第17回　シンガーソングライター ／ 松田陽子さん
人は戸惑う　この世に生きて

“うつ”から抜け出すきっかけは・・・

どのような経緯でうつ病を克服されたのですか。BOROさんとも親好が深いと伺っておりますが？（BORO：シンガーソングライター『大阪で生まれた女』が大ヒット）

　そんな寝たきりな状態の中、抗うつ剤・精神安定剤・睡眠薬などを服用し、たまたま調子が悪くない時にふらっと出掛け、まるで導かれるように入った映画館。アンジェリーナ・ジョリー主演『すべては愛のために』というUNHCR国連難民機関を題材にした映画でした。

　衝撃的な難民たちの現状。水一滴すら飲めず、母親の腕の中でガリガリにやせ細って亡くなる赤ちゃん。地雷を踏み手足を失う人々。目の前で家族が次々と八つ裂きにされ、自分だけが生き残り記憶が消せない子どもたち。 　涙が滝のように流れ、体中に電流が走ったように私は感じました。「死んだらあかん。私は今、なんにもない。ガン患者で、無職で、うつ病で、寝たきりやけど、今、まだ死んだらあかん。きっと、少しでも元気になったら、このUNHCRのために何かできるかもしれん…」真っ暗な中に、微かな光が見えた気がしたんです。

　うつ病・パニック症・対人恐怖症などいろいろな症状に悩まされ、人前に出るのも困難な状態のとき、セミナーでBOROさんと出会ったのです。BOROさんと奥さんは、泣き崩れる私も、怒りをあらわにする私も、引きこもり動けない私も、いつもいつも優しく「今のままの陽子でいいよ。陽子だから生きてここまでこれたんだよ」と抱きしめてくれました。二人はまるで私の親のような存在です。深い安心感に包まれた私は、自分の存在に気づき、人としての表情を取り戻しました。
　薬を飲み続けている間、自分の感覚では何十年も過ぎた気がしたくらい、暗く深い孤独に落ちていたんです。その後、少しずつ普通の生活に戻れるようになり、まだ30代の自分が嬉しくて嬉しくて、心ひとつでどんな人生をも手に入れることができることを、BORO夫妻から学んだんです。

　昔、叔母がビクターからデビューし、その前座で５歳から歌わせてもらっていました。歌詞は小さい頃から書いていましたが、作曲が出来ずに悩んでいたんです。
　ガンの手術後、生存率50％と医者から告げられたとき、ふっと頭をよぎったんです「私は今までの人生、自分自分と生きていたかもしれない。これからの人生、もしガンが再発せずに生かさせてもらったら、このオプションの命を誰かのため、何かのために使ってみよう」そう思ったとき、病棟のテレビに映る戦争のシーンを見て、突然、曲が頭に浮かんできたんです。初めて作曲が出来た瞬間でした。

UNHCR国連難民機関の活動は、生きる力を・・・

UNHCRのために作った曲とは？

初めてのCDアルバム『生命〜いのち〜』 　2007年の12月20日大阪で、第１回松田陽子チャリティーライブを開催しました。「self」というボランティア団体を作り、本当に全部手作りでみんなと難民やUNHCRの勉強会をし、時には戦争という悲惨な現状を知って涙しながらミーティングをしました。
　そんな中、15年前（フランス留学をしていた頃）からのフランスでの友人であるレーシングドライバー片山右京さんも賛同し、たくさんの友人・企業が協力してくれて、いきなり第１回目から、難民のための寄付金が151万円とびっくりする金額になりました。
　その時に、UNHCRのために作った曲『生命〜いのち〜』が出来ました。この曲が国連まで届き、今年の６月21日世界難民の日シンポジウムのパーティで歌わせていただきました。たった半年足らずで、すごい出世ですよね（笑）。

2008年世界難民の日シンポジウムパーティー国連大学にて歌う。UNHCRユース（学生ボランティア団体）と共に 　UNHCRの前代表は、「私がなぜUNHCRの活動をしたいのか」の理由を説明すると、涙を流して「松田陽子さん、一緒にがんばって行きましょう」と強い握手をしてくれました。
　８月７日の神宮外苑花火大会で軟式球場２万5千人の前で歌わせていただき、その際に、UNHCRの募金ブースまで作ってくださいました。まさに４年前、「今、死んだらあかん！元気になったらきっと、UNHCRのために何か出来るかもしれん…」と涙しながら決意したことが、そのとおりになりました。
　UNHCRを通して、たくさんのスタッフの方々、UNHCRユース（学生団体）の皆さんなど、素敵な出会いと感動をいただいて、「やっぱりUNHCRは、私に生きる力を注いでくれているんだ！」と確信しました。