このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。
認証パーム油の最新動向として、日本だけではなく、海外の企業が今、どのような取り組みをしているのかということをお話しします。
今から1年ぐらい前に、ネスレという世界的に大きな食品会社が、国際的なNGO、グリーンピースから批判を受けました。「KitKat」というお菓子の原料に使われているパーム油がどうやらインドネシアの熱帯雨林を破壊して作ったプランテーションから来ていることがわかったからです。ネスレはパーム油を直接作っているのではなく、KitKatを作る途中、いくつかの調達先を通して、最終的にできた製品にそれが入っていた。そういう意味で、間接的にネスレは責任があるんじゃないか。また、私たちもKitKatを食べるということは、熱帯林を破壊し、オランウータンという絶滅が危惧されている野生動物のすみかをさらに小さくしてしまうことに加担しているんじゃないか。そういうことを消費者に訴えかけました。
グリーンピースが製作して、インターネットで公開したビデオがあります。お菓子をつくる原料のためにインドネシアの熱帯雨林が破壊されている現状を衝撃的な形で映像にしたものです。2ヵ月間で世界150万人以上に見られたそうです。海外では非常に大きな反応があり、何と30万通ものEメールがネスレ本社に届いたそうです。
消費者から猛烈な抗議を受け、ネスレは、まず、問題のあるプランテーションからのパーム油の購入をすぐに中止し、調達方針を作り、きちんとした持続可能なパーム油を買うように切り替えていくという宣言をしました。
消費者も、このような現実を知らされると黙っていられません。企業に対して声を上げ、それが企業を変えた具体的な例だと思います。
実は、ネスレ以外でも以前からこの問題に気づいて、動いている企業はたくさんあります。そのため持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)によって認証パーム油の仕組みが作られました。欧州にはすでに認証パーム油を使うと宣言している企業がたくさんあります。
WWFの調査(表)では、2009年暮れの段階で、すでに20社以上の企業が「自分たちが使うパーム油は持続可能なものに切り替えます」と宣言しています。非常に影響力のある大きなメーカーや小売チェーンがすでに方針を発表しているのです。
順位 | 企業名 | 国 | 業種 | 合計点 (最高29) |
パームインデックス※ |
1 | セインズベリー | 英国 | 小売 | 29 | 3 |
2 | マークス&スペンサー | 英国 | 小売 | 25.5 | 3 |
3 | ミグロス | スイス | 小売 | 25 | 3 |
5 | ユニリーバー | 英国/オランダ | 食品・家庭用品等 | 24.5 | 3 |
6 | キャドバリー | 英国 | 食品 | 24 | 3 |
7 | ボディ・ショップ | 英国/フランス | 化粧品等 | 22.5 | 3 |
9 | ロレアル | フランス | 化粧品等 | 21.5 | 3 |
10 | コープスイス | スイス | 小売 | 21 | 3 |
15 | カルフール | フランス | 小売 | 16 | 2 |
26 | イケア | スウェーデン | 小売 | 10 | 2 |
31 | ネスレ | スイス | 食品 | 8.75 | 2 |
RSPOには日本の企業が11社ぐらい加盟しています。一方、製品はというと、認証されたパーム油を使った製品としては、サラヤが「neo」という洗濯洗剤を出しています。花王も、2015年までに原料を切り替えていくと発表しています。
先ほどのKitKatで使われていたパーム油には認証原料がかなり出回っています。ところが、洗剤などに使うパーム核油は、供給がやっと始まったばかりで非常に量が少ない。ですから、花王もやや慎重ですし、サラヤは核油ではなくパーム油を使った製品です。日本でもようやく先進企業が動き始めたのです。
昨年、生物多様性条約COP10が名古屋で開かれ、大きな成果をあげました。その中で、愛知ターゲットの項目4に注目したいと思います。項目4では、これから企業は持続可能な生産、持続可能な消費をしなければいけない。つまり、持続可能なビジネスをしなければいけないとうたわれています。
それでは、何が持続可能なビジネスなのか? 持続可能なビジネスのためには、やはり持続可能な資源を確保することが必要です。持続可能なパーム油を使う、それで製品をつくるというのは、まさにこれから企業が2020年に向けてなすべきこと、生物多様性条約などで合意されたゴールにも直結する問題です。ところが、多くの企業はまだそれに対する道のりが描けていないというのが懸念するところです。
さて、最初に紹介したグリーンピースのキャンペーンは、インドネシアのシナルマスグループのパーム油が問題でした。これは1年前のことでしたが、つい先日、シナルマスのパーム油部門が新しい方針を発表しました。これ以上貴重な森林の開発はしません、生物多様性の豊かな、保存価値の高い森林への開発は一切しません、泥炭地の開発はしません。一方、先住民や地域住民の生活を考えることを優先しますという方針を発表したのです。
このように、この1年間で大きく状況が変わっています。これから先、さまざまなステークホルダーが一緒になって、日本でもこういった問題を早急に解決していく。それを今、実行する時期が来ているのだと思います。
(グローバルネット:2011年4月号より)