このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。
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日本の失業率は5%、大学を卒業したけれど内定をもらえない人が30%以上います。障害を持っている人や高齢者、難病患者、刑務所から出てきた人たち、それからニートや引きこもりの若者など、ハンディキャップを持っている人はよりいっそう厳しくなっています。このような人たち、適切な仕事を得られない人は最低でも2,000万人くらいいると思います。
ハンディを持った人たちにとって、働くということは収入を得る、経済的に自立するという目的ももちろんありますが、人から感謝される、満足感、自尊心が得られるほか、人間として成長していく、また規則正しい生活で健康が維持できる、何よりも重要なのは、社会とのつながりができるということではないでしょうか。働くことによって人とのつながりができる。日本は今、たくさんの問題を抱えていますが、それらの問題というのは、社会とのつながりがなくなったために、生じたのではないでしょうか。
ソーシャル・インクルージョン(社会的包摂)の必要性をもっと強調していかないといけないのですが、それに一番役立つのは仕事なのです。ソーシャル・エンタープライズ=社会的企業がもっと増える必要があります。
社会的な目的を有しているが、税金をあてにしない、ビジネス的な手法で運営されるのが社会的企業ですが、その一つがソーシャル・ファームです。ソーシャル・ファームで何よりも重要なのは、当事者が一般の健常者と一緒に働く。つまり、障害者だけ、刑務所からの出所者だけが働くのではなくて、当事者と一般の人とが一緒になって働く。ここにソーシャル・ファームの特色があります。
愛媛県・愛南町に御荘病院という精神病院があります。患者さんと住民が一緒になって、アボカドの栽培を始めたり、レストラン経営をしたりしています。
4年前から、日本にもソーシャル・ファームを2,000社作る活動をやってきました。徐々にこの活動が浸透してきたと思います。ソーシャル・ファームは各市町村に最低1ヵ所。この1ヵ所が積み上がってくれば2,000社になるわけです。
ソーシャル・ファームは民間のビジネス的手法で経営し、民間企業と競争しなければいけないということです。製品の質、価格面で民間企業に劣ってはいけないわけです。
私が今日持っているカバンは、エルメスでもルイ・ヴィトンでもありません。大阪市の一流のカバンメーカーが、ソーシャル・ファームを作ろうと始めたもので、フランスにも輸出され、銀座でも売っています。エコ・レザーといって、重金属を使わず、柿の渋を使っています。これを障害者の仕事づくりとして進めていこうと思っています。投資額は大変多くて10〜20億円になろうかと思います。
これからソーシャル・ファームを発展させるためには何よりも商品・サービスの開発が重要です。「三人寄れば文殊の知恵」、いろいろな人が集まって、まず考えてみる。これが大変有効です。ソーシャル・ファームを作るにはどうしたらいいか、地域でサロンを作るというのも大変有効な方法だと思います。また、企業と戦わないといけませんので、企業が苦手なもの、例えばニッチな分野。労働集約的な分野を逆にやる。
それから、商品はデザインも重要です。そして販売力。ソーシャル・ファームのネットワークを作り、できれば、アンテナショップを開き、商品の共通カタログを作ったらどうか。さらには、ソーシャル・ファームブランドを日本において確立したいと思っています。
誰もが悩むのは経営資金です。福祉関係者の一つの癖ですけれども、国がお金を用意してくれるならやる、法律を作ってくれるのだったらソーシャル・ファームをやってもいい。日本の福祉関係者の大体の習慣です。ソーシャル・ファームは、公の金があるからやるという精神ではありません。
住民の方々の協力の仕方はいろいろあると思います。お金を出してもらうのもありがたい。一緒に働いてくれるのもありがたい。消費者としてものを買ってくれる。それで十分なわけです。
新しいこれからの国家のあり方にソーシャル・ファームが関係してくると思っています。人間としての生き方、新しい生き方を示すものだと思っています。障害者をはじめ、何らかの理由で働きづらい人が日本に2,000万人以上います。そのような人が人間として生きるための新しい働き方を示す。これに住民が一緒に参加することによって、新しい日本の社会のあり方を提示するものだと思っています。
今、政府によって税と社会保障制度の改革が検討されています。これからの新しい福祉国家というのは、ソーシャル・ファームをいかに組み込むか、新しい国家像にも関係してくるのではないかと思っています。
(グローバルネット:2011年3月号より)