ビジネスアイデアを発表する若き起業家たち
この夏ボールダーで一人の興味深い人物と出会った。彼の名はダニエル・エプステイン、「アンリーズナブル(非理性的)」な夢を持った「アンリーズナブル」な人物である。
「Unreasonable Institute(アンリーズナブル・インスティチュート)」という団体の代表であり共同創始者であるダニエルはユニークなプロジェクトを行っている。6つの大陸の17の国から25人のベンチャー企業経営者たちをボールダーに招待し、夏の間、一つ屋根の下で寝食を共にし、トップクラスのメンター(対話による気づきと助言により本人の自発的・自律的な発達を促す指導者)や投資家を呼んで議論を楽しむ。ビジネス版ブートキャンプである。
今年はこのプロジェクトのためにNBCユニバーサルの最高プロデューサーやヒューレッド・パッカードの副社長、ノキアの企画開発部部長など、そうそうたる顔ぶれのメンターたち約40名が全米からボールダーに集結し彼らを指導した。
共同生活で議論やアイデア交換を楽しむ若き起業家たち
メンターと語らう起業家
ダニエルはビジネスを学ぶために生徒としてボールダーへやって来た起業家たちに大望を抱いている。彼は彼自身と彼の生徒たちをしばしば「ミスフィット(社会に馴染めない人)」と表現する。なぜなら、彼らのベンチャー企業は、属する産業界の在り方を根底から変えてしまうほど斬新でユニークなアイデアを持っているからだ。斬新なアイデア故に周囲から理解されにくいが、近い将来、世界に変化が起こったときに初めて未来の世代によって注目されるだろう種類の人たちである。
社名は、19世紀にイギリスで活躍した劇作家ジョージ・バーナード・ショーの有名な格言から「アンリーズナブル(非理性的)」という言葉を拝借した。
彼の非理性的な夢は、社会的、環境的に高いインパクトを与える起業家たちに指導と資本金獲得の場を提供し、彼らの事業を羽ばたかせ、最終的には100万人規模のニーズに応え得るような規模の企業へと成長させることにある。成功すれば星をも掴むことができるかもしれないが、失敗すれば地に落ちて粉々になるかもしれない。そんな極めて非理性的なプロジェクトであるにも関わらず、若き起業家たちのアイデアと理念にダニエルは強い確信を見いだしている。まさにダイヤの原石を探すプロジェクトだ。
先日、ダニエルと彼の愛犬カヤと出かける機会があり、ボールダーのカフェに腰掛けながら、彼が「ミスフィット」と呼ぶ生徒たちについて、そして何故ボールダーでこのプロジェクトを試みようと思ったのか、話を聞いた。
ダニエル・エプステイン氏
ワシントン州のカナダ国境沿いの小さな町でダニエルは生まれ育った。ガソリンスタンドが一つしかなかったその町は「子どもが育つには最適な町だった」とダニエルは言う。「スーパーへ行くと、店内で買い物中のおばあちゃんたちがみんな自分のことを知っている。それは何かとても特別な感じがした」
彼が高校生になった時、家族は大都会のシカゴに引っ越すことになる。裕福な家庭の子弟が通うプライベートスクールに進学したダニエルはクラス一の田舎者ではあったが成績は優秀だった。その学校で彼は教育のユニークなモデルケースを学び、それは後にインスティチュート設立のきっかけになった。「6名だけの小クラスで、授業は主に議論や会話によって進められていた。ヨーロッパの歴史は小説を読むことで学んだし、とにかく私はその学校の教育手法がとても気に入ってしまった」
コロラド大学ボールダー校
愛犬とのベストショットというダニエルさん、インスティチュート前で 高校卒業後、いくつかの大学(ほとんどがアイビーリーグだったが)へ願書を出した。13番目にして最後の願書となったのが州立のコロラド大学ボールダー校だった。多くの大学から合格届をもらう中、ボールダーの町を訪ねてみたダニエルはすぐにコロラド大学への進学を決めた。滞在中話を聞いた地元の人誰もが「地球の楽園」「世界で一番の町」と口を揃えてボールダーの町を描写したそうだ。こんな風に人々に描写される町を他に聞いたことがなかったし、活気に満ちて密度の濃いボールダーの起業家コミュニティが魅力的だった。
「ボールダーは起業家人口の割合がびっくりするほど高いと思う。ある日カフェに入ったら、目の前で8つくらいの企業がまさに誕生する瞬間に出会うなんてこともある」ダニエルはコロラド大学で哲学を専攻し、在学中に起業した。新入生の時に3つの会社を同時にスタートさせたダニエルは「私はいつも自分自身に挑戦している。いつもそれが可能かどうかなんてわからないけど挑戦し続けるんだ」と語る。