
「その人が望んだら本当に死んじゃうんだって」。とある学校でささやかれていた呪いの噂。一人の少女は、自分がその呪いの当事者に選ばれたことに気付き……。
なまくらげ(@rawjellyfish)さんの創作漫画「嫌いなやつには消えてほしい」は、“他人の死を願えば叶う”というシチュエーションと、それに直面した主人公の選択を描いた短編作品だ。他者の死を望むということの意味を考えさせられる同作を描いたきっかけや創作への思いについて、作者のなまくらげさんに話を訊いた。
■望んだ相手が消えていく……。その力を持つ者として選ばれた少女の心理をたどる短編
ある日少女が友人から聞かされた、学校に伝わる噂話。毎年誰か一人が選ばれ、その人が死を望んだ相手が本当に亡くなってしまうのだという。
そんな噂を、「今年は誰なんだろうね」と軽く流していた少女。だがある日の授業中、教室で騒ぐクラスメイトの不良少年の態度に「ああいうのが死ねばいいのに」と噂話が脳裏をよぎる。
その翌日、件の不良少年が交通事故で亡くなったとクラスに訃報が届く。昨日の今日での奇妙な一致に驚く少女は、報せを話題にはしゃぐ別のクラスメイトに「ついでにこっちも死んでくれれば」と願ってしまう。
その願いも現実のものとなってしまい、念のため誰かの死は願わないようにしようと少女は心に決める。だがその後も、ふとした瞬間に他者がいなくなればいいと望んでしまい、その結果に葛藤しながらも「私が願った結果だとしてそれは本当に悪いこと――?」という思いが湧き上がる。
一年後、「去年はやばかったねぇ」と少女の友人が噂話を振り返る。少女は結局「いなくなって喜ばれるような人達」として十人ほどの死を願ってしまい、学校中が噂におびえることになったのだ。
少女は、今年は自分以外の誰かが呪いの力に選ばれるかもしれないと気付き、「去年みたいに力を使う人ってどう思う?」と友人に問いかける。
その人物を、人の命をどうでもいいと考えている人間だと表現した友人。「死んだ方がこの世のためじゃない?」という答えに、少女は目をそらし力なく笑うのだった。
■『是非を考えてもらえるような内容に』重いテーマを描くうえでの機微
Twitterで1.8万件の「いいね」を集めた「チャットボットに頼りすぎた話」をはじめ、オリジナルの短編漫画をSNS上や個人誌で発表し反響を集める作者のなまくらげさん。ウォーカープラスは、読者に死生観や倫理を問いかけるようなテーマで描かれた本作への思いをうかがった。
――「嫌いなやつには消えてほしい」を描いたきっかけを教えてください。
「もともと死生観について思考するのが好きで、その一部を漫画にした形になります。他者の死はよくないことではありますが、誰かの損得勘定で照らし合わせれば得になってしまう場合もあるのかなという考えがありまして。そのギャップや是非について機会があれば描いてみたいと思っていました。今回『誰かに消えてほしい』という、多くの人が一度は考えそうな願いと合わせる形で創作に至りました」
――主人公に選ばれたのは、他者の死に葛藤しながら「問題ないじゃないか」と易きに流れてしまう少女でした。
「もし現実で同じような条件下におかれた場合、主人公のように割り切ってしまう人、高い倫理観をもって自制できる人、いろいろな対応が考えられると思います。ただ、後者のような優等生ケースではいまいち事件性に欠け、テーマに切り込みづらいという問題があり……。そこで主人公には申し訳ないですが、葛藤させつつも最終的には吹っ切れてもらいました」
――なまくらげさんの作風は、特異なシチュエーションの中にいる“普通の人”を描くものが多いように感じます。こうした作風に至った経緯を教えてください。
「私の創作意欲の源泉として、自分が日頃考えている思考の一端を漫画として表現していきたいという思いがあります。せっかくなので読者の方にも一緒に考えてもらえればと、思考実験的なストーリーを模索していった結果、『特殊な状況×悩む主人公』という構成が一番描きやすく、共感してもらいやすいかなと今の形に落ち着いた気がします」
――また、本作を描くうえで意識した点や、挑戦・アプローチを変えたポイントはありますか?
「本作のテーマは人の死に関するナイーブなものでしたので、全体として非人道的な内容に偏らないよう気をつけました。単に吹っ切れて終わりではなく、主人公の心境の変化や友人の反応などを通して、実利と倫理の間の揺れ動きを表現したいなと。人の死を願うことの是非を考えてもらえるような内容にできていたら幸いです」
――今後の漫画制作での展望や、やりたいことがあれば教えてください。
「基本的にはこれまで通り趣味の範囲で創作活動を続けられればと思っています。とはいえ、ネタ切れやマンネリ化も怖いので、いろいろなテーマに興味を持って挑戦して行きたいですね。引き続きがんばります!」
取材協力:なまくらげ(@rawjellyfish)