オリンピックと復興の掛け声の中、東京電力福島第一原発事故による避難指示解除を進め、支援や賠償を打ち切り、被害をあたかも「なかったこと」にするかのような動きが進んでいます。政府は「居住制限区域」「避難指示解除準備区域」を、遅くとも2017年3月までに解除する方針を決定しました。
また、福島県や国は自主的避難者に対する借り上げ住宅制度による無償住宅供与を2017年3月に打ち切る方針をも打ち出しています。
このような政策は、避難の実態や住民の意思、被ばくリスクを無視したもので、支援や賠償の打ち切りは実質的には帰還の強要につながります。
避難者のいのち綱を切る住宅支援の打ち切り
「原発事故で故郷を追われ、避難先で必死で自立しようとしている私たちの命綱を切るのですか?」
FoE Japanの呼びかけで5月20日急遽開催された院内集会。福島県から埼玉に避難したある母親は声をふるわせました。
「住む場所がなくなるかもしれないのに、“自立”できるわけがない」
「国や県は、私たちの意思を無視して、無理やり帰還させようとしている」
参加したさまざまな避難者から、怒りと絶望の声があがりました。
福島県による調査によれば、応急仮設住宅を利用している避難者は全体の59.2%に上り、応急仮設住宅の入居期間延長を求める意見は、全体の48.7%をしめています(図1)。
図1 避難者の意向調査:住宅に関する要望
(出典:平成27年4月27日「福島県避難者意向調査 調査結果」)
FoE Japanは、住宅支援を継続させるため、記者会見、署名、国や福島県への要請や働きかけなどを行ってきました。しかし方針は覆らず、福島県は自主避難者について、住宅支援を2017年3月で打ち切る方針を固めました。国もこれに追随する姿勢です。
帰還促進政策
自主的避難者だけの問題ではありません。福島からの避難者はいまだに12万人以上います。復興庁の住民の帰還に関する意向調査によれば、多くの住民が「戻らない」、「まだ判断がつかない」としています(図2)。
図2 帰還に関する避難者の意識
(出典:平成27年3月10日復興庁「復興4年間の現状と課題」p.6)
※青部分は「戻りたい」、黒部分は「無回答」の方の割合です。
それにもかかわらず、6月12日、政府は「居住制限区域」「避難指示解除準備区域」を、遅くとも2017年3月までに解除する方針を決定しました(図3)。対象地区の住民への慰謝料の支払いは2018年3月で一律終了する方針です。
図3 現在の避難区域(2015年7月現在)
避難指示解除を違法として国を提訴した南相馬の原告たち 2014年12月に特定避難勧奨地点が解除となった南相馬市の場合、説明会で発言した住民全員が解除反対を表明しました。住民たちは、「除染しても市内の避難区域より線量が高い」「再除染してから解除すべきだ」「年間1ミリシーベルト以下でないと解除に反対」など口々に発言。しかし、高木経済産業副大臣は、「積算線量20ミリシーベルトを下回っており、健康への影響は考えられない」と述べ、政府は12月28日に解除を通知したのです。
南相馬の住民たちは、今年4月17日、国を相手どり、解除の取り消しを求め、東京地裁に提訴しました。(満田夏花)