Vol.1 ジュートバッグに賭ける夢
社会貢献と環境への取り組みをワンセットに
Mother House 代表 山口絵理子
Profile
小学校時代、いじめられて登校拒否。中学校時代、小学校時代の反発で非行に走る。
大宮工業高等学校:全日本女子柔道ジュニアオリンピックカップ-48kg以下級7位。
慶應義塾大学総合政策学部:卒業制作SFCアワード受賞。
バングラデシュBRAC大学院開発学部:初めての日本人生徒、2年間首席。
現在:(株式会社申請中)マザーハウス代表取締役。
夢&信念:“ビジネスを通じた国際貢献を形にする”をモットーに途上国で最高の商品を企画・生産し、それを先進国のお客様にお届けします。ただただ欲しいモノを欲しいだけ買う社会ではなく、モノの背景にあるストーリーを感じながらお買い物ができる社会がくれば貧富の格差は自然と縮まるはずだと信じています。5年後の目標は、世界中の発展途上国から集めた商品群が並ぶ総合デパートメントストアに発展させること。
大学4年の春、駄目で元々と思って応募した国際機関のインターンに選ばれた。
憧れだったワシントン。数ヶ国語を使い分けてバリバリ活躍する世界各国の優秀な方達。「わぁーすごいなぁー、かっこいいなぁ。」
私は学生の身分なので出来る仕事の内容も限られていたが、戦略計画・予算部という何やらすごい名前の部署に配属された。2004年度の銀行全体の予算文書を作成するお手伝い、それが私の仕事だった。数百ある部署がそれぞれ次年度のプロジェクト計画を上げ、それに基づいて予算部にどれくらいの資金が必要なのか報告する。予算部はそれを銀行全体の予算の枠内で収めるように交渉し、文書にしてゆく。
パソコンのエクセルファイルと格闘していたある日、何度やっても合計金額が計算と合わないことがあった。
「ボス‐、これ見てください。2ドルくらいどうしても計算と合わないんです。」
「Don’t mind ! Ok! Ok!」(気にしないでオッケーよ) 私はものすごい違和感を持った。
莫大な金額を扱う国際機関にしてみたら2ドルなんてちっぽけな話かも知れないが、世界には一日1ドル以下で生活をしている人たちが12億人もいる。
このワシントンの立派な建物は途上国の現実とあまりにも離れたところに建っている気がした。
私は勤務期間を終えて日本へ帰国する予定だったが、1日1ドル以下で生活する人々が人口の44.7%も存在する貧しい国の一つ、バングラデシュへとチケットを変更した。
ダッカスラム。竹とごみ同然の生地などを繕いテント暮らし
空港に着くなり異様な臭いにビックリ。そして取り囲む物乞いの群衆、手足の無い人々、泣き叫ぶ裸ん坊の赤ちゃん・・・・。
「こんな世界があるなんて・・・・。」
今まで生きてきた世界があまりにも狭くて、小さなものであること、そして自分が信じられないほどに幸運な星の下に生まれたんだと体中で実感した。
「私でもできることはないかな・・・。」それを見つけたくて大学を卒業してすぐに、両親や友人に計り知れない心配をかけて、バングラデシュの大学院に進学した。
身寄りもない一人ぼっちのアパート探しから始まり、毎月起こるストライキ、誕生日に起きた爆弾テロ事件、3300万人が被害にあった大洪水、正直何度も「日本に帰りたい」と思った。
最初の一ヶ月は不安で全く眠れなかった。
人一倍怖がりの私は、学校から帰宅する時は催涙スプレーを握りしめていた。
大学院の受験日にはいきなり停電になり、テスト用紙が見えずに時間だけ過ぎていった。「懐中電灯を貸してください。」「そんなのない。慣れろ。」と言われた。
友人が手紙を送ってくれたのにいつになっても届かないので郵便局に行った。「私宛の手紙ありますか?」「ああ、あるある。日本人だからたくさんくれよ。」と多額の賄賂を要求された。断った日から日本からの荷物は一切届かなかった。
バングラデシュに滞在した2年間で実感したことは、援助や寄付が必ずしも求める人々の手に届かない現実だった。そんな中で、「もっと健全で、見える形で、持続的な新しい協力の仕方があれば・・」と考えるようになった。