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[最終回]Vol.186この連載に対しては、本当に感謝しかない、という感じです。

  • 2017年5月30日

みなさん、こんにちは。ゴスペラーズの北山陽一です。

前回、「いろんなことをもう一度やり直している感覚がある」と書きましたが、そのなかで感じているのは自分のOS(オペレーションシステム)、つまり考え方の根本の基準はだいぶ変わったけれども、それ以外のことはあまり変わっていないかなということですね。例えば僕は、自分が好きなものを通じて社会が良くなるような貢献をしたいという気持ちがあるわけで、そこは変わっていないんですが、そういう感覚を僕にもたらせてくれたのは他でもないこの連載だったと思うし、“これ、なんだろう?”と思ったことを実際に出かけて取材するなんていうことは、この連載なくして僕のなかに定着することはなかったと思うんです。だから、休んでいる間も“あそこに行ってみたい”とか“この人と話してみたい”とか“これについて、ちょっと掘り下げてみたい”といったことが溜まっていました。さらにはハーモニーの研究ということをやりたいという気持ちもあるんです。
それに、思いつきでつけたわりには(笑)、「ぼんやり学会」という名前もすごく気に入っているので、じつはこの連載という形は今回で終わりになってしまいますが、ある意味ではライフワークのようなものにしたいなという気がしています。この連載はじつに8年もやっていたそうで、8年と聞くと“長いなあ”と思いますが、その間にいろんな人とつながって、SNSのこの時代にはその後のようすも追っかけられるから、いろんなことがいろんなふうにつながっていくし、僕のなかで日増しに強くなっている自分の生活が成り立っていることのベースにあるものをしっかり調べたいという気持ちの、その大元を作ってくれたのがこの連載であることは間違いないので、そこはもう本当に感謝しかないですね。
ちなみに、ハーモニーの研究については、自分のなかでもう少し煮詰めてちゃんと企画書の形にできれば、ゴスペラーズのメンバーにもちゃんと相談しようと思ってるんですけど、それは自分のなかにある仮説があって、それを実証するための研究をやり続けられれば、単に音楽のトレーニングをするということの意味合いを変えるだけじゃなく、ハーモニーとかアンサンブルということに対する感覚を変えられるような、そういう研究になると思ってるんです。だから、その成果を学校の先生にお伝えするだけでいろんなことがだいぶ変わると思うんですよね。そして、それは例えば、ひとつのコミュニティの取り組みからそれに関わる全体を変えていく、というようなことにつながるかなとも思っています。

さて、いよいよこの連載では最後の話になりますが、それはタイトルにもある“ぼんやり”ということについてです。僕自身は、どちらかと言えば、何事もはっきりしないと、あるいははっきりさせないと気が済まないタイプだったんですけど、でもそういう傾向が僕以上に強い人達をみていると、やっぱり嫌だなと思うところがあったんですよ。例えば「エコが大事だ!エコが大事だ!」と言ってる人は目が三角になってる人が多いから、もっとぼんやりしたところから始めようよ、ということでこの連載も始まったわけですが、それは自分に向けて言ってるところもあったなと思うんです。で、相変わらず“ぼんやりしなきゃな”と思います。はっきりと何かを提示することはもちろん大事だし、この連載で取り上げてきたことはちゃんとした立場がある事柄がほとんどですよね。で、どの立場にも言い分があるし、問題ごとに僕の立場は明確にあるんですが、そのことを表明するのは別の場でやればいいと思っていて、ここでは「こういう立場もあるし、こういう立場もあるんだって」という伝え方を敢えてずっと続けてきました。それは、ぼんやりと「こういう立場もあるんだって」ということで、「それはどういうことだろう?」と身を乗り出してくれるといいなという気持ちだったんですよね。
元々、僕は目が悪くて、メガネやコンタクトをはずすと、本当に世界はぼんやりしていて、ぼんやりしてるとハモりにくいとか、弊害はもちろんありますが、でもぼんやりしてるからこそ集中しないでフワっとしていられるというところもあるんですよ。で、そういう状態のときには、僕の場合は子供の頃に戻れる感覚になって、“なんで雨は降ってくるんだろう?”みたいな素朴な疑問に気持ちを向けられたりするんですけど、その疑問をぼんやりしたまま追求できたらいいなと思うんです。

あっ、それからもうひとつ。この時期にはいつもニューカマーに向けて僕なりの考えを伝えてきましたが、いま思うのは「自分がいちばん遠くにおいた目標を思い出してほしい」ということです。というのは、例えば将来の夢として「医者になりたい」とか「サッカー選手になりたい」と思って、そのために目の前の目標として学校の試験をがんばるとか毎日リフティングの練習を続けるということをクリアしていき、そうすると次の目標が生まれて、それをクリアするために何か努力して、ということになるんだけど、そういうことを繰り返していく間に、道がズレていってるように感じてる人もいると思うんですよ。この春にも、何かを諦めて新しいスタートをきった人がいると思います。で、いま見てる方向は、最初に設定した目標から考えると全然違う方向を見てるように感じてるかもしれないけれども、でも例えば目的地と逆の方向にクルマを走らせて、入り組んだ乗り口から高速に入ることで、結果として普通道路でいくよりも早く目的地に着くということがありますよね。だから、いま身の回りのごちゃごちゃしたことのために何かを諦めたことで目標から遠のいてしまったように感じている人も、“いちばん遠いところにある目標はなんだったっけ?”と考えると、いま目の前にある問題をポジティブに乗り越えていける道が見えてくるんじゃないかと思います。

というわけで、長きのご愛読、本当にありがとうございました。ここでの連載は今回で終了ということになりますが、僕の「ぼんやり学会」はまだまだ続きます。また、どこかでお会いしましょう。

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