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砂浜に行こう!<第4回>

  • 2019年7月23日
  • NACS-J

今、日本の砂浜で起きていること

 日本全国の砂浜で今、起きていることと、それにより環境や生態系にどのような影響が及んでいるのかを、砂浜の環境問題に詳しい向井 宏先生に教えてもらいました。

文・写真:向井 宏

北海道大学名誉教授。環境省の重要海域抽出検討委員。
専門は海洋生物生態学。海の生き物を守る会代表兼事務局長として日本の砂浜生態系の保全に尽力する第一人者。


 日本の砂浜を取りまく最大の問題は、砂浜の減少や消失です。
また、砂浜の上部に道路ができて護岸が作られ、本来の砂浜の上半分がなくなってしまった砂浜が非常に多いということです。

 護岸建設や防波堤、潜堤、突堤などが作られている砂浜は半自然海岸と言いますが、日本の砂浜のうち人工物が作られた人工海岸と半自然海岸が95%以上になっており、本来の自然海岸である砂浜は5%未満まで減っています(北海道・本州・四国・九州の四島とそれに橋でつながっている島が対象。それ以外の離島はもう少し自然海岸が多いと思われる)。

 約20年前に国交省が集計した情報によると、日本の砂浜は平均して年間約5mの速さで減っているそうです。これは100mの幅がある砂浜も20年後にはなくなる計算になります。



陸海の自然度が砂丘から見える

 砂浜の砂は昔からずっとそこにあると思いがちですが、決してそんなことはありません。
 砂は常に入れ替わっているのです。波や潮流によって砂粒は沖に流され砂浜から消えていきます。しかし、また新しい砂粒が流れてきて、砂浜を形成します。砂浜は恒常的なものではなく、入ってくる砂と出て行く砂がバランスを保っている動的安定性をもった物理的な系なのです。

 もともと砂粒は、山の地表から雨によって流されたもので、川を経由して河口から海へ流されます。山から砂浜までの砂の流れを流砂系と言います。山から海へ流れてくるのは水と砂、それに溶解・懸濁した栄養物質です。

 水も栄養物質も循環し、森と海の繋がりを特徴付けているのですが、砂は循環しないで一方的な流れ(流砂系)を作ります。そして海に流れついた砂は、漂砂として潮流や海浜流によって海岸沿いを移動し、砂浜へと供給されていくのです。

 以上の基礎知識を踏まえた上で、砂浜の減少・消失の要因を探りましょう。

砂浜4_1



河川開発の影響

 まず大きいのは、川の問題です。
 川には現在ダムや堰があちこちに作られています。この貯水ダムや砂防ダム・河口堰が、上流から流れてくる土砂を止めてしまうのです。
 本来山から土砂が供給されて、それが海岸で砂浜を作りますが、その砂が流れてこなくなったのが、最大の問題です。日本には高さ15mを超える貯水ダムが約3100カ所あります。

 砂防ダムや堰堤は、全国で約10万とも言われています。また、多くの河川で河口部に河口堰が作られています。
 これらの河川横断構造物が、土砂の下流への移動を阻害しています。これも約20年前のデータですが、日本の代表的な100のダムには、約15億3千万m³の砂が溜まっています。

 この量はちょっと想像もできませんが、日本の砂浜の総延長が約1万3000kmあり、その砂浜に幅100m深さ1mの砂があるとすると、その総量よりも多くの砂がダムにたまっていることになります。もちろんそのほか無数の砂防ダムや河口堰などにも多くの土砂をためています。

 それだけの砂が海に流れてこないでダムにためられていると言うことは、海岸の砂浜がすべてなくなっても不思議ではないということになります。

砂浜4_2
▲全国の河川に作られている砂防ダム


海岸開発の影響

 海岸線に作られた港の防波堤も漂砂の移動を妨げる構造物です。
 また、量的にはダムほど多くありませんが、海岸の砂の一部は海岸の崖などが雨によって浸食され風化されて海岸に砂を供給してきました。
 ところが多くの海岸では、コンクリート護岸が作られ、海崖の風化・浸食も阻害され、砂の供給ができなくなっています。

 また、東日本大震災に伴う津波の被害があったことから、津波対策として海岸の砂浜に巨大な防潮堤が作られています(三陸では延長300km)。

 これらの多くが砂浜を分断する形で作られており、砂浜の面積が大幅に減少し、しかも建設後は、波の反射によって防潮堤前面の砂が持ち去られる可能性が高くなります。巨大な防潮堤の前からも砂浜はなくなっていくでしょう。

砂浜4_3
▲東日本大震災後に建設された気仙沼の巨大防潮堤


海砂採取の影響

 そのほかに、コンクリートの細骨材として海砂を採取する問題があります。
以前は川からも砂を採取していましたが、ほとんどの川で砂を取り尽くしてしまい、現在ではすべての川で砂の採取は禁止されています。それが現在の海岸への砂の供給が減少した一つの要因です。一方、海砂の採取はほとんど無制限に行われていました。

 瀬戸内海では、大規模な海砂採取が行われ、主要な砂堆がなくなり、海岸の砂浜の減少も著しくなってきたため、現在瀬戸内海に面する5県(兵庫、岡山、広島、香川、愛媛)では、海砂採取を全面的に禁止しています。山口県も日本海側だけで採取を認めています。

 しかし、まだ全国の多くで海砂採取が行われています。
砂の採取によって、海岸の砂が沖合に移動する速さが増えると考えられていますが、科学的には、まだ十分証明されていません。ダムなどの構造物がないにもかかわらず砂浜の減少が続く場所(例えば奄美大島)では、海砂採取が砂浜の侵食の原因である可能性は高いと考えられます。



地球温暖化の影響

 また、最近の地球温暖化による海面上昇や異常気象によって、高波が砂浜を侵食する可能性や頻度が高まっていることも事実です。

 砂浜の減少には、多くの要因がかかわっていますが、それを土木工学的な発想で解決しようとする傾向には、注意しなければいけません。
 わざわざお金と労力をかけて砂を運び入れて砂浜を維持している場所も少なくありませんが、山から海へのつながりや役割を考えていれば、無駄なお金や労力を使う必要もないのです。



砂浜の減少がもたらす諸問題

 砂浜の減少は高波の影響を増大させます。
東日本大震災の津波の時にも、三陸地方のリアス式海岸では、津波の高さは増大し、大きな被害が出ました。
 しかし、砂浜のある茨城県の鹿島海岸、千葉県の九十九里浜では、津波は大きくならず、被害も比較的少なかったと言われています。なかでも砂浜が広がっていた地域の津波の高さはそれ以外の場所よりも明らかに低かったそうです。

 また、防潮堤の建設によっては、陸と海の繋がりが絶たれてしまう場合が多くあります。陸と海の間を行き来するアカテガニなどベンケイガニ類、オカヤドカリ類などの動物は、防潮堤や護岸の建設で、陸との繋がりがなくなり、生活できなくなってしまいます。

 そして砂浜の減少は生物多様性を大幅に低下させます。スナガニ類、キンセンガニ類、スナホリムシ類、ナミノコガイ類、ハンミョウ類など、砂浜特有の生物の多くは、各地で絶滅危惧種に指定されています。
 それらは砂浜が消えると運命を共にせざるを得ず、なかでも砂浜上部に生育する塩性植物は絶滅の危機にさらされています。

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▲(左)海と陸を行き来するムラサキオカヤドカリ、(右)希少な塩性植物であるイソスミレ 

出典:日本自然保護協会会報『自然保護』No.569(2019年5・6月号)

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