サイト内
ウェブ

このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第88回 社会福祉施設等における環境への取り組み

  • 2011年5月12日

第88回 特集/環境と福祉が手をつなぐソーシャルファーム 社会福祉施設等における環境への取り組み 社会福祉施設等の環境の取り組みに関する研究会委員長、恩賜財団済生会理事長、地球・人間環境フォーラム理事長 炭谷 茂さん

無断転載禁じます

福祉施設が取り組む環境保全事業の先進例

 今年の夏は非常に暑い日が続きました。地球温暖化との関係は否定しきれないと思います。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の予測では、21世紀末に気温が最大6.4℃上昇するともいわれています。日本政府は2020年までに1990年に比べて25%の二酸化炭素(CO2)を削減しようと取り組んでいます。これにはすべての国民が取り組まなければいけません。

 社会福祉施設、特別養護老人ホームでこの温室効果ガスの削減の試みをしているでしょうか。病院では事務所に比べて2.5倍の光熱水を使っているといわれていますが、社会福祉施設も同様ではないかと感じています。
  そうした問題意識で7月に「社会福祉施設等における環境の取り組み研究会」を発足させました。調べてみると、率先して取り組んでいる所がたくさんあり、先進的な事例を広く紹介したいと思いました。福祉の関係者が環境の取り組みをすれば、大きな力になると考えるのです。

 具体的にどのような取り組みが始まっているのかを紹介します。知的障害者が古本販売の作業をしている弘済学園。大阪市の釜ヶ崎では、市内の放置自転車を市から譲り受け、部品を再利用して新品同様の自転車に作り変えています。釜ヶ崎にはホームレスや簡易宿泊所に居住している人がいますが、手に職を持っている人が多く、その技術が生かされています。徳島市の太陽と緑の会は、難病の患者と障害者が、不要品として出された衣類や家財道具を仕入れて販売しています。

 愛知県西尾市のくるみ会では、地域企業から出る食品廃棄物をたい肥化しています。理事長の榊原豊子さんは養護学校の先生でしたが、知的障害のある子供に社会とのつながりをつけたいと、早期退職して知的障害者の授産施設をつくりました。市内にある大企業の社員食堂から出るごみの処理を請け負いました。たい肥は、近所の農家が競うように買っています。

 岡山県玉野市の知的障害者更正施設のぞみ園では、廃棄電池の回収、竹の炭や竹酢液の生産をしています。今年2月には、粟、稗などの雑穀づくりを始めました。健康ブームで商売になり得ると、周りの遊休農地を利用して近所の農家に指導を仰いで取り組んでいます。北海道新得町にある共働学舎はチーズ生産をしています。宮嶋望という私の友人が30年前から経営していますが、体の不自由な人、不登校だった人など70人が共同生活しています。共同生活をする以上、お金を稼がなくてはならない。そこで始めたのが、できるだけ自然に素直なチーズ作りでした。今では世界にも誇れるチーズが作られ、2年前の洞爺湖サミットにも提供されました。

 私が理事長を務める恩賜財団済世会の山形県済世会ながまち荘特別養護老人ホームでは、園芸療法を取り入れることで体だけでなく、社会とのつながりの中で生きがいを感じるお年寄りが増えています。

環境と福祉が作る第三の職場ソーシャルファーム

 福祉施設が環境事業に取り組むことで、双方にとってどのような効果があるのでしょう。環境に対する効果ですが、すべての社会福祉施設または社会福祉に関係する事業者がCO2の削減やごみの減量、再利用を試みると、日本の温室効果ガスは莫大な数値で削減できると思います。まだ、日本ではこのような計算が行われていませんが、今後目標削減量を定めて達成できたらと考えます。

 二つ目は、社会福祉関係者の環境に対する意識向上です。三つ目に利用者の心身の向上、これは大きいです。1998年の文部省(当時)の委託調査によると、全国1万1,000人の小中学生を対象に調べたところ、自然との触れ合いの多い子供は、心身ともに健やかに育っています。それに対し、部屋に閉じこもってテレビゲームやインターネットばかりしている子供は心に歪みが生じ、いじめたりいじめられたり、不登校になったりしています。自然環境は子供の心身の成長にプラスなのです。山形県のながまち荘ではお年寄りに園芸療法を試みて、やはり心身の健康維持に大きな効果を上げています。

 そして最後に、仕事の創出に役立つということです。福祉関係の皆さん共通の大きな悩みが「いい仕事がない」「働いてもいい手当てがもらえない」「手当てが払えない」といった職場の問題です。

 障害者の第一の職場として、日本には公的な場所があります。いわゆる授産施設や小規模作業所、福祉工場といった税金が投入されているところです。第二の職場は一般の民間企業です。従業員56人以上の企業は全社員の1.8%にあたる障害者を雇用しなければならないのですが、実際は平均1.6%です。この数字をもっと伸ばさなければならないのですが、それだけを待っていてはなかなか成果が上がりません。

 そこで私は、第三の職場として社会的企業が必要だと思います。第一の職場のように、障害者や高齢者、難病患者、ひきこもりをしている人やその家族などのために仕事場をつくるという社会的使命を持っている。そして、第二の職場のようにビジネス的手法でやる。二者のハイブリッド型の職場のことです。そうした社会的企業の中でも、私はソーシャルファームの増加を提言しています。

 ソーシャルファームの要素は、社会的な目的、ビジネス的手法、やりがいのある仕事、住民の参加、そして何よりも障害者やその当事者の就労の場になっているということです(図)。実はヨーロッパにはすでに1万社以上あります。ならば人口が5分の1の日本には2,000社作ろうと、私は4年前から呼びかけてきました。たくさんの人が呼応してくれています。

「緑のコンビナート」の概要
(作成=ポンプワークショップ)

 今日紹介したような環境に沿う仕事は、これからの成長分野で、障害者等にとって働きやすく、取り組みやすい分野でもあります。ですから、環境の仕事をソーシャルファームで行ったらいろいろな効果が期待できると思います。

 実利的な効果もあります。社会福祉施設が、例えば省エネに取り組むとします。光熱水を仮に15%程度削減すると、施設のコストの1%が削減できるのです。社会福祉施設には光熱水の無駄がたくさんあるので、サービスの質を低下させずに実施することが可能です。環境に良いことをしながら1%の剰余金が得られます。

 これらの社会福祉施設における環境の取り組みを向上させるためには、工夫して効果的な取り組みにしなければいけません。何より重要なのは、それぞれの社会福祉法人なり施設において、経済的に成立するということです。

 これらの方法を普及させることも今後の課題です。成功している事例を社会福祉施設の関係者に知ってもらわなければなりません。研究会では、今年度末までにさらに多くの事例を集めて分析し、調査報告書をまとめる予定です。さらにこれをテキストにして広く頒布したいと思っています。また、人材育成も課題です。社会福祉施設の中に一人でも環境についてのエキスパートがいたら、事業が順調に進むので、そういった養成も必要だと思います。

(2010年10月1日東京都内にて)

(グローバルネット:2010年11月号より)


キーワードからさがす

gooIDで新規登録・ログイン

ログインして問題を解くと自然保護ポイントが
たまって環境に貢献できます。