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このコンテンツは、地球・人間環境フォーラム発行の「グローバルネット」と提携して情報をお送りしています。

第113回 原発事故による環境汚染と森林生態系への影響

  • 2013年6月13日

原発事故による環境汚染と森林生態系への影響

 福島第一原発の事故によって大気中に放出された放射性物質は、風に乗って移動、拡散した。海岸に立地する福島第一原発からは、海洋の方向に拡散した放射性物質も多い。陸上環境に拡散した放射性物質は主として降水と共に地表面に沈着し、その量が多い地域では、そこから放出される放射線によって空間線量率(地上での放射線の量)が高くなり、外部被ばく線量の増加をもたらしている。放射性物質は時間と共に環境中で移行し、一部は農作物や野生生物等の体内にも取り込まれる。

 事故によって非常に多くの種類の放射性物質が環境中に放出された。ヨウ素131は、半減期が8日と比較的短いが、放出量が多かったために、被ばくを考慮しなければならない物質である。とくに、人体に取り込まれたヨウ素は甲状腺に蓄積するため、事故直後の甲状腺の内部被ばくについては現在も評価のための取り組みが続いている。

 事故から1年以上が経過した現在、ヨウ素131を含めた半減期の短いものは消失し、環境を介した人の被ばくが問題となるのは、セシウム137(半減期30年)とセシウム134(半減期2年)である。

土壌表層付近にとどまっている放射性セシウム

 平面的な分布に加えて、土壌などの深さ方向の分布を知ることも重要である。事故後に実施された多くの調査によると、土壌中の放射性セシウムは土壌の表層付近にとどまっている。2011年4月に行われた筑波大学の調査によると、放射性物質は土壌の表層5㎝までにほぼ100%たまっていた。このようなデータは、除染の計画を立てる際の重要な情報となる。すなわち、表土を除去する際には、10㎝の深さまで削る必要はなく、5㎝除去すれば放射性物質のほぼ全量を排除でき、2㎝の除去でも大部分を処理することが可能である。こうした見極めは、除染の時間やコストを削減すると共に廃棄物を減らす効果がある。

 次に重要なことは、放射性物質の分布が、今後、時間と共にどのように変化するのかという点である。加えて、放射性物質の性質も変化する可能性がある。例えば、同じ量の放射性セシウムが土壌中にあっても、動きやすく植物に吸収されやすい形で存在するのか、土壌に固定された形で存在するのかによって、今後の動き方が全く異なる。

 1986年のチェルノブイリ原子力発電所の事故後に得られた多くのデータによると、土壌の表面に沈着した放射性セシウムは土壌の表層付近に長期間とどまり、深いところには移動し難い。これは、セシウムという元素が土壌中の粘土鉱物に吸着しやすく、放射性セシウムが一旦吸着(固定)されると非常に動き難くなるためである。土壌中での動きやすさは、農作物等の植物への吸われやすさにも関わってくる。チェルノブイリ事故によって汚染した畑で毎年農作物を作り続けたデータによると、農作物に取り込まれる放射性セシウムの量は、最初の5年程度で急激に低下する。これは、土壌中の放射性セシウムが粘土鉱物等に強く吸着するにつれて、放射性セシウムが土壌中に存在しても植物が吸収できない状態に変化したためである。

森林には放射性セシウムが長期間残留する可能性

 日本は国土の60%以上を森林が占め、福島県に限れば71%が森林で覆われている。大気中に放出されて地表に沈着した放射性セシウムの大部分が森林に存在する状況である。森林には放射性セシウムが長期間残留する可能性があり、外部被ばくに寄与したり、林産物に長期にわたる影響が出ることが懸念される。

 森林に入って来た放射性セシウムは、森林生態系の物質循環に伴ってダイナミックに移動する(図)。これは、セシウムが主要な栄養塩であるカリウムと同じアルカリ元素で、性質が似ているためである。また、森林内には放射性でない安定セシウムが存在する。したがって、沈着した後の放射性セシウムの動きは、元々存在するカリウムやセシウムと平衡状態になっていく(混ざっていく)過程であるともいえる。森林生態系の栄養塩サイクルに伴う循環の中で、放射性セシウムは生物に利用されやすい形態を維持し、その結果、森林のキノコや植物中の放射性セシウムは比較的高濃度に維持される可能性が高い。

森林に沈着した放射性セシウムの長期的な動き
図1:森林に沈着した放射性セシウムの長期的な動き
(作成=ポンプワークショップ)

 3月11日の事故当時は、雑木林は春を待つ状態で、落葉樹はまだ葉を出していなかった。したがって、主として降水と共に落ちてきた放射性セシウムは、樹冠に捕らえられることなく、前年までの落ち葉が積もった土の表面に直接沈着した。2011年の夏に実施された林野庁や文部科学省の調査で、雑木林の放射性セシウムの大部分が土壌表層の落ち葉に存在していることが明らかになっている。一方で、常緑で葉を有していたスギ林においては、落ちてきた放射性セシウムの一部が樹冠に捕らえられ、残りが土壌へと沈着した。森林中の放射性セシウムの半分程度が樹冠などの樹木に存在し、残りの半分が落ち葉を含めた土壌に存在することがわかっている。

森林生態系の汚染を総合的に判断する指標となる野生生物

 今後、森林内での分布状況は時間と共に大きく変化する。葉への付着物質は、降水によって次第に地表へと洗い落とされる。また、落葉は、葉に付着したセシウムを伴って地面へと移動する。スギなどの常緑樹の場合も、古い葉は落葉するので同様である。森林土壌表層の落ち葉は有機物であり、やがて土壌動物や微生物の活動によって分解されていくが、その過程で、含まれていた放射性セシウムは微生物等に移行するか溶け出す。溶け出した放射性セシウムは、落ち葉層の下の土壌へと移行する。

 土壌へ移行した放射性セシウムは、そのまま下の方へ抜けてしまうのではなく、菌類等の微生物や植物などの働きにより、森林内に「動きながら」とどまる傾向がある。例えば、樹木の根から吸われた放射性セシウムは、樹木の中を移動して葉に至る。そして落葉が始まると、また森林土壌の最表層へ戻ることになる。このようなリサイクルの中で放射性セシウムは保持され、森林の外部には出にくい状態となっている。

 森林は林業の場であると同時に、燃料や堆肥、キノコや山菜等の供給源である。森林の汚染は、これらの林産物を利用する生活や産業に大きな影響を与えている。落ち葉層の分解が進むにつれて、今後、土壌から樹木に経根吸収される量が増える可能性があり、樹体内の放射性セシウム濃度は長期的に注視する必要がある。

 福島第一原発事故の後、野生キノコに高い放射性セシウムが観測されている。原木栽培キノコ等も食品の規制値を超えている地域が一部ある。キノコが放射性セシウムを蓄積しやすいことは、今回の事故の前から知られており、とくに、チェルノブイリ事故の後は、多くのデータが蓄積されている。

 また、シダ植物に高い放射性セシウム濃度が見られる場合が多いことも知られている。データは多くないが、日本人が好む山菜の一部はシダ植物であり、福島第一原発事故に伴って濃度が高くなっている例が報告されている。同様に、イノシシ等の野生動物においても高い濃度の放射性セシウムが報告されている。動物の食性が放射性セシウムの濃度を左右することが知られており、食物連鎖の上部に位置する野生動物は、森林生態系の汚染を総合的に判断する指標として優れている可能性がある。

 (2012年10月11日東京都内にて)

グローバルネット:2012年12月号より

 

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