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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第72回 持続可能な地域づくりに求められる自治体マンの元気力(上)

  • 2010年1月14日

市民と行政が一体になって動く発火点づくりは?

小林 結局、組織の中で自分の意見を反映させるのは難しくても、自分のやっていることが正しい、楽しいと思えるかどうかです。同じものを共有できる仲間が職員、議員の中にも増えていけば嬉しいですね。
 飯田市に「地域ぐるみ環境ISO研究会」という組織があります。ちょっとした仕掛けで仲間を増やして、元気にしていくことができるのです。それには、イベントやロゴが必要だろうし、こうしたささいなきっかけが、力になるのではないでしょうか。

村上 環境問題を地域で広めていくためには、行政の力だけではどうしても不足なので、ともに進めていくために環境アドバイザーを養成しました。最初に仲間が10人できまして、いろいろな刺激をもらい、環境のことを考え、純粋に活動している人たちに出会って目が覚めました。何のために仕事をしているのだろうかと、あらためて考えさせられたのです。
 イベントをやっているうちに結束がどんどん強くなっていきました。最初から環境問題解決のために、たくさんのことに取り組めていたかというと、そうではなくて階段を一歩ずつ昇るようにして進んできました。共感してもらう人を増やすために、まず来て楽しいと思ってもらえることをしました。
 あるイベントをやったのですが、800人収容のホールを満杯にするのは、小さな町ではとても大変です。しかし、なんとか環境のことを皆さんに伝えたいと、何ヵ月も前から準備し、手作りでリフォームファッションショーを企画しました。仕事を終えて、子供の送迎も終わって皆さんが集まれるのは夜の9時。そこから縫い始め、いつも終わるのは午前様でした。そんな状態でしたから、イベントが終わって、最後にスタッフの皆さんにお礼の挨拶をする時に、涙が出ましたね。その感動がずっと忘れられなくてやっているのかもしれません。あの感動は絶対お金では買えないのです。

編集部 環境アドバイザーの育成を施策に掲げている自治体は他にもあると思いますが、環境に関心の高い人の勉強会になっているようなケースが多いようです。夜中までみんなが手伝ってくれて、イベントを成功させたのはすごいことだと思います。

村上 皆さんのモチベーションが高まるように仕掛けもしながら進めました。私は環境アドバイザーを講師として各地に呼んでもらおうと、営業のチラシを作って公民館やいろいろな団体に直接行ったり、商店街のおばちゃんとお茶を飲みながら話をしたり。また、環境アドバイザーが、いろんなニーズに対応するためには、レベルを上げていかなければいけないので、養成したら終わりではなくて、毎月勉強会を開催しています。
 私たちは話し方の練習会や資料の作り方をゼロから勉強しながら、試行錯誤して進めてきたので、結束力は強いですね。環境のことを伝えていきたいという意欲がないとそこまではつながらないかもしれません。

編集部 住民側から言うと、やはり行政側に打てば響くような人がいなければ自分は燃えないでしょうね。相互作用かもしれません。元気力というのは、まずそれがないと行政と民間が一体になって動く発火点がないように思います。
 遠藤さんは地域全体の力を使って環境と経済を組み合わせる仕組みをつくられています。例えば、駅前に地域の物産を地域通貨で買えるお店を開いたり、環境以外の人も協力しなければできないような仕掛けです。どうすれば他のことに関心を持つ人たちにも参加してもらえるような仕組みづくりができるのか教えてください。

遠藤 環境のための環境施策だけでは人は動きません。市民は環境だけでなくいろいろな活動をしています。その活動を環境というベクトルにうまく合わせ、さらにそれが活性化するための場をつくるのです。だから、最初に冷静な目で地域回りをしたのはその意味です。「元気力」というのでしょうか、ある程度その意図が見えて関わった人が自然に動ける状態、それが出てくれば民主的な地域づくりができると思います。
 僕がやりたいことを押しつけるのはまずい話ですし、民主的な地域づくりを役所の役割としてどのように支えるのか。それが地域づくりだと思うのです。

編集部 なかなかできないことですね。役所にいたら、民間と関わらなくてもいいと思う人が多いでしょう。遠藤さんは、いとも簡単にベクトルを合わせていけばよいと言われるけど、一歩踏み出してしまった後の責任を考えると結構重い一歩ですよね。遠藤さんのお話し振りだと、ふらっと地域に出て住民と接してきたようなニュアンスですが、相当密度の濃い地域回りをされたのでしょう。

小林 時間がないですよ。行政マンがふらっと地域回りできる時間はなかなかないものです。

村上 それはつくる気になればできると思います。今日は、もう外回りと決めるとか。

遠藤 野洲市では、1995年から「協働」という言葉はスタートしていたのですが、相手を知らない協働体というものはありえないのです。とりあえず市民の動きを調べないとできないものですから、地域を歩きました。僕ができることはしれたものですから。
 市民の皆さんはそれぞれ、地域の課題を解決するために活動しているのです。そもそも政策課題を持って、なんとかしようと活動しているのです。その力を借りて、優先順位の高い政策課題を解決していこうというものです。

編集部 自治体の中には、枠組みや仕組みをどんどんでつくっているにもかかわらず、住民自身が全然知らないというケースも多いようです。遠藤さんのように地元学的に地域をよく知って、どこにどんな人がいて何をやっているかということを知ろうとすることから始めるのは非常に大切ですね。

遠藤 伝票を切るという仕事があったり、工事をするという仕事があったり組織にはいろいろな仕事があります。何が良いという話ではなくて、組織は集合体だからいろいろな人がいていろいろな役割を担っている。どちらが上とか下とかではないのです。ただ、そのようなポジションの配置は必要だと思います。

行政の継続性を体現して得られる地域住民の信頼

小林 行政との協働という意味では、住民はさまざまな力を持っているのでそれをいかに引き出すか、活躍の場を与えたり、光を当てたりということが、高畠町はすごいのではないのでしょうか。

村上 最初の環境の講座では、環境アドバイザーが講座のために何回も集まって準備をしているのですから、人が集まらないのでは申し訳ないと思い、必死で友達や親せきに電話をかけて呼びかけました。みんなが頑張っているのでなんとか応えたいと思ったのです。
 そうすると、役場の人間とか住民という垣根がなくなってみんな同じ立場だと感じました。私も地域へ戻れば一人の住民ですし、線引きは必要ないのですが、なかなか線引きが消せないと、いろいろな人に会う度に感じています。

小林 人を集めるということは大変なことです。有名な講師を呼んで広い会場を用意したものの、結局、講師と2人だけだったと先輩が話してくれました。どんなに有名な人でも人集めをしないとイベントは成功しない、黙っていては絶対人は集まらないのです。

村上 キャンペーンをする時にただ広報誌に載せても、うちのレベルでは集まるのは多くて20人ぐらいです。どんなに良い副賞をつけてもそんなものなのですが、商店街のおばちゃんの口コミは心強い見方で、すぐ広がります。どれだけそういう人を地域の中に自分のつてで持てるかということが重要だと思います。
 しかし、「役所の人はその時は一所懸命だけれど、異動してしまうと、関係ないもの」と言われてショックでした。現状を見れば、そういうこともあるのでしょうが、変わらない、同じスタンスでやって少しずつ払拭したいと思います。

編集部 地域住民からすれば、役人は2年ぐらいで代わる、市長も4年で代わる。いなくなったら、何も関係ないよとあしらわれていることが多いでしょう。
 小林さんは発信力が高くて、環境の場面ばかりではなく、産業担当になれば、産業界にきめ細かく発信し、遠藤さんは地域とのつながりという意味からいえば「俺は2年間しか付き合わないよ!」というような関わり方はあり得ないわけですよね。村上さんも、線引きを超えた関係が始まっている。

小林 行政側から見ても民間の人と仕事の上で付き合いはありますが、でもこの人は多分これで終わりだな!という線引きはしています。中には間違いもありますが、この人とは深く付き合っていくだろうなというものもあります。名刺交換した人全部と付き合っていくことにはなりませんね。

村上 私は鏡の法則みたいなものだと思っています。こっちが本気で向かえば相手も本気で、中途半端に関われば中途半端にしか返ってこないと痛感しています。利害を求めてくる人も中にはいます。しかし、純粋に利益誘導ではなくて活動している人たちにはこちらも本気で応えますね。

遠藤 組織は個人が隠れるためにあるような側面もあります。隠れたいなら隠れたらいいと思います。人が変わってもある施策がずっと継続するということはないという前提で考える方がいいと思います。それよりも職員や地域の人のやる気が1%でも10%でもその人たちが力を発揮できる空気とか、制度はつくっておかなければだめだと思います。人の気持ちを変えさせようとするのではなく、仕組みを変えることが大事だと思います。

小林 1%はちょっと寂しいですけれど、ある程度自分が楽になるようなところまで、仲間を増やさないとやはり苦しいですね。環境もそうですけれども、楽しさを知った者としてはやるしかないのでしょう。だから、仕事以外の時間をそういうものに当てるのは苦ではないです。
 飯田から都会に出てきている若者たちがあちこちで飯田市の名前を聞いたり、飯田市はこんな楽しいことをやっているなと耳にした時、それでは帰ってみようとか、久しぶり親戚の顔を見たいなとか、そういう風に思ってくれればしめたものです。そういうことを一所懸命やっていたら結構、まちは変わるのではないでしょうか。

村上 いろいろと新しいことに取り組んで目立ってくると、その組織の中で特別視されてしまうことがあります。そうすると、今までと何も違いはないのにあの人は別物として見られてしまうのです。「そうではないよ!みんなもできるよ!」と思っていても、「私には真似できない」と言われてしまうことがあります。一般的には環境部署には行きたくないと言われます。私によほどこき使われると思っているみたいです。

遠藤 それはあり得ますね、こき使われるということはよく言われます。

次号につづく)

山形県高畠町
 山形県置賜地方の東部に位置する周囲を山に囲まれた面積約180km2、人口2万6,000人の自治体。稲作のほか、さくらんぼ、ぶどう、りんご、ラ・フランスなどの果物が生産され、まほろばの里(「周囲が山々に囲まれた平地で、実り豊かな住みよい所」の意)と呼ばれる。2003年度より毎年「笑エネキャンペーン」を実施(電気量を前年同月と比較しどれだけ削減できたか(削減率)を世帯対抗で競い合うもの)。応募世帯は、7,000世帯の町で1,200世帯に及ぶ。また、13人の環境アドバイザーを中心に、年間100回を超えるペースで環境学習を行っている。
村上 奈美子さん
村上 奈美子さん  山形県高畠町住民生活課環境推進室環境推進主査。環境を担当して8年目。以前は財政に席を置いていたが環境に移り、価値観や生き方が変わるくらいの大きな刺激を住民からもらい、仕事が本当に楽しくなったという。

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