サイト内
ウェブ

「このコンテンツは、FoE Japan発行の『green earth』と提携して情報をお送りしています。

Vol.10 福島原発事故の被害はいま

  • 2015年11月5日

帰るに帰れない住民の苦境

 伊達市小国地区の特定避難勧奨地点は、2012年12月に解除されましたが、このときは説明会すら開かれませんでした。ある避難者は、「解除をニュースで知った」「たった1回の測定で解除された。帰るに帰れない私たちの置かれている状況を無視し、こんなに軽々しく解除をきめたのかと思うと涙も出ない」と憤りました。

 現在までに避難指示が解除された田村市都路地区と川内村では、住民説明会の場で多くの住民が、解除は反対、あるいは時期尚早と意見表明したのにもかかわらず、解除が強行されてしまいました。解除後、完全に自宅に戻った住民は一部にとどまります。南相馬の場合は、解除後に帰還した住民は一世帯のみと報道されています。

 帰還できない理由は放射線への不安以外にもさまざまです。生業が失われたこと、若者が離散したこと、医療機関の閉鎖など、原発事故により失われた地域のコミュニティを修復することの難しさを示しています。

「100ミリシーベルト以下安全論」のウソ

 避難指示解除における説明会で、政府は、「100ミリシーベルト以下の被ばくで、健康に影響があるという研究がない」と繰り返しています。

 しかし、これは誤りです。

 近年、多くの有力な研究論文が低線量被ばくにおける健康リスクの増大を示しています。たとえば、2015年6月21日ランセット「血液学」誌に掲載された「放射線モニタリングを受けた作業者における電離放射線と白血病およびリンパ腫の死亡リスク:国際コホート研究」では、フランス・イギリス・アメリカにおける原子力産業作業者308,297人の作業者を対象に追跡調査し、低線量被ばくと白血病との関連性について有力な証拠を提供しています。また、15ヶ国60万人の原子力労働者を対象とした調査で、年平均2ミリシーベルトの被ばくをした原子力労働者にガンによる死亡率が高いことが判明しています。もし政府がこれらの研究結果を採用しないというのであれば、政府はその根拠を示すべきでしょう。

子どもの甲状腺がんは100人以上

 5月18日に発表された福島県県民健康調査で、甲状腺がん悪性と診断された子どもは、悪性疑いも含め126人になりました(うち確定が103人)。この中には、1巡目の検査で、問題なしとされた子どもたち15人が含まれています。

 政府は、チェルノブイリ原発事故と比較して福島原発事故による被ばく量は少なかったことなどを根拠に、「事故との因果関係は考えにくい」としていますが、政府が引用するUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)報告書のデータをみても、「チェルノブイリ原発事故と比較して福島原発事故による被ばく量は少なかった」とはいえません。さらに甲状腺がん以外の健康リスクには、政府は把握すらしようとしていません。

 放射線による健康影響は小さいとし、リスク・コミュニケーションの名を借りた「不安」対策にのみ予算を投入する政府のやり方は、かえって住民の不安・不信を募らせ、被災者を心理的に追い詰める結果を生んでいます。また、放射線の影響についてしっかりと議論できない不健全な状況を生み出しています。

今後に向けて

住宅支援の継続を求める記者会見
住宅支援の継続を求める記者会見
 福島原発事故は収束していません。廃炉作業は長く、多くの危険を伴う厳しいものです。たくさんの作業員が被ばくしながら、こうした作業に従事している状況です。一方で、政府は作業員の被ばく限度を、100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに引き上げました。

 こうした被ばくを軽視する政府の政策は、科学的な根拠に基づくものではなく、「放射性被ばくによる健康影響がたとえ生じても、因果関係の立証は困難で、立証できたとしても時間がかかる」ことを見越した、その場しのぎのものです。

 FoE Japanは多くの被害者と、心ある市民・専門家とつながりながら、原発事故被害者の権利の確立のために取り組みを進めていきます。(満田夏花)

(『green earth』vol.55 2015 summerより抜粋)

キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。