
お絵描きの時間、幼稚園児が描いた家族の絵に謎の黒い影が…。先生が訊ねた影の正体は「まったく怖くない」もので――?
心霊やホラーは、ドキっとするような急展開や予想を裏切るどんでん返しが魅力の1つ。そんな魅力を活かしつつも、恐怖は一切なしの心霊4コマに反響が集まっている。作者はSNS上で多彩な創作4コマ作品を描く留々家(るるいえ)(@ruru_ie)さん。驚きはそのままに、怖さゼロの心霊4コマを描く裏側を取材した。
■不気味な黒い影……緊張感ある「家族の絵」に描かれたものの正体に納得
冒頭で取り上げたのは、留々家さんが2023年8月、心霊4コマ特集としてX(旧Twitter)上で公開した4コマ作品の1つ「影」。
幼稚園で男の子が描いた家族の絵。「マサルくんは何を描いてるの?」と訊かれ、マサルくんは「ママと…ボクと…パパ!」と説明する。
だが、パパの横にはもうひとつ、黒塗りの人影らしきものが描かれていた。恐る恐る「この黒いのはなぁに…?」と質問する先生に、マサルくんは胸を張り、「ボクのサイン!」。マサルくんの名前は漢字で書いたら「大」。心霊現象を描いたものと思いきや、子供の背伸びしたサインだった、というほほえましいオチだ。
同作のほか、怪談で「生きている人間が一番怖い」という結論から斜め上の行動に移る4コマ「怖い話」や、廃墟に出る少女の霊に対してあんまりな文句をつける「廃墟」など、心霊現象の鉄板ネタから繰り出されるネタは笑えるオチばかり。1600件以上のいいねとともに、「ツッコミが追いつかない」と笑いを呼んだ。
■「日常と非日常が共存」4コマの巧みな構成
――留々家さんの心霊4コマが反響を呼んでいます。心霊・ホラーというジャンルへの4コマでのスタンスを教えてください。
「4コマ漫画を描くときには、題材とするものにまつわるお約束、いわゆるあるあるネタを元にアイデアを考えています。そうしたときに心霊やホラーというジャンルにはいろいろとお約束があり、4コマにしやすい題材かもしれません」
――心霊ネタで怖さを使わないアイデアがユニークですが、お約束をどんな風に活用しているのでしょうか?
「たとえば心霊写真を題材にするなら、点が3つあれば人の顔に見えてしまうとか、写っている人数に対して手足の数が多いとか、またはテレビ番組での「おわかりいただけただろうか」という決まり文句など、こういったことが4コマのアイデアの元になります。また心霊やホラーは非日常の世界です。そこへ日常的な感覚を持ち込むことで、緊張が壊れ、おかしみにつながるのではないかとも思います」
――留々家さんの4コマは、逆に日常を感じさせる展開でぞっとするようなオチが描かれることも多いです。そういう場合は前述のような「非日常」を際立たせるために「日常」を意識して描かれているのでしょうか?
「非日常的な結末を効果的に見せるために、そこに至るまでの日常感を強調することはあります。しかし私は、日常によって非日常が際立つことよりもむしろ、1本の4コマの中に日常と非日常が共存していることこそがおもしろいと思っています。だから意識していることがあるとすれば、それは読み手がある程度納得できる形で、日常と非日常を結びつける理屈を組み立てることです。またそれは、先に説明した、非日常の中に日常的な感覚を持ち込む形の4コマでも、まったく同じことなのです」
取材協力:留々家(@ruru_ie)