
ブルボンのヒット菓子・ルマンド。1974年、同社の創業50周年を記念して発売したクレープクッキーで、3代目の故・吉田高章社長を中心に考案、量産化されました。発売当初は月商10億円を上回り、業界のジンクスを打ち破ったという記事もあるそうです。以降、今日まで約48年間という長きにわたって多くの日本人に親しまれるお菓子となったことはご存知の通りですが、その背景にはいくつかの秘密があるようです。今回はブルボンの広報の方に質問し、ルマンドにまつわるいくつかの秘密を聞いてみました!
■前例のない商品・ルマンドは、菓子市場・開発を牽引した菓子だった!
「世界に広がるお菓子になってほしい」という思いから、洋風のクッキーに合うように「ル・モンド(フランス語)」の造語として「ルマンド」と命名されました。「ル・モンド」は直訳すると「世界」を意味する語です。
他方、ルマンドのクレープ生地を安定して大量生産することは当時大きな課題だったとのことで、機械開発部門、製品開発部門が試験室や工場で何度も試作して、成形手法を完成。また、クレープ生地に使われているマーガリンは、液体マーガリンを採用。この液体マーガリンも原材料メーカーと共同で開発したそうです。
また、ルマンドのまろやかな甘味の元はココアクリームで、ホワイトクリームをベースにココアを入れて、飽きることなく親しんでもらえるよう工夫されているとのこと。
「発売当初の雑誌の中の記事で『ある主婦は、口のなかへいれると自然にとけて、まろやかな味がするし、うちでは、子供達やおじいちゃんまでみんなルマンドのファンです』といったものが残っています。このことから、発売当初にしてお子さんからお年寄りまで多くの方に好評をいただいたと思います」(ブルボン・広報担当者)
また、今では見慣れたルマンドのパッケージにある「紫色」は、それまでの食品(菓子)にはタブーの色とされていたようで、この点でも業界内で常識をひっくり返す発想だったようです。
「ルマンドのパッケージは、紫を基調としたシンプルで品格のあるデザインとしています。また、キーカラーである紫色と、個性ある生地の形状を美しく見せる外装と個装のレイアウトが特徴的で、袋入り商品のパッケージは、どうしても外装パッケージに重点を置きがちですが、『お茶請け』として菓子器に入れたときにも見栄えの良い個装とする発想から、外装はそれを補う程度にしてシンプルにまとめています。これによって、中身のボリューム感や美味しいお菓子をたくさん提供するというコンセプトが、店頭でアピールできたのではないかと考えています」(ブルボン・広報担当者)
■ルマンドのヒットによって、ブルボンの年間売り上げが1年間で倍増した!
1974年の発売当初のルマンドの価格は2本入り25円(当時)。100円、200円、300円などさまざまなパッケージで販売されましたが、同年5月に150円タイプを発売し、これに合わせてテレビCMを放映。このテレビCMでの訴求効果もあり日本全国に急速に認知が広まります。
「ルマンドのテレビコマーシャルに女優カトリーヌ・ドヌーブさんを起用したことで、 当社の洋風ビスケットのイメージが非常に強く印象づけられました。また、発売以後ルマンドは生産が追いつかず、生産設備を昼夜兼行で設置するなど、その後の新工場の建設へ繋がりました。他の商品はもちろんのこと、当時、ルマンドの生産設備の建設や商品の製造、営業など当社社員に多くの経験をもたらした商品であったと思います」(ブルボン・広報担当者)
言わば、その急激なヒットによる「嬉しい悲鳴」をあげることになりましたが、中には納品を待ちきれない問屋のトラックがブルボン(当時の社名は北日本食品工業株式会社)の工場まで買い付けに来たという逸話もあるほど。これらのルマンドの大ヒットによって、1974年から1975年にかけてのブルボンの年間売り上げは、なんと200億円から405億円とわずか1年間で倍増。ブルボンはもちろん、菓子業界にとってもかなりの革命的お菓子だったことは言うに及びません。
■どことなくストイックな印象のルマンドにも複数のシリーズ商品がある!
このようにルマンドは、もはやブルボンの代表的な商品に。発売以降48年間、他社からの類似商品が出ていないことから言っても、当初からの開発力の高さがうかがえます。これらのことから、ストイックにその味を守り続ける印象のルマンドですが、シリーズ商品も豊富。これまでにホワイトクリーム、キャラメルクリームなどの季節限定商品や、高級仕様のものなど数多くの商品がリリースされ、現在もオリジナルのルマンドの他に複数のシリーズ商品があります。
ミニタイプのキャラメル&ココアの詰め合わせのミニルマンドFS、携帯性に優れたパウチ形態のひとくちルマンド、アイスクリームの中にミニタイプのルマンドを丸ごと入れたルマンドアイス、さらに昨年春にリリースされたひと回り大きいサイズの贅沢ルマンドが販売されています。
つまり、ルマンド本来が持つ素晴らしさ、美味しい味は守り続けながらも、時代ごとのニーズに沿ったシリーズ商品も展開し続けていると言えそうですが、さらなる未来に対し、多くの人々にとってルマンドがどうあってほしいかについても最後に聞いてみました。
「お菓子は、それ自体が持っているおいしさや楽しさに加え、笑顔を引き出し人の心をやさしくしたり、豊かにしてくれる不思議な力があります。人と人とのコミュニケーションや会話の真ん中にお菓子があることにより、多くの方の笑顔に繋がっていってほしいと考えています」(ブルボン・広報担当者)
昭和、平成、令和と3時代を駆け抜け、今なお多くの人々に親しまれ愛され続けているブルボンのルマンド。これから先の未来にも、この味は引き継がれていくはずです。
撮影・文:松田義人