願いだったけれど、校舎の掃除をしているときに、出展者同士が話す機会も多く、互いの理解を深めることができたんじゃないかと思う。また、毎日のテントの上げ下げは、なかなかの重労働だったけれど、みんなで力を合わせることで、心の通い合いもあったように感じられた。

テントは市の施設から10張り借りてきた。メンバーのなかにテントを使用したイベントを行ったことがある経験者がおり、搬入から撤収までずっとみてくれてありがたかった。

テントは市の施設から10張り借りてきた。メンバーのなかにテントを使用したイベントを行ったことがある経験者がおり、搬入から撤収までずっとみてくれてありがたかった。

校舎の管理でいつも課題となるのが草刈り。今回は、農家をはじめ草刈りのプロといえるような方たちが集まってくれて作業が本当にはかどった。

校舎の管理でいつも課題となるのが草刈り。今回は、農家をはじめ草刈りのプロといえるような方たちが集まってくれて作業が本当にはかどった。

イベント開催1週間前の整備では、メンバーがお昼にカレーをつくってくれた。朝一番に来てくれてジャガイモの皮剥き!

イベント開催1週間前の整備では、メンバーがお昼にカレーをつくってくれた。朝一番に来てくれてジャガイモの皮剥き!

まちの中心部で行うイベントと違って、集客はのんびりしたものだったけれど、「とても楽しかった。また参加したい」や「みなさんと知り合いになれたことが良かった」など、やさしい言葉をかけてくれる出展者の方がいてくれて、それが何よりありがたいことだった。

MAYA MAXXさんのライブペイントと岡林利樹さんのアフリカ太鼓

このほか私がとても印象的に感じたのは、3日間、毎日行われたライブ。初日の28日は、美流渡在住の画家・MAYA MAXXさんと美流渡より山あいへと入った万字在住のアフリカ太鼓の奏者・岡林利樹さんによる、ライブペイントと太鼓演奏が行われた。MAYAさんは横2メートル30センチほどのキャンバスに、まず青と緑と黄色の線をハケで描いていった。

太いハケで3色の色を重ねていく。

太いハケで3色の色を重ねていく。

描く呼吸と太鼓のリズムがぴたりとあっている。

描く呼吸と太鼓のリズムがぴたりとあっている。

その後、オイルパステルで線をぐるぐると描き、今度は上から全体に黒い絵の具を塗った。次に水を含ませたハケを上からかけると、黒が微妙に溶け出していった。

太鼓のリズムは、MAYAさんの動きに合わせて、さまざまに変化していった。それはときには元気よく、ときには不安げな調子に聞こえ、喜怒哀楽の感情を表しているかのように感じられた。

黒で画面が覆われた。

黒で画面が覆われた。

ハケに含ませた水によって黒が剥がれ落ちていくと、豪雨のなかで森に佇んでいるような、そんな様相の画面となった。そこにMAYAさんが思いっきり腕を動かし、パステルによる線が描かれていった。ただ、パステルは削られてとても小さくなっていたので、指で絵の具を押し除けていくような、白いラインが画面に浮かび上がった。

黒の絵具を水で剥がしていく。

黒の絵具を水で剥がしていく。

無限のマークのような、線が描かれたそのとき、「もう、終わるよ」とMAYAさんは呟き、右上にサインを描いた。

最後にサインを描いた。

最後にサインを描いた。

ライブペイントは30分ほどで終了だった。MAYAさんは絵を描いているとき、別の世界へといっているような雰囲気がある。誰とも目を合わせず、ほとんど声を発さなかったけれど、筆を置いた最後にこういった。

「このライブペイントは、利樹さんは嫌がるかもしれないけれど、藍さんの追悼として行いました」

岡林さんの妻・藍さんは1年半前に、第2子出産の際に帰らぬ人となった。藍さんは〈みる・とーぶ〉の仲間だった。藍さんの不在について、私は何をどう書いていいのか未だにわからないけれど、今回、このような場を持てたことが心底よかったと思えた。

岡林さんは、ライブペイントが終わったあとMAYAさんに促され、ソロ演奏を行った。このときの太鼓の音色は体育館にひときわ大きく響き、それはまるで天まで昇っていくような透き通った音だった。

ソロ演奏。

ソロ演奏。

子どもたちのにぎやかな声と音楽とが混ざり合って

29日はアンデス民族音楽〈ワイラジャパン〉のライブがあり、30日は昼からずっとライブが行われた。13時からは長澤まろいさん、14時からはじュんきとめいさん。ライブ会場は体育館。

普段は「ミルトぼうけん遊び場」という名前で子どもたちの遊び場となっており、今回はライブ中でも自由に遊べるようにした。子どもがボールを投げたりおままごとをしたりするなかで歌った2組は、いずれも自由な空気に包まれた空間でライブを行うことをとても喜んでくれた。

〈ワイラジャパン〉の演奏。北海道ツアー中で、昨年に続き旧美流渡中学校にやってきてくれた。

〈ワイラジャパン〉の演奏。北海道ツアー中で、昨年に続き旧美流渡中学校にやってきてくれた。

札幌を拠点に活動するシンガーソングライター長澤まろいさん。育児休暇中だったが、今回、復帰初ライブとなった。ヌルマユというバンドでドラムを担当する中村正敬さんがギターとドラムの両方を担当した。

札幌を拠点に活動するシンガーソングライター長澤まろいさん。育児休暇中だったが、今回、復帰初ライブとなった。ヌルマユというバンドでドラムを担当する中村正敬さんがギターとドラムの両方を担当した。

「なんだかとてもあたたかい雰囲気のなか、歌うことができてすごくしあわせでした」長澤さんは2児の母。子どもがいるとなかなかライブに行けないので、そういう人たちにも音楽を聴いてもらえる機会になればと思ったという。

じュんきさんとめいさん。息子さんも一緒にステージに。

じュんきさんとめいさん。息子さんも一緒にステージに。

じュんきさんは、以前に「森のようちえん」の活動をされていたそうで、子どもが主体的に遊ぶ場をつくっている私たちの取り組みにとても共感してくれた。「お祭りにきている地元の方々や子育て仲間の方々。なんだかあったかい方ばかりで、僕らのLIVE終わったあとも『よかったよー!』と言って涙ながらに声をかけてくださる方が何人も何人もいらっしゃいました。うれしかったー」

子どもと人々の幸せな未来を願う歌は、体育館の雰囲気とピッタリとあっていた。

そのあとには、LOVE & PEACE WEDDINGと題して、みる・とーぶのメンバーであるふたりの入籍を記念した、公開ウェディングライブを行った。〈つきに文庫〉という古本屋を美流渡で営む吉成里紗さん(旧姓・寺林)と岩見沢にある小さな居酒屋の店主・吉成厚人さん。里紗さんはアフリカンダンサーとして活動していて、厚人さんもギターを弾いており、どちらも音楽関係の友人が多いことから、5組のライブが行われた。

トップバッターは万事世話九郎さんのギターの弾き語り。

トップバッターは万事世話九郎さんのギターの弾き語り。

続いてアフリカンバンド〈ハケトゥボーイズ〉。

続いてアフリカンバンド〈ハケトゥボーイズ〉。

三四郎さんによるギターの弾き語り。

三四郎さんによるギターの弾き語り。

岡林利樹さんをリーダーに美流渡を拠点に活動するアフリカンバンド〈みるとばぶ〉の演奏。

岡林利樹さんをリーダーに美流渡を拠点に活動するアフリカンバンド〈みるとばぶ〉の演奏。

里紗さんが20代の頃から活動していたアフリカンバンド〈アンガソ〉が6年ぶりの再結成。最後はさまざまな仲間も演奏に加わって大合唱!

里紗さんが20代の頃から活動していたアフリカンバンド〈アンガソ〉が6年ぶりの再結成。最後はさまざまな仲間も演奏に加わって大合唱!

ステージの垂れ幕をつくったのはMAYA MAXXさん。子どもたちと描いたシャボン玉の絵とともにLOVE & PEACE WEDDINGの文字をあしらった。また、旧美流渡中学校の向かいにある安国寺の住職の立会いによる「人前結婚式」も実施。さらには風船アーティストのベラさんが会場を風船のオブジェで飾ってくれた。パーティーの料理は、みる・とーぶのメンバーであるスパイスカレーのお店〈ばぐぅす屋〉が腕を振るった。地域の仲間がそれぞれの才能を持ち寄ってつくった手づくりのウエディングとなった。

安国寺の岡田住職による「人前結婚式」。

安国寺の岡田住職による「人前結婚式」。

子どもたちも参加して透明ビニールシートに文字と絵を描いた。「ふたりとも喜んでくれるかな?」

子どもたちも参加して透明ビニールシートに文字と絵を描いた。「ふたりとも喜んでくれるかな?」

ふたりが最後に挨拶に立ったとき、なんだかじんわりと涙が込み上げてきた。イベントを開催すると、いつでも入場者数や物販の売り上げが気になってしまい、全体に少なかったりするととても凹む。けれど、根本的にはいつも顔を合わせている仲間が喜んでくれるのが一番うれしい。その顔が見たくて、いろいろ会を開いたりしてきたんだということを再確認できて、本当にやって良かったと思えた。

衣装は里紗さんがアフリカの布で手づくりした。

衣装は里紗さんがアフリカの布で手づくりした。

フェスティバルの3日間は、強烈な暑さと、新しい出会いと、ハッピーな空気に包まれた、忘れられない夏の思い出となった。

writer profile

Michiko Kurushima

來嶋路子

くるしま・みちこ●東京都出身。1994年に美術出版社で働き始め、『みづゑ』編集長、『美術手帖』副編集長など歴任。2011年に東日本大震災をきっかけに暮らしの拠点を北海道へ移しリモートワークを行う。2015年に独立。〈森の出版社ミチクル〉を立ち上げローカルな本づくりを模索中。岩見沢市の美流渡とその周辺地区の地域活動〈みる・とーぶプロジェクト〉の代表も務める。https://www.instagram.com/michikokurushima/

https://www.facebook.com/michikuru

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