養豚農家/ 並木俊幸さん
Profile
1961年千葉県生まれ。県立多古高校農業科畜産部卒業後マリンレジャー事業経営。
2006年、耕畜連携循環型農業を目指し並木農場起業、現在に至る。
有機農家/ 斉藤完一さん
Profile
1951年千葉県生まれ。1987年、大地を守る会に30アールで有機農業始める。1989年、自然派ネットワークに入りすべての耕作面積で有機栽培を本格的に始めた。1993年、(株)生産者連合デコポン設立。
日本の食と農は危機的な状況と言われる。低い食料自給率、高齢化、担い手不足、日本の農業は再生するのか?そんな中、資源なき国の弱さを強さに変える新しい試みが行われていると聞き早速取材してきた。農業の効率化を求めるあまり、化学肥料や農薬に頼る農業、輸入飼料に頼り、排出される畜産ふん尿と格闘する畜産経営。牛で40kg、豚3kg、鶏100g、これはそれぞれ1頭(羽)が1日で食べる飼料の量であり排出されるふん尿の量でもあります。家畜排泄物は畜産農家と耕種農家の連携で有機堆肥として有効に活用されるものであったはずなのだ。
家畜排泄物が地下水や河川の汚染、悪臭、温室効果ガスの排出、 病害虫の発生などを引き起こし、環境問題となって久しい。家畜のふん尿処理は、完熟堆肥となるには4ヶ月程度要し、時間と手間がかかり生産者にとって大きなマイナスコストとなっているのです。千葉県で養豚農家を経営している並木俊幸さんは、家畜ふん尿がお宝になるという逆転の発想に着目し、実用化に向けた試験段階で導入し、2009年6月「農商工等連携事業」にも認定されました。
一方20年間有機農法で野菜をつくっている斉藤完一さん。並木さんの生産した有機肥料を使ってみて、ハエのチカラによる効果に期待しているという。それらの取り組みは、NHKワールドの『NATURE'S WONDER WORKERS』でもご紹介されたようです。山積する問題をハエのチカラで解決する「持続可能な農業」とは…
並木さんが、母豚になるよう育てている豚は広いスペースでのびのびと育ち、人なつっこい
ズーコンポストを導入した「なみきバイオマスファーム」 4年前、千葉県山武市に養豚農家として独立した並木さんは、母豚にするための豚を約1000頭飼育している。日量3トンにもなるというその排泄物、一般的な処理方法は、プールのようなコンクリートの堆肥舎にふん尿を溜め、適宜機械で撹拌させながら微生物の作用で4〜5ヶ月かけて堆肥化するという。それだけの期間がかかれば広いスペースが必要となり、切り返すための膨大な労力、並木さんにとって養豚経営の大きな足かせとなっていました。
そんなある日、ハエの幼虫が家畜ふん尿をわずか1週間で処理する「ズーコンポスト」の話を聞き、当時は実用化に向けた試験段階であったにもかかわらず導入を即断した並木さんは、「堆肥舎でウジ虫が湧いたところだけふん尿がサラサラになるのを見ていましたから、これならいけるという確信がありました」と振り返ります。問題を解決するための、並木さんの選択がハエの幼虫だったのです。
実はそのシステムは、宇宙船内の排泄物処理と宇宙飛行士用食料への転換という発想から研究開発された技術で特殊なイエバエを使って家畜のふん尿を再資源化するシステムです。並木さんによれば、イエバエ幼虫の効用は単にふん尿処理の省スペース化、スピードアップだけでなく、従来の方法に比べ、悪臭や二酸化炭素、その20倍もの温室効果があるというメタンなどの発生が著しく減少し、環境にやさしい養豚が可能になるという。
家畜ふん尿にイエバエの卵を振りかけコンポスト内へ 害虫と思われているハエは、実は人間社会に多大なる貢献をする可能性が高いというのです。ハエを利用したその「ズーコンポスト」システムでは、次の5つの利益をもたらすそうです。
1.迅速で簡単、2.環境にやさしい、3.有益、4.健康な作物の生産、5.飼料を生産。
今まで悩みの種であった蓄ふんから、有機肥料のみならず飼料まで生産できるというズーコンポストシステム。
「まず、家畜のふん尿にイエバエの卵を振りかけ、卵からふ化した幼虫が最も活動しやすい室温25度に保ちます。4日目には処理を終えた幼虫が自然に出てきます」と並木さん。次のページで詳しくご紹介します。